人は誰しも失態を犯す
「ってかさ、この蜘蛛みたいな金属の化物、何」
いつの間にか、全裸さんは私と同じくスレイプニルの陰に滑り込んでいました。
「スレイプニル。重自動鎧です」
「最近の人間は、脚が八本もあるのか……」
何言ってんだこいつ……。
「命の気配が感じられないけど、これ、中は死んでるの?」
「損傷は軽微ですから、死ぬなんてことはないでしょう。しかし、行動不可にも関わらず脱出もしませんから、初めから入っていないと考えるべきです」
それよりも……どうやって命の気配とやらを感知しているのかを知りたいものですね。
「中に人が入ってなくても、動くの? これ」
「自動鎧ですから。テレパスを紐にした操り人形みたいなものです」
「なるほど。……じゃ、脚は八本もないんだね?」
当たり前です。
「で、どうする? 増援もあるっぽいけど」
「今、私の鎧を待っているところですが……なんとかできませんか、あれ」
オムカルホが迷路を突破して来るよりも先に、敵の増援が来るでしょう。それまでに敵を退け、マル様たちを退避させたいところですが……。
相手も損傷が激しいからか、下手に近付いて来ようとしません。なので、先程と同じようにして行動不能にする戦法は取れません。
こちらから接近は……まぁ自殺に等しいでしょうね。弾を温存しているためか銃撃は散発的ですが、掻い潜るのは無理ですね。
対してこちらは、負傷した私と全裸さんの全裸……。
戦力の増強を図るのなら、私が着用しているアラベラとグラス・パンサーの混合物を全裸さんに使って貰うべきですが、しかし私としても全裸さんを全面的に善用してもいいのか測り兼ねている状態。
全裸さんサイドもそれを察しているらしく、武装を寄越せとは言ってきませんが……。
さて、どうしましょう?
「銃撃の合間を突いて接近できませんか? 銃弾を無効化できるのでしょう?」
「考えちゃいるけども……あれね、移動しながらじゃ無理なんだよ。移動する毎に着弾位置が大幅にズレるから、その度に再計算が必要だから」
「計算を自動化できないのですか?」
「なんにしても考慮すべきパターンが多過ぎて死ねるよ。ただでさえギリギリなのに」
「では先程と同じように、貴方に敵の気を引いて貰って……。いや、駄目ですね、無理ですね」
先程の策は昇降機の前に敵がいた場合を想定して、あくまで緊急措置として取ったもの。それも、私の存在が気取られていないことが条件でした。
スレイプニルのイクソスは2丁が標準。3躰で6丁(無効化した一躰も脚部を潰しただけで他の動作は可能でしょう)。
………この狭い空間では、例え陽動があったとしても……。
「リスクが大き過ぎる。もっと確実な策が欲しい」
全裸さんが、私の思考に重ねるように呟きました。
不幸中の幸いか、今は危機的状況であれ、刹那を争うような状況ではないのです。急いては事を仕損じます。こんなときこそ落ち着いて考えましょう。
「何か、まともな攻撃手段があればいいのですが……」
奥の手にしたって、エナジー不足では飛距離と威力が伸びませんし。
「エナジーはあるのになぁ。この瘴気じゃ、神から賜われる力が限定されるから、なんともかんとも……」
……ん? 今なんつったこの全裸。
●
それは女の嬌声だった。でなければアヒルか蛇か、へしゃげたトタンか下手な軍隊ラッパ、さもなくば悪魔の鳴き声だろう。
白い半裸が笑っている。
「なんだ……?」
誰に向ける訳でもなく、自然と疑問が口を突いた。
「あら、御免遊ばせ。少し驚いてしまったもので……」
驚いたら高笑いするのか、この女。
敵の様子は、脚部を潰されたスレイプニルのカメラで捉えていた。何やら相談事をしているようだったが、その最中、唐突にセシリア・ナオ・マタルが笑い出したのだ。
……この女の情報はあまりない。
三年前に何処からともなく現れ、レウコン・シリオ・マルの侍女に収まった謎の女。何やら不穏な技に通じるとの噂があるが詳細は不明で、我々の分析ではネツァル公がお目付け役として送り込んだとの見方が濃厚だ。
なれば今回の計画に於いて、障害に成り得ないだろうと捨て置いたのだが……。
我々が最も警戒していたのは、ブラック・ペラ戦争の英雄にして大罪人、ネサリッシュ・ハートだった。
次点で、その薫陶を受けた侍従武官のパッティン・ポロンに、孫であるストリド城衛兵隊長ネサリッシュ・エイケツ。そしてナーバーランド軍司令のエエヴァン・ホルヘと、その息子であるクニベアト・カマラ。
そして何より、魔導師と呼ばれることを厭わず、寧ろ自称さえしていたシリオ・ティーア・ウェルミルの愛娘、レウコン・シリオ・マル本人も、十分に警戒すべき対象だった。
だから、あのクソ厄介でドチャクソ癪に障るカマラの不在時に、シリオ・マルが自らホルヘやエイケツの保護下から離れ、深夜に人目が付かない場所に、それも少数のお供しか連れず行動するのは、極めて好機だった。
が、予想は大きく外れた。
何故、連中は武装しているんだ? そして――この男は誰だ?
