弟君 五十嵐目線
私も風邪引きました。
風邪薬は偉大です。
花さんに5分待ってほしいと言われて、玄関先で待つことになった。
奥から悲鳴が聞こえたが大丈夫だろうか?
「お兄さんは花ちゃんが好きなの?」
花さんの弟君が話しかけてきた。
「好き………一緒にいるのがスゴく好きです」
「………イケメンなのに?」
「顔は関係ないと思います」
「あるでしょ。女なんてなにもしなくても寄って来るんでしょ?」
「………そうですね~金のかかる面倒臭い女なら寄って来ますよ。花さんみたいに、お酒買ってきただけで瞳をキラキラさせる類いの人ははじめて会いました」
「惚れちゃった?」
弟君の視線が鋭くなった。
シスコンなんだな~。
でも……俺も花さんが、゛姉〝ならシスコンになっていただろう。
「惚れたっていうより、癒されてます」
「動物を餌付けしてるみたいな?」
「リスザルににてますよね花さん」
「プードルじゃなくて?」
「見た目はティーカッププードルですよね」
「リスザルって凶暴なんだぞ」
知らなかった。
リスザルって凶暴なんだ。
花さんは凶暴かな?
………こないだの胸を揉んじゃった時の耳まで真っ赤であたふたする花さんは小動物みたいで可愛かった。
思わずホッコリしてしまった。
「お兄さん、名前は?」
「五十嵐月斗と言います」
「名前まで格好良いとか嫌み?」
「そうですか?」
その時、部屋の奥から花さんがひょこっと顔を出した。
「上がって良いですよ~」
俺と弟君はお互いに顔を見合わせると、言った。
「入ったら」
「では、お言葉に甘えてお邪魔します」
「俺、認めた訳じゃないから」
「付き合ってる訳じゃないんですが」
俺が苦笑いを浮かべると、弟君は不満そうに鼻を鳴らして部屋の奥に行ってしまった。
俺は苦笑いを浮かべるとその後を追った。
いつものこたつの定位置には、すでに弟君が座っていた。
仕方がないから、花さんが座るのとは別の所に入ろうと決めた。
「一樹、そこツッキーさんの所だから、テレビの前に座って」
「テレビ見れないじゃん!」
「一樹はいつもテレビ見ないでスマホじゃん!ほら、退いて」
花さんはお皿にお総菜を盛りつけてこたつに置きながら、弟君を追いやり俺を定位置に促してくれた。
なんだか申し訳ない。
弟君に滅茶苦茶睨まれた。
気まずい。
「はい、どうぞ」
なんだか、食卓が豪華だ。
いつもは、つまみになりそうな物を少しなのに。
弟君のためか?
「一樹がバイト先に顔出したりするからお総菜持って帰れって皆がつめて持たせてくれたよ」
「皆良い人だね」
「彼氏と間違えられて皆にチャラ男はやめときなよ~って言われたからの、お詫び」
「チャラ男じゃねぇよ!」
思わず笑ってしまった。
「ほら、ツッキーさんも食べながらさっきの続き聞かせて」
「何の話でしたっけ~」
すっとぼけてお総菜を眺めていると花さんは俺の前に冷酒の入ったグラスを置き、ニコッと笑った。
「巨乳美人にホテルに連れ込まれそうになった話」
忘れてなかったか。
「ホテルに行っちゃったの?」
「行くわけないでしょ」
「何で?巨乳美人なんでしょ?」
「巨乳で美人でもなんかグイグイ来られると引くでしょ?」
弟君の眉間にシワだ。
「イケメンムカつく!巨乳美人なら俺は何でも良いのに!」
「クリスマスはホテルの高級ディナーにアクセサリーのプレゼント!バレンタインはチョコあげたからホワイトデーは財布買って!誕生日は特別だから、ブランドバッグが欲しい!って女が良いの?紹介しようか?」
「………」
「俺に寄ってくる巨乳美人なんて皆俺をブランドバッグか、ATMぐらいにしか思ってないんですよ。体の関係があっても割に合わない」
俺は冷酒を煽った。
「うまく逃げられない?」
花さん、何故不思議そうなんだ?
