無防備
寒い。
風邪うつった。
なんたる失態。
なんたる暴挙。
ワインとチーズに浮かれてこたつのコードに引っ掛かって転び、ツッキーさんに助けてもらった。
不可抗力により、たいしてでかくもないオッパイを触らせてしまった。
しかも、痴女のようにノーブラだった私。
風呂上がりだったんだよ!
ツッキーさんは従兄のお兄さんみたいなものだから気にもしてなかったけど、痴女だって思われたに違いない。
かといって、今からブラジャー着けてきますとか言う方が痴女じゃないのか?
頭がパンクしそうな私を立たせてくれたツッキーさんの困ったような苦笑い。
インテリでも、何を言ったら良いか解らないこの事態。
謝ったよ!
謝る以外に何が出来るよ!
困り顔のツッキーさんにご馳走さまとか言われて………言わせてしまった!
やっちまった~。
忘れるって言ってくれたけど、時間がかかるって………嫌~。
私は必死でツッキーさんの手をニギニギした。
早く感触がなくなりますようにって思って頑張った。
くすぐったかったのかツッキーさんにクスクス笑われた。
恥ずかしくて死ねる。
その後、ワインとチーズで酒盛りしたけどやけ酒ですよ!
悪くないよね!
このワインとチーズのせいで~って滅茶苦茶食べて飲んでやったさ!
泣いて良いだろうか。
ツッキーさんは全然気にしたところがなくて、私だけテンパって意識して………
ツッキーさん、明日もきてくれるかな?
痴女だと思って来なくなったりしないかな?
ツッキーさんと会えないの嫌だな。
「ツッキーさん」
「はい」
「明日は忙しいですか?」
「何処かに行く予定でも?」
「あ、いや、明日も来てくれるかな~って」
「花さんがよければ来ますよ」
「良かった。もう来るの嫌になったかと思った」
少し酔った勢いで言った言葉にツッキーさんは苦笑いを浮かべて言った。
「俺の方こそ、もう来るなって言われたらどうしようかと思ってました」
「それは無いです」
「花さん、もう少し警戒心持って下さい。俺を男だと思ってないのかも知れないけど、俺だって立派に健全な男だから………流石に、ノーブラは見ちゃう」
「………!」
思わず胸を腕で隠すと、笑われた。
「俺からしたらラッキーだけど、花さんからしたら恥ずかしいですよね」
「うっ、ご、ごめんなさい」
「いやいや、俺からしたらラッキー以外にないって言うか、花さんみたいに可愛い子の無防備な姿なんて見ることないし」
いやいや、ツッキーさんレベルならば無防備な姿を見せてくれる女の人沢山居るでしょ!
巨乳で無防備な女性が寄ってくるに違いない(個人的偏見である)
「ツッキーさんの周りには無防備美女なんて沢山居るでしょ?」
「………無防備と無防備のフリは別物ですよ」
「無防備のフリ?」
「ラッキーには代わらないのかも知れないけど………見返りを求められるのがフリかな?」
見返りを求められる?
思わず首を傾げると、笑われた。
「花さんが天然無防備だってのがよく解った」
「天然無防備って……」
「天然無防備は花さん、エセ無防備は彼女にしてほしいからの作戦。見え見えな手口にヒク」
「……!」
ツッキーさん、イケメンすぎて女性の『無防備』を技か何かと思ってらっしゃる。
「必殺技、無防備!ってこと?」
「あはは、それそれ!まあ、必殺技ではなくローキックぐらいのレベルで繰り出してくるよね無防備」
「必殺技じゃないの!………女性って凄い」
「そう!凄い怖い」
ツッキーさんは残り少ないワインを飲み干すと言った。
「だから、天然無防備の花さんは心配になる」
「心配?」
「そう、心配。俺以外の男が天然かエセかなんて解るのか?………天然の花さんがつまんない男に良いようにされるのは絶対に嫌だ。だから、心配」
「いや、ツッキーさんだから油断してしまっただけで他の男の人なんて家に上げないですから」
ツッキーさんはキョトンとした顔を作るとこたつに座ったまま後ろに倒れた。
「天然怖ぇ~」
「へ?なんで!」
「俺以外にそれ、言っちゃ駄目ですよ」
「言わないっていうか、言う機会も相手もないですけど?」
ツッキーさんもかなり酔っているのかも知れない。
それとも、ツッキーさんがこたつで悶えるほど恥ずかしいことを私は言ってしまったのだろうか?
恥ずかしいことを言ってしまったなら教えてほしい。
「私、恥ずかしいことを言っちゃいました?」
「………恥ずかしいことは言ってないです。大丈夫。花さんはそのままでいて下さい」
「恥かきません?」
「大丈夫です」
「………」
「聞かれると俺が恥ずかしいので勘弁して下さい」
ツッキーさんからこれ以上は聞けそうにない。
こうなったら岬に聞くしかない。
親友の岬なら教えてくれるにちがいない!
私は岬に聞こうと心に誓ったのだった。
読んでくださりありがとうございます。