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シャンパン

皆様のおかげで日刊ランキング一位ありがとうございます!

 ピンポーンっと呼び鈴が鳴った。

 私は覗き穴から呼び鈴を鳴らした人を確認した。

 そこには、シャンパンを持ってくるといってから30分がたっていたからもう来ないのかと思っていたイケメンサラリーマンの五十嵐さんが立っていた。

 

「遅かったですね?」


 ドアを開けて私はその理由が解った。

 五十嵐さんはラフなジャージ姿で、髪の毛が濡れている。


「風呂に入ってから来ました」

「髪の毛乾いて無いですよ」

「あっ、すみません。急いできたのと、家にドライヤー無いので」

「タオルとドライヤー貸してあげます。上がって下さい」


 五十嵐さんは珍しいものを見るようにキョロキョロしながら私の家に上がった。


「何か変ですか?」

「いえ、可愛い部屋ですね。俺の部屋はあまり物が無いので」

「あまり物が無い?」

「ベッドとテーブル………ぐらい」

「何にもないじゃ無いですか!」

「困らないので、あ、テレビ自体久しぶりに見ました」


 私は五十嵐さんにタオルとドライヤーを渡しながら思った。

 この人現代人なのだろうか?

 いや、貧乏とか?

 五十嵐さんはすまなそうに髪を乾かしはじめた。


「テレビも無いんですか?」

「必要なくて、あと、冷蔵庫はあります。洗濯機も………乾燥機能がついてるので物干し竿は無いです」


 良い洗濯機じゃないか!


「雨降ったら借りに行って良いですか?」

「はい。勿論」


 この人警戒心は無いのだろうか?


「知らない人をあまり家に上げない方が良いですよ」

「………そっくりそのままその言葉プレゼント・フォー・ユーですよ。しかも、水島さんは女の子なんですから気を付けてください」


 本当だ!

 私、何で五十嵐さん家に上げてんだ?

 あ、潰れたケーキを見つめる顔が何だか可哀想で、家に上げ無いって選択肢が無かったんだ。


「シャンパンです。どうぞ」


 髪が乾くと、思い出したように五十嵐さんが渡してくれたシャンパンは本当に高そうなシャンパンで私はシャンパングラスを出しながら内心おおはしゃぎだった。

 貧乏女子大生にはお酒は飲み会でしか飲めない代物だから嬉しい。

 冷蔵庫から安い5個99円のお摘みチーズをお皿に並べて出してシャンパンを開けようとマッシュルームみたいなコルクを少し引っ張ってみる。


「俺がやります」

「お願いします」


 五十嵐さんが慎重にコルクを押し上げるとポンッと派手な音とともにコルクは壁にぶつかり五十嵐さんの顔に目掛けて飛んでった。

 五十嵐さんは物凄い反射神経でそのコルクをナイスキャッチし、それを見た私と体感した五十嵐は呆然としてしまった。


「い、五十嵐さん大丈夫ですか?」

「ビビった~」


 私達は二人で思わず笑ってしまった。


「五十嵐さん格好良すぎ」

「自分でもビックリするぐらい早く動けてたと思います。明日筋肉痛になったらどうしよう」

「筋肉痛って!」


 五十嵐さんは笑い続ける私をほっぽって、シャンパングラスにシャンパンを注いで私に手渡してくれた。

 私達は二人で合わせたわけでもなく、グラスをかたむけてハモった。


「「乾杯」」


 二人同時にシャンパンに口をつけた。

 シュワシュワと喉を通るシャンパン。

 五十嵐さんが居なかったらプハッっておっさんがビールを飲んだ後みたいに言っていたかもしれない。


「プッハ~」

「五十嵐さんズルい!」

「えっ?」

「私もプハッってしたかったの我慢したのに!」

「おっさんの特権です」

「五十嵐さんいくつ?」


 五十嵐さんは困り顔で言った。


「29です」

「二十代はおっさんじゃないです!」

「ありがとう」

「ありがとうじゃ無くて、プハッ禁止」

「理不尽!水島さんもプハッって言えば良いと思う」

「………そうかも、おっさんみたいでも引かないでくださいね」

「勿論」


 五十嵐さんはチーズを口にほおりこんでから言った。


「ケーキは?」

「ああ、そうだった」


 私は冷蔵庫の野菜室に入れていたケーキの箱とスプーンを持って五十嵐さんのもとに向かった。

 ドキドキしながらケーキの箱を開けると二人でため息をついた。

 原型は残ってないし、奥によってるし箱の方にも3分の1がへばりついていた。

 サンタの形の砂糖菓子もクリームに埋もれてかろうじて頭の帽子が見えている。


「箱をください」

「へ?」

「先にへばりついてるのを食べます」

「あ、はい」


 私が箱を渡すと五十嵐さんはスプーンを箱の中に突っ込んでケーキをすくって食べた。


「うま!」


 そんな五十嵐さんの言葉に私もケーキをすくって食べてみた。

 ああ、本当に美味しい。


「崩れてなければ………」


 五十嵐さんが小さく呟いた。


「崩れてなければ、五十嵐さんはこのケーキ食べられてませんよ」

「あっ、そうか………」

「私もシャンパンにありついてないです」

「じゃあ、水島さんにぶつかった甲斐があった」

「ですね」


 私達はまた笑った。


「水島さん、ケーキ屋さんの仕事してるんですか?」

「いえ、いつもはスーパーのお惣菜を作るバイトをしてます」

「スーパーってケーキくれる?」


 私は五十嵐さんにケーキ屋さんでバイトするはめになった経緯を話した。


「裏切り者~って思ったけど仲が良い友達だし仕方ないかって思ってケーキ屋さんに行ったらミニスカサンタのコスプレで接客で寒くて辛かった~」

「………女の子のサンタは大変ですね~俺も大学生の時ピザ屋の配達、サンタのコスプレでやったことあるけど暖かかったですよ。スクーター乗ってる時はダウンコート着てて良かったし、スクーター下りてコート脱いでピンポーンって感じでした」

「羨ましい!」


 クリスマスのミニスカサンタの苦労をもっと皆知ってほしいものだ!


「俺も今日は同僚が皆デートやら家族サービスやらで帰ってしまって残業させられて大変でした。俺は何故、細胞分裂出来ないんだろう?って思いながらの残業でした」

「辛い!さあ、シャンパン飲んで忘れましょ!」

「シャンパンすぐなくなりそうですよね?」


 気がついちゃった?

 家にお酒なんてないよ!


「買って来ます?」

「えっ?………でも」

「明日はバイト?」

「いえ、バイトは無いし、学校は冬休みです!」

「俺は仕事あるけど、酒強いから大丈夫ですよ」

「私、貧乏学生です。割り勘でも辛い」


 五十嵐さんはふにゃっと笑った。

 

「俺は経済的余裕のある社会人です。奢ります」

「お酒!飲みたいです!」

「じゃあ、買いに行ってきます」

「一緒に行きます!」

「えっ?」

「私が選んで良いですか?」

「………良いですよ」

「日本酒にしようか焼酎にしようか」

「お酒強いでしょ」


 私がテヘって顔をすると五十嵐さんはニコッと笑った。


「女の子って可愛い物しか口にしないと思ってました」

「そんなわけ無いじゃ無いですか!タコワサとか大好きですよ!」

「俺も好きです………食いたくなってきた」


 私達はそそくさとコートをはおり、近くのコンビニまで急いだのだった。

私もタコワサ大好き~!

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