女の笑い声が引いてから間もなくだった。
「全裸さん! 手加減不要です!! やっておしまいなさいな!!」
なんの真似を――。
視界が白に染まる。
●
巨人が乗る車のドアを勢いよく閉めたような轟音と、そのハイビームにも勝る閃光。
遮蔽物にしていたものも含め、3躰のスレイプニルは雷撃で吹っ飛ばされていました。
それが自身の掌から放たれたとは……いや放たれると分かっていたものの、私はあまりの衝撃に動けないでいました。
これが飼火の本来の能力……?
いや違ますね。これそう、達人の正拳突きは人を殺し得ると云うのと同じです。“魔王のデコピン海をも開く”とも言います。
……いや言わねーよ。一瞬検索したぞおい。
飼火のシステムは私にインストールされているのですが、その演算とエナジー供給源を外部――全裸さんに丸投げしたらこうなった。
何を言っているのかも何が起きたのかも分かってはいますし、そもそも提案したのも私なのですが、現実を受け入れ難いです。
一撃で重自動鎧を……それもスレイプニル3躰を屠る。
二人がかりではありますし、範囲も威力もまだまだマップ兵器には程遠いのですが、しかしある単語が脳裏に浮かびます。
戦略級術士。
戦略上、考慮せざるを得なくなる個人。
少なくとも、一般的な戦術兵器として取り扱うには少々度が過ぎる威力。それを一兵卒単位で……運用コストや機動力、その他諸々を加味して考えれば、ギリギリその可能性を秘めています。
化け物じゃねぇーか……。
「ば、化け物が……」
うげぇ、被った。
敵さん本体は躱せたのか鎧を盾にしたのか、死んではいないようでした。しかし地面に引っ付いて唸るばかりで起き上がる様子がありません。
「チャンスです……! 今の内にマル様に連絡を――」と、念話を飛ばそうとした矢先、後ろから――
「その必要はない」
実に、凡そ3時間31分56秒振りに……
「戦況はウォーの目を通して見ていたのだ。流石だな、ナオ。良くやってくれた」
響く、我が主の声。
「勿体なきお言葉です、マル様」
ですが、振り向く訳には参りません。虫の息とは言え、未だ敵は目の前です。
「下手人を確保致しましょう、全裸さん」
「ええ、俺がやります。貴女はここにいて下さい。あと腰巻きがあるから全裸ではない」
全裸さんは警戒を緩めず敵に近付いて行きます。
それを見守りつつ、背後に問います。
「皆様は?」
「シュシュ、ガトリー、ペトラはハートとタリスの救援に向かわせた。オムカルホは?」
「おう、俺は平気だ。殿下も無事……とはいかねぇみてぇだけどよ、生きてるだけで儲けもんだぜ」
「ああ、お前も無事で何よりだ」
マル様の微笑む様子が伝わって来ます。ですが、声がお辛そう……。
「大扉までの通路に医長が待機しています。お手当を」
「ああ、すまない。引き続き、ここは任せる」
「後は頼みます、ナオさん……と、あんたがマル様の言っていた……?」
「僕も退避したいんだけどね?」
全裸さんは不意の銃撃を警戒しているのか、躙り寄るようにしながら前進しています。
「すまん、ナオを頼む」
「しょーがないなぁ……。まぁ、茸と名乗ったからにはか」
「……意味は分からんが、助かる」
「あー……僕の上着置いて行くよ。タイミングがあったら着て?」
「ありがとう、名も知れぬ人」
「パッティン・ポロンだよ」
「そろそろ行くぞ、パット、ウォー」
「承知致しました」
「はい。――御武運を」
ウォーが通り過ぎ様に言葉をかけてくる。その腕には、確りとマル様が抱えらああああああ!!!!!! そこ! そこ変わってウォーくん!!変われ!