「花さん、一回ヤったら彼女にしたって認めたようなもんなんですよ」
「………うっかりって事は?」
「うっかり?そんなの通用しません。同じ会社の女だったりしたら地獄です。結婚までとんとん拍子にベルトコンベアーで運ばれます」
「巨乳美人怖い」
弟君の顔色が悪い。
「ホラーの話でしたっけ?」
花さんが苦笑いを浮かべた。
「花さん、ホラーな話ではないですよ!本当のホラーは同じマンションに同じ会社のやたら触ってくる女が越してきて偶然ですね~なんて言って来る方が余程ホラーです。引っ越しますよね~流石に」
花さんも弟君も顔が真っ青だ。
「イケメン可哀想」
「ツッキーさん、それ、ストーカーだよ」
「巨乳美人なんて相手にしなきゃ害はないですよ」
花さんはおれのグラスに新しい冷酒を注ぐと言った。
「飲んで忘れましょう」
「ですね。花さんに癒されます」
弟君に肩を叩かれた。
「お兄さん。花ちゃんで癒えるならいくらでも使って!癒されるだけなら許すから」
「ありがとうございます」
「花ちゃんがもらってきたお総菜食べよう!」
弟君に少しだけ許されたようだ。
「………弟君は飲まないの?」
「一樹は未成年です。でも、二十歳になったら飲んだくれに仲間入りします」
「そうなの?」
「家、飲んだくれ一家なので!一樹もお酒は強いはずです」
「花さんお酒強いですもんね」
へにゃんと可愛い笑顔を花さんが作ると、弟君が言った。
「家で一番酒が強いのが花ちゃんなんだよ!前に仲間内で居酒屋行ってウォッカをショットで飲みまくってたら周りにいた男が皆離れてったらしいよ」
「乗りと勢いで周りは引くんだよ」
花さんが遠い目をしていた。
「美味しかったなら良いんじゃないですか?」
「ツッキーさんのそういうとこ癒されます」
どういうとこだ?
なんだか解らないから笑っておいた。
「………花ちゃん、お兄さんの事好き?」
「うん!大好き」
弟君にまた睨まれた。
その後、弟君はこたつに突っ伏すと言った。
「月斗さんだっけ?つ、月兄さん?………あぁぁぁぁぁぁ~一回泣いて良い?」
弟君が勘違いして壊れた。
「なんで泣くの?本当に変な子なんだから」
「花さん、弟君は勘違いしてますよ」
「勘違い?」
「花さんが俺とお付き合いすると思い込んでるみたいです」
「馬鹿じゃないの?」
弟君はショックをうけた顔を花さんにむけた。
「ツッキーさん、弟がごめんなさい。一樹!ツッキーさんは私の大事な飲み友なの!勘違いしない!」
「………月兄さんは?花ちゃんを彼女にしたくないの?」
「飲み友達が調度良い気がするけど?」
「………はぁ?………いや、二人がそれで良いなら良いけど………?………うぅん~」
俺は筑前煮をつつきながら花さんに視線をうつした。
花さんと目があった。
花さんとの今の関係は居心地が良い。
だからこそ、今のままで………
本気で花さんに彼氏が出来ないと良いな。
今日、弟君が花さんの部屋から出てきた時心臓が止まるかと思った。
花さんに彼氏ができたら俺はもうこの幸せな笑顔を見ることがなくなるんだ。
それは、嫌だ。
「筑前煮どうです?」
「今まで食べた中で一番旨いです」
「それ、私が作ったやつです」
「花さんは良いお嫁さんになりますね」
「相手が居ないのに嫌みですか?」
「………呪われろ~」
「それ!なんかききそうだから止めて下さい!」
俺達はクスクス笑った。
それを見ていた弟君が首をかしげていたが、俺は気にもしないで筑前煮を食べ続けたのだった。