表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/87

ゲームを楽しんだだけ

 やがて、唯斗の操縦する【ピクシー】は尾根をたどって、イツキのそばにやってきた。チェインガンの照準は、イツキに向けられたままだった。


 イツキは、手を頭の後ろで組んで、両膝をついた。戦意がないことを示すポーズでもあるし、勝者が敗者に要求するポーズでもある。もしかしたら、イツキの皮肉なのかもしれない。


 唯斗は、コディの銃弾に追われながら、ずっと【ピクシー】の操縦を続けていたらしい。もちろん、アリシアにはやれるけれど、唯斗にそういう芸当が出来るとは思ってなかった。

 プレイヤーとしての唯斗は、今も進化を続けているようだった。


 【ピクシー】は、半壊したアリシアの強化外骨格(XOS-5)を守るように位置を取った。外部スピーカーから声が届く。


「自分で背負って、終わりにして、それでいいと思っていたんだろ。よく似た奴を知ってる……親切で教えてあげるけど、それって、ただの勘違いだ。空回りもいいとこだよ」


 アリシアには、唯斗が自分に言い聞かせているようにも、聞こえた。


「立てよイツキ。そういう「嫌み」いらない。ぼくは勝者じゃない。勝者なんか、どこにもいない。負け犬ばっかりだ」


 立ち上がったイツキは、唯斗に向き直り、穏やかな顔で伸びをした。朝目覚めて一日を始める前のように、深く息を吸って、背中を反らした。


「ぼくは……おまえに感謝するべきなのかな。ヌエ。たくさん、数え切れないほど、人を殺すところだった」

「それも勘違いだ……ぼくは、ゲームを楽しんだだけだ。あんたは、ピンボケもいいとこだ」


 口を尖らせる口調で、唯斗は言った。


 イツキは静かに佇んでいる防疫キャンプを振り返った。


「こいつら、どうなるのかな……」

「あんたには関係ないことだ、イツキ。もちろん、ぼくにだって関係ない――」


 言葉は無機質だったけれど、声は優しさを含んでいるような気がした。イツキに対してある種の共感を、唯斗はしているようだった。もしかしたら似ている二人なのかもしれない。


 どちらも絶滅しかけた生き物のようで、当たり前の社会生活に馴染むのは、ちょっと難しそうだった。


「行ってもいいか? 武装解除、戦意喪失、もうお前には意味のない獲物だ」


 イツキは、素っ気なく背中を向けて歩き出した。『トヨタ』のキーも準備してあるのだろう。イツキは、見ていて切なくなるくらい、破綻の無い機械だった。


「オリゾンに戻るのかい?」


 唯斗は、歩き去っていくイツキに声をかけた。


「まさか、ぼくはもう、証拠隠滅リストに名前が上がってる」

「追跡が? 手助けが必要かい?」

「それも間違った理解だ。オリゾンは、そういう不経済なことにエネルギーを使わない」


 振り返らずに、イツキは歩いていった。


 残された唯斗の【ピクシー】は、置き去りにされたみたいに、佇んでいた。

 唯斗は、感染拡大を止めた。たくさんの命を救った。それなのにちっとも嬉しそうじゃなかった。まるで、悪いことをしたみたいだ。


「ヌエ? 大丈夫?」

「……大丈夫だよ。なんでもない……外骨格の残骸、どうする? 片付けないとダメかな?」


 唯斗は普通に戻った。

 ちょうど、社会奉仕活動は、もうすぐ終わる頃合いだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