くそぅくそぅ。こんなのあんまりですくそぅ!
こんなチャンスを! 合法的にマル様をお姫様抱っこできるチャンスを! 見す見す! 私は!! 逃すなんて!
失態。今日一番の、いや今年一番の失態ですよこれは!!
もぅ殺してやるぅ!! 八つ当たり半分に殺してくれるぅ!!
私はスレイプニルからイクソスを引き千切って、全裸さんが確保しているしようとしている敵に照準を合わせす。
反動とか体の傷に障るとか、もう知らぬ!
●
失態だ。我ながら情けない。が、どんな天才ならば、こんな事態を予測できた?
戦力差は圧倒的だった筈だ。多少の手違いなど問題なかった筈だ。なのに、何故こんな……。
「困ちゃんみたいですが、なんかありましたー?」
こちらに向かっている部下からテレパスが飛んできた。もうそれだけ近いと云うことだが、どう説明すれば……。
「敵戦力が想定を越えている。スレイプニル3躰が一撃でスクラップだ」
「――詳細な状況説明を」
「目標は目の前だ。だが……悪魔と思しき個体がいる。あと……事前情報に間違いがあったとしか思えん。このセシリア・ナオ・マタルは何者だ? ただの侍女ではないだろ」
「目標の回収と離脱はできます?」
「スレイプニルが大破したと言っただろ!! どちらも困難だ。さっさと来い! 今何処にいる!」
「もう真後ろですよ」
瞬間、銃撃が開始された。
●
「間一髪ですね、若様」
若様と敵との間に割って入り、銃撃を防壁と鎧で往なしながら、周囲をざっと見回します。
さっきお聞きした通り、大破したスレイプニルがひーふーみー。これは御館様から怒られちゃうなー。別にいいけど。
そんなことよりも敵性は……なんですか、この人達は。ほぼ裸に近いのですが……。
「ちょ、ちょっとそんな無理したら!」
「ええい、ままよ!!」
なんなのですか、この人達は……。
何はともあれ。
「退いた方が?」
……さっき若様と敵の間に割って入ったとき、速度そのままに前蹴り入れたのに、避けられちゃいました。
悪魔と思しき個体、ですか。
「馬鹿を言え」
なーんて仰ってますけども、地面に突っ伏して動かないままなのは、これ鎧の中はパーンになっとるのではないでしょか?
