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不安になるくらいに、とても人間的


 国連憲章にも謳われている通り、UNは広報活動に力を入れている。

 この文章は、世界の国々の、さまざまな人種、宗教に分かれた、たくさんの人々の胸に届いた。


 国連安保理は、トルコ・シリア国境で広がるハタイ脳炎を、国際の平和と安全に対する脅威と認定する決議を採択し、国連ハタイ脳炎緊急対応ミッション(UN Mission for Hatay Encephalitis Emergency Response UNMHEER)が設置された。


 現在、先進国政府機関とNGOは、連携して事態の収束に当たっている。

 各国からの資金援助もあり、発症してからの病状を和らげる新薬の開発も、あと、もう一息の状況だった。

 もうすぐ、必ず死ぬ病気ではなくなる。やがては、恐ろしい病気ですら、なくなるかもしれない。人類は、ゆっくりとだけれど、ハタイ脳炎に勝利しつつあった。


 シモーヌは、コーヒーメーカーからカップを取り、熱い液体に口をつけた。


 結局、あれから、防疫キャンプが空爆を受けることはなかった。

 後で聞いた話だけれど、アリー達の連絡を受けた『ハルシオン』の別動隊は、インジルリク空軍基地の滑走路を地中貫通爆弾(バンカーバスター)で穴だらけにしたそうだ。離陸ができないので、空爆は中止となった。

 その攻撃を行った部隊は、アリー達と仲良く二百時間の社会奉仕活動に従事した、と聞いている。社会奉仕活動は、『ハルシオン』がルール違反を犯した協力者に課する懲罰だ。

 残念だけれど、今回、彼らが奉仕活動を行ったのは、防疫キャンプとは別の場所のようで、あれからアリー達の姿を目にすることはなかった。


 莫大な損害を被った合衆国政府は、『ハルシオン』に対して猛烈な抗議を申し入れたけれど、事務局もなく、代表もいない『ハルシオン』から、なにか反応のようなものがある筈がなかった。

 こんな時に、シモーヌは一人思うことがある。


 『ハルシオン』は本当に人類の存在を認識しているのだろうか?


  いいえ、この質問は少し違うわね。


 『ハルシオン』が、人類の理不尽な死を最少化する為に、それぞれの活動を行っているのは明らかだった。『ハルシオン』は人という存在を認識している。そうではなくて、シモーヌが疑念を感じたのは、こういうことだった。


 『ハルシオン』は、本当に人の活動を認識しているのだろうか? その思想や情動が、形作る社会システムを――国家や法や信仰を――『ハルシオン』は本当に理解することが出来ているのだろうか?


 もちろん、答えなど分かる筈がない。


 でも、シモーヌに分かっていることもある。アリーやヌエ、『ハルシオン』を構成する『協力者』達は、確かに、暖かい血の通う人間だった。

 

 それはもう、見ていて、不安になるくらいに、とても人間的だった。


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