好きの自覚
期待はずれでしたらごめんなさい。
久しぶりの大学に行くと、岬がすでに教室に来ていてなんだか安心した。
ここ数日、ツッキーさん泥酔事件のせいで動悸と息切れに悩まされていたからかも知れない。
「水島ちゃんあけおめ!」
そこに、同じ講義をうけている寺田君が挨拶してきた。
「寺田君明けましておめでとう」
私が岬の隣の席に座ると、寺田君が私の隣に座った。
何故、横に?
私は寺田君を気にしないで岬の方を向いた。
「岬、質問していい?」
「勉強以外なら」
「タコワサおじさんの事なんだけど」
「ああ、何?」
「………」
キスされて意識してしまっているって言っても良いんだろか?
「エロい事でもされた?」
「!」
「マジで言ってんの?何時殺しに行く?」
「殺さないよ!……キスされただけだし」
ごめん詳しくは言いたくない………
「付き合ってないのにキスされたら犯罪なの!解ってる?」
「でも、向こうは記憶が無くなるほど酔ってて」
「酔ってたからって許される事じゃないから!」
横に居た寺田君に肩をつかまれた。
「もう、そんなやつと会ったら駄目だ!」
えっ?勝手に人の話聞かないで欲しいんだけど!
「タコワサおじさんは何だって?」
「何?とは?」
「覚えてなくても言ったんでしょ?キスしやがった!って」
言ったと言うより私の反応でバレたってのが正解だと思う。
「土下座して謝ってくれたよ」
「土下座ね~………で、花はどうしたいの?」
「どう?とは?」
「タコワサおじさんと二度と会わないか、どうかでしょ?」
ツッキーさんと会わないなんて嫌だ。
むしろ、ずっと側に居たい。
「会わないなんて嫌だ……」
「じゃあ、タコワサおじさんのこと好き?」
ああ、この好きは今まで思っていた好きとは種類が違うんだ。
「………好き」
どうしよう………ツッキーさんが好きだ。
その時、教室をのぞく一樹の姿が目に入った。
「一樹?」
「花ちゃん!」
一樹は私を見つけると走りよってきた。
「誰?」
寺田君に聞かれて私は苦笑いを浮かべた。
「弟」
寺田君ははじめましてだが、岬は違う。
「過保護な弟。花に彼氏が出来ない理由」
「岬ちゃん久しぶり」
一樹は岬に笑顔をむけてから寺田君を睨み付けた。
「誰か知らないけど花ちゃんに寄んないで、邪魔!」
「寺田君は只の同級生だよ」
「花ちゃんがそう思ってても、コイツは違うかも知れないでしょ」
一樹はスマホをいじると私に見せた。
「そんなことより月兄さんがメールしてきたんだけどさ、花ちゃんまたノーブラで月兄さんを家にあげたの?」
「はぁ?花、そんなことしたの?」
「うっ、違うよ!わざとじゃないし、もうしないって言ったよ」
一樹はスマホをいじって、メールを見せてきた。
『月斗です。すみません。酔って花さんにキスしてしまったようです。申し訳ないのですが、覚えていないのです。ですが、けじめとして一度殴られた方が良いでしょうか?花さんは優しいので忘れるから良いと言ってくださいましたが、俺が悪いのは明白なので検討よろしくお願いいたします。』
業務メールか?って感じのメールに驚いてしまった。
「殴っちゃ駄目だよ!」
「殴んないよ!花ちゃんの答えによっては殴るかも知んないけど」
「私の答え?」
一樹は優しく笑うと言った。
「花ちゃんは月兄さんと付き合うの?」
私は思わず固まってしまった。
「か、一樹……」
「何?」
「私は、ツッキーさんが好きだけど……ツッキーさんは彼女欲しくないんだよ」
「まあ、花ちゃんは好きだろうね。見てれば解るよ」
「解るの?」
「解るよ。だから、俺は月兄さんって呼んでるんじゃん」