「目標を目の前にして――」
「その件なのですが、先程連絡がありましてですね。東のルートから離脱した傭兵が回収済みとのことです。ささ、逃げましょ退きましょ帰りましょ若様若様」
「あ、おいコラ!」
制止を無視し、若様をスレイプニルの前脚で器用に担ぎ上げます。
そして上体のマニピュレータ兼腕部装甲を生身の腕から部分脱却、仮想腕モードに切り替えて鎧の前方に回し、若様を抱え込みます。
生身の腕は胴体に収納。ちょっと窮屈で可動域も少なくなりますが、別にいいでしょー。
「はいはい、強がりは結構結構。三十八計逃げるに如かず、ですよ」
「三十六だろ!」
「ですっけ? まま、細かいことはお気に為さらず召さらず入らず」
誰にでも間違いはあるものです。後世に二項目が付け足されたことにしましょ、そうしましょ。
「逃がすかゴラァアアアア!!」
なんて叫びながら、敵性個体は弾倉が空になったイクソスをこちらに向かって投げ付け、更には防壁の範囲外から接近して来ようとしてます。
こわいー。
「なんか殺気立ってますね……。何したんですか、若様」
「ちょっと殺すよう命じただけだ」
「……交渉できるならそうしましょて、御注進しましたよね、僕」
とは言ってみるものの、まぁここまで大それた準備をしてた時点で、その気なのは知ってましたけどね。
手のかかるお人で困っちゃいますねー。
もうちょーっとだけプラグマティックと云うか、ロジカルシンキングしてくれれば僕の仕事も楽なのになー。別にいいけど。
「何はともあれ、逃してくれそうにありませんねー」
この入り組んだ空間内なら、実質的な移動速度は相手の方が上っぽいですし。
……正直、重自動鎧は趣味ではありませんから、あまり得意ではないのですけれども!
「若様を抱えてるくらいで、丁度良い感じですかねー」
戦力差的に。
●
私が情動のままに放った銃撃は、新手のスレイプニルに防がれてしまいます。
防壁と第一腕部の前面部――装甲を外したスレイプニルで最も外殻が分厚い部分――で斜めに、それも地面にべたっと張り付いたままの敵を抱え込みながら……。
こいつ、上手い。
強いではなく、上手い。自動鎧の扱いに長けています。
私は咄嗟に、跳弾を警戒して後ろに引きつつ、空っぽになったイクソスを投げ付けます。
ですが、そんなことは全く効果がないことは分かり切っているので、新手が仲間の救助でわちゃわちゃしている間に接近し、近接戦を仕掛けます。
事実上、胴体腕部を無力化されたスレイプニルに格闘戦は不可能です。
スレイプニルは悪路を物ともしない高い走破性と長距離移動、そして不安定な足場からでも安定した狙撃・砲撃を可能とする自動鎧です。
故に、格闘を含めた近距離戦闘は当初の設計段階では想定しておらず、刃物や鈍器の使用、そして脚部での格闘は極めて不得手です。なので、その制御システムであるスレイプニル・システムもデフォルトでは格闘戦の挙動は行えません。
また腕部装甲でもある胴部マニピュレータは鎧の大きさに対してリーチが短く、それを補おうと長柄の武装を搭載しても、腕部は軽量化のために必然的に出力が低いため有効打は与え辛く、更に脚部が邪魔でまともに扱えません。
しかし――
「ハンデを抱えてるくらいで、丁度良い感じですかねー」
私のナイフに付いて来ている。
確かに、私の負傷した左腕は未だ半分程しか治癒できていませんし、アラベラも出力重視で細かな制動は不得手な駆動外殻です。
しかしそれでも、マニピュレータとして考えれば下の下であるスレイプニルの脚部とは比べるまでもなく、格闘戦に於いては遥かに有利。
ですが事実として、眼前の敵はアラベラの機動力に対応できています。
スレイプニルの脚部は左右の可動域が狭く、比較的広めの上下の動きも上体が邪魔で、最も持ち上がる第一脚部でも胸部より上にまでは上がりません。
しかしそれを鎧自体の前進・後退・回転・屈折運動を駆使しつつ、機敏かつ細かい制動で、本来なら上下左右の二次元的な動きしか出来ない八本の脚脚の全てを三次元的に動かしています。
デフォルトでは不可能な――つまりはマニュアルによる操作――テレパス制御でしか不可能な芸当。
更にフェイントを織り交ぜ、抱えている仲間を護りつつ、私のナイフに追い付いている!
いえ、これも通常の自動鎧であれば不思議ではない話でしょう。人工知能の助けも考慮すれば、凡才でも訓練次第では習得可能な技術です。
ですが……人間には手足が四つしかないのです。八本脚など以ての外!
