相談 月斗目線
寒い。
俺はやってはいけないことをしてしまった。
反省はしている。
一樹君にもちゃんと報告した。
酔って花さんにキスをしたのだと。
今朝起きるまでは花さんにキスしちゃったんだ~覚えてないなんて勿体ねぇ~って思ってたんだ。
今朝、目が覚める前に見ていた夢。
頭の片隅であの日の出来事だって理解していた。
………キスって、2回してる!
ああ、絶対ドスケベだって思われてる!
俺は終業のチャイムとともに、今日何度目か解らないため息をついた。
「課長大丈夫ですか?」
「何が?」
「さっきから、ずっとため息をついているので、悩みごとでしたら私が聞きますよ!」
「抜け駆けしてんじゃないわよ!」
「そうよ!」
「そうそう!」
俺が苦笑いを浮かべると、志村がよってきて言った。
「女子大生と何かあったのか?」
思わずフリーズしてしまった。
「まさか、女子大生と一線を越えちゃった?」
俺からすれば越えてしまった。
が、志村のいう一線ではない。
俺は眼鏡を中指で押し上げて言った。
「越えてない」
「じゃあ、好きだってやっと気づいたとか?」
好き?
花さんは好きだ。
ずっと、側に居たくて抱き締めたくてキスしたくなるぐらい好きだ!
………?………あれ?
「月斗、本気でキョトンとしてんじゃねぇよ!なんも不思議じゃねぇだろ?」
「えっ?俺、花さんが好きなの?」
「はぁ?好きだろ?女子大生の話してる時顔ユルユルじゃねぇか!」
俺、花さんが好きなんだ。
だから、酔った勢いであんなこと………
「で?女子大生と何があった?」
「………言いたくない」
「言わなきゃアドバイス出来ないだろ?」
「アドバイス………」
花さんは、俺の事を飲み友達としか思っていない。
俺が花さんを好きだって解ったら会ってくれなくなるんじゃないだろうか?
今の関係は本当に心地いい。
これを、俺の感情だけで壊して良いのか?
「女子大生とイチャコラしたいんだろ?」
したいけど、したらまずいことも解っている。
「お前と一緒にすんな」
「勿論俺は可愛い女子大生と知り合いになったらイチャコラしたい!」
「欲望丸出しだな」
「悪いか!」
自信満々に言う志村に俺は笑って見せた。
「欲望丸出しで恥ずかしくないとか、ある意味羨ましくなるよ」
「月斗もたまには欲望爆発させちゃえよ!」
志村の言葉に俺は頭を抱えたくなった。
「……欲望爆発……」
酔った勢いで爆発させちゃったんだ俺。
好きも言ってもいないのに。
「志村、相談にのってくれるか?」
「お、珍しいな!」
「二人だけで話したい」
「なんだ?深刻な話か?」
「深刻だ」
「良いぜ!女の子達はどうすんだ?」
俺は成り行きを見守っていた女性達に苦笑いを浮かべて言った。
「今回は志村に相談することにした。心配をかけてすまない。明日には気持ちをきりかえるから安心してほしい。では、お疲れさま」
俺はそれだけ言うと、志村に背中を押されて帰り支度をはじめた。
帰り際、部署内が騒がしかったが気づかないふりをしたのは言うまでもない。
個室のある飲み屋で、志村と向かい合って焼き鳥の盛り合わせをつつきながら俺はこの間の事を志村に話して聞かせた。
「許可もないのに二回もキスしたって?お前、訴えられても文句言えねぇぞ!」
「………解ってる」
志村はビールを飲み干すと言った。
「責任とらせてください!って言ったら?」
「はぁ?」
「お詫びに嫁に来いって言えば?」
それ、お詫びか?
俺しか得しないだろ?
俺は舐めるように日本酒を飲みながら呟いた。
「参考にならん」
「俺もキスしたい!」
「話聞く気ないだろ?」
「いや、聞く気あったんだけど羨ましい事ばっかじゃん!そりゃ聞く気も失せるってもんだろ?」
まあ、俺だってラッキースケベの神様に今の俺は好かれているって思う。
そのせいで話を聞いてもらえないのは解せない。
「まあ~月斗がまともな恋をしたってだけでも奇跡みたいなもんだ。ちゃっちゃか告っちゃえよ!」
「フラれたら今までみたいにいられなくなる」
志村は呆れたように言った。
「で?他の男にとられちゃうのか?」
花さんが、誰かのものに?
嫌だ!
「それだけは嫌だ!」
「なら、ビビってないで告れよ!フラれたら慰めてやっからさ」
「………うん」
持つべきものは友ってやつだろうか?
俺は志村の言葉に勇気をもらった気がしていた。
その後俺は志村と終電間際まで飲み続け告白について語り合ったのだった。
私の風邪が良くならない。
困った。