花ちゃん 一樹目線
息子が中耳炎になってしまった。
可哀想。
俺の姉ちゃんは可愛い。
出来ることなら彼氏なんて一生できなければ良いと思ってる。
そんな姉ちゃんが一人暮らしをはじめた時は俺も一緒に住むって言って滅茶苦茶嫌がられた。
スゲーショックだった。
でも、姉ちゃんは俺の面倒を見るのが面倒臭かったんだ。
………解ってる。
俺はシスコンだが、姉ちゃんはブラコンではない。
まあ俺だって、兄貴ほどのシスコンじゃない。
兄貴は姉ちゃんが一人暮らしするって聞いて土下座して止めてくれって泣いてた。
姉ちゃんはそんな兄貴になれきってるから無視してたけど。
姉ちゃんに虫がよらないように俺は姉ちゃんを小学生の時から゛花ちゃん〝って呼んでる。
だって、弟じゃなくて彼氏だと思ってもらえたら変に男がよってこないだろう。
それなのに、お隣に住んでるサラリーマンと毎日のように会ってるなんて………
はじめて会ったサラリーマンは、ビックリするぐらいイケメンでインテリで背が高くて嫌みなぐらい格好よかった。
名前は五十嵐月斗。
名前まで格好良いとかムカつく。
それなのに………イケメンにはイケメンなりの悩みがあって………憎めないんだよ!
月兄さんは花ちゃんとよく見つめ合う。
のほほ~んとマッタリと甘いオーラを出しまくってるのに付き合ってない………らしい。
花ちゃんが嘘をついてるようには見えない。
月兄さんも嘘をついてるようには見えない。
飲み友達に心地よさを感じている二人。
………二人が一緒にいるのを見て俺が思うのは、二人はお似合いって事。
これ以上波長が合う人間居ないよね?
二人が付き合いだしたらなんて考えたくない!
ってはじめて月兄さんを見たときは思った。
けど、花ちゃんと一緒にいるのを見ると………この二人はずっとこのマッタリ雰囲気で突き進むに違いないって思った。
「弟君、これ食べる?」
「食べる」
「玉子焼きも美味しいよ」
「花ちゃんの玉子焼き好き」
「俺も」
こたつに座りマッタリつまみを食べ、酒を煽る二人。
俺に気を使ってくれる月兄さん。
俺は未成年だから酒を飲めない。
そんな俺にニコニコしながらお総菜をすすめてくれる月兄さんは良い人だ。
「花さん、お酒つぎましょう」
「ありがとうございます」
ユルユルの笑顔の花ちゃんが滅茶苦茶可愛い。
そんな緩みきった笑顔作っちゃうぐらい好きなのに付き合わないの?
俺、月兄さんなら応援しても良いよ。
月兄さんなら花ちゃんを絶対幸せにしてくれると思う。
絶対に口に出しては言わないけどね。
「弟君」
「一樹だよ月兄さん」
「一樹君は大学生?」
「うん。月兄さんは?」
「……しがない中間管理職だよ」
中間管理職って偉い人だよね?
月兄さんインテリっぽいから似合うな~。
月兄さんは中指で眼鏡をクイッと押し上げると言った。
「一樹君、酒飲めるようになったら絶対一緒に飲もう」
「うん。月兄さん酔ってる?」
「大丈夫」
「酔ってる人ほど大丈夫って言うんだよ」
「………じゃあ、今日はこの辺で帰ります」
「えっ?帰っちゃうの?」
えっ?あっさり帰っちゃうの?
俺がいるからお泊まりしないとか?
「酔いつぶれたりしない限りは帰りますよ」
「そうなの?」
「友達と言えど女性の部屋にお泊まりは……ね!」
ああ、月兄さんは本当に良い人だ。
ちゃんと花ちゃんに手を出さないように気を使ってくれる。
こんな良い男もう現れないじゃないか?
ってか、こんな兄貴が欲しい!
月兄さんが帰ると花ちゃんがこたつを片付けて布団を敷いてくれた。
「花ちゃん」
「どうしたの?」
「月兄さん、良い人だね」
「でしょ!」
「付き合っちゃいなよ」
俺の言葉に花ちゃんは驚いた顔だった。
「あんな良い男居ないよ」
「それは知ってる」
「他の女にとられても良いの?」
「そんな目で見たことないし」
何でだよ!
あんなイケメンと知り合ったら付き合いたいって普通思うだろ?
「俺は月兄さんが花ちゃんを幸せにしてくれる人だと思うよ」
「ツッキーさんは彼女要らないんだって、そんな目で見てフラれたらもう飲み友達に戻れないじゃん」
ああ、今が居心地良すぎるんだ。
………まあ、いっか。
どうせ、二人は他では満足できないはずだからいずれくっつくか。
「他の女にとられて吠え面かくなよ」
「………ツッキーさんは彼女つくらないもん」
ああ、月兄さんの存在は暫く兄貴には秘密だな。
月兄さん殺されちゃう。
俺だって花ちゃんを誰かにとられるなんて絶対に嫌だけど二人を見てたら解っちゃった。
花ちゃんはツッキーさんとお似合いだって。
仕方ないから応援するよ。
俺はそんなことを勝手に考えながら眠りについたのだった。
娘は手で編む編み物にはまりだし、いちいち聞いてきます。
正直、面倒臭い。