「貴方……拡張体適合者ですか!」
「うぃうぃ、そだよ」
「おいバラすなそんなこと!」
「動き見れば馬鹿でも知れることですしぃー」
状況は有利な筈。実際、相手は防戦一方で私に攻撃を仕掛けるチャンスはありません。
ですが相手のこの余裕は……私が攻撃しているからこそ、攻撃されていないだけだからです。
攻撃を止めれば蹴られておしまい。距離を取っても取られても、スレイプニルの22mm砲でおしまい。
攻撃させられている。
このままでは体力差で負けます。
「オムカルホ! オフホワイト・ハミングは!?」
「そんな直ぐに来れるわきゃねーだろ!!」
一体どうすれば……。
流石に重自動鎧の前では、生身の全裸さんを戦力としてカウント出来ません。
「マタルさん! そいつから離れて!!」
声に気が付いてふと見れば、新手がやって来た方の通路の先に、大きな金属の板が浮いています。
あれは、ワイルド・マグナムの……。
「あり? いつの間にそなとこいるの? いつ抜かれたのかにゃー。不思議だにゃー」
あの野郎、なんのつもりだ?
すると今度は念力の礫です。
「あ、やば」
吹き飛ばしたスレイプニルの破片や地面に落ちたワイルド・マグナムの装甲、そして無力化された弾丸……それらが音速とまでは言わずとも、決して遅くはない速度で飛んで来ます。
私は指示通りに敵から離れますが、通路の大半はスレイプニルの巨体で塞がれています。結果としてスレイプニルが盾となり、難なく鉄の礫を回避。
一方、スレイプニルは、抱え込んでいる味方を庇うために、前面を礫に晒し、私に背中を向けることに。
「いっだだだだだだだだ! 痛い痛い痛い痛い!!」
スレイプニルは悲鳴を上げながら――割りと余裕そうですが――にも関わらず、全裸さんに向かって突撃して行きます。
「あれ……?」
マズィぞ!!
私に背中を晒して距離を詰められるなら、ダメージは覚悟の上で全裸さんから料理し、余裕を持ってこちらに向き直った方が得策と考えたのでしょう。
「君から殺った方が美味しそうです?」
そして奴はあろうことか、22mm砲を全裸さんへと向けます。
「へっ? 何それ。ちょ待て!!」
間に合わない……!
「痛ったぁ。何これ、質量が大きいんだけど!?」
……やや焦った私が馬鹿でした。
完全な相殺とまではいかなかったようですが、22mmは全裸さんの頭蓋骨で跳弾。彼は頭を押さえているだけで、額には外傷らしい外傷がありません。
そして跳弾した砲弾は――
「でぇぇえええ?! うっそ!! ちょっと流石に反則臭いしいいい!?」
スレイプニルの左第一脚部を穿ちます。
「えぃこの! 強行突破ぁあああああ!!」
にも関わらず敵は一切止まらず、全裸さんに突っ込んで行きます。
私も全力で追い付こうとしますが、直線の加速力と速度ではスレイプニルに勝てません。
「えぇ!? なんでまだこっち来んの?!」
「だってあのお姉さん怖いんだもん」
あ?
分かる。
あ?
「よっしゃまずは一匹ィ! ……い?」
敵の勝利宣言とほぼ同時、突然、全裸さんが消えます。
ハーン、なるほど、ダクトだ。
オムカルホが見やる先……さっきまでは盾に隠れて見えませんでしたが、通路上部のダクトの格子が何かで刻まれたように開かれています。
地上付近のダクトは、地下に大量の空気を送り込めるよう、大きく作られています。
背後に現れたのもそう云うタネか……。
そこを大盾や礫の材料を持って通り敵の背後に回り、そして今は盾を梯子代わりにしてダクトに逃げ込んだのでしょう。
「ま、いっか。切り替えよ。それでは皆様、また次の機会が御座いましたら、そのときはよろしくお願い致します。失礼しまーす!」
「コラ待て逃げるな! 戦え!」
戦ええええぇぇ……と、抱えられたボロ雑巾の声が木霊しながら遠ざかって行きます。