言われてみれば、最初からお兄さんって呼んでた。
「そんなに解りやすいの?」
「二人を見たらすぐ解るって、そんな事より月兄さんをオトス方法考えなよ。あんな良い男、今後現れないと思うよ」
一樹の言葉に割り込んできたのは岬だった。
「えっ?タコワサおじさんって良い男なの?」
「うん!インテリ眼鏡でイケメンで背が高くて29歳、管理職でお金持ってて優しい」
「写真ないの?」
「ないよ」
「紹介しなさいよ!」
「岬ちゃん見たら惚れちゃうよ」
「私、彼氏居るもん」
岬がスマホを開き見せたのは待ち受けになっている幸村先輩の写真だった。
「普通」
「格好良いもん!」
「月兄さんにくらべたら普通」
「はぁ?」
岬が私の方を向いた。
「そんなイケメンなの?」
「………………うん」
私は思わず頷いていた。
「見たい!」
「じゃあ、ツッキーさんに写真とって良いか聞くよ」
「絶対だからね!」
スーツの写真が良いな~。
「で?簡単な作戦でいけばノーブラ作戦?」
「忘れて!」
「忘れないから」
「お願いだから!」
「大丈夫!月兄さん花ちゃんのオッパイがちょうど良いって言ってたから!」
「忘れて!」
「こないだの月兄さんの新年会の時、巨乳美人が月兄さんの腕にオッパイ擦り付けてたけど無反応だったから大丈夫!」
「………巨乳美人さん」
そうだ、ツッキーさんの周りには美人で巨乳が選り取り緑だ。
「ツッキーさんと付き合える気がしない!」
「………端から見たらもう付き合ってるようなもんでしょ」
「………」
「エロい事してないだけでしょ?エロい事してもらえるようにノーブラ作戦」
「ノーブラ引っ張りすぎ!」
「次、ノーブラだったら喰って良いって言ってあるからきっとエロい事してくれるよ」
エロい事………
私は色気たっぷりなツッキーさんを思い出して赤面してしまった。
「思い出して赤面とかエロ!酔った月兄さんとどこまでしたの?」
「ど、どこって………キスだけだもん!」
「………花ちゃん、嘘下手すぎ」
一樹はなんなの!
「花ちゃん!」
「キスだけ!……二回………」
「月兄さんムッツリスケベだな」
やっぱりそうなのか?
「それでも一緒に居たいんだよね?」
「………うん」
「じゃあ、月兄さんにメールしといてあげる」
「何を?」
「殴んないから、責任とってやってって」
「余計なことしないで~」
「酔った月兄さんがしたことは、月兄さんが内心したいことだよ。そんなこと考えてる月兄さんとまだ一緒に居たいんでしょ?じゃあ、責任とってもらいなよ」
私は耳まで熱くなるのが解った。
私はツッキーさんにされたことが嫌じゃなかったのか?
いきなりで怖いって思ったけど、あれが私のペースに合わせてくれていたら?
最初にキスした時のまま、ゆっくりされていたら流されていたんじゃないのか?
は、恥ずかしい!
「ど、どうしよう!まともにツッキーさんの顔が見れないかも知れない!」
「好きになったんだから頑張らないと」
「……一樹………」
「違う?」
「………ツッキーさんはアピってくる女が嫌いだよ」
「………花ちゃん!頑張れ!俺、授業あるから!そろそろ行くね!」
「うぁ~ん、面倒にならないでよ~」
「応援してるよ!」
一樹はヒラヒラと手をふると去っていった。
「花と恋話できる日がくるとはね!」
「岬!相談にのってくれる?」
「当たり前でしょ!モテメールの打ち方から教えてあげる!」
「あっ………」
「どうしたの?」
私はその時、はじめて自分がツッキーさんの連絡先を何一つ知らないことに気がついたのだった。
花ちゃんどうするんだ!
私は何も考えてないぞ!
どうやって頑張るんだ!
………はい。
考えます。