もうお休み
アリシアがバランスを崩して転倒している間に、イツキは弾倉を交換した。手慣れた素早い動きだった。イツキは、倒れた強化外骨格に、また斉射を加えて、今度は右腕が取れた。
「……アリー……」
唯斗の声には、がっかり感が滲み出ていた。
なによ、あたしは、あんたの指示に従っただけじゃない!
「うるさいわね! あんただって騙されたでしょ!」
コディが向き直るのが、視界の端に見えた。ミニガンの六つある銃口を、全部、覗くことができた。
ああ……ばらばらだ。
「ま、いいよアリー。時間的には十分間に合った」
閃光で、センサがホワイトアウトした。音圧がリミットを超えて、全ての音が掻き消える。アリシアの感覚野は、一時的に感覚を消失した。
ハレーションを起こしたカメラが光量調整を終えると、コディの半分が消失し、残りの半分はねじ曲がった金属塊になっていた。
脚は自重を支えきれず、コディは横転して、生き物のように痙攣した。蓄電素子が熱溶解して、体液のようにこぼれた。
……え、なに?
「まったく……バックグラウンドで操縦するのは大変だったよ、アリー」
アリシアの足元で残骸になっている、唯斗の強化外骨格が喋った。
一機の【ピクシー】が、数十メートル先の稜線から現れた。コディを攻撃したのは対戦車ミサイルだったようだ。
ドローンの【ファハン】が頭上に浮いていた。【ファハン】のレーザースポットで照準し、稜線の死角から攻撃したのだ。
イツキが【ピクシー】に銃弾を浴びせたけれど、それは意味がない攻撃だった。
おそらく、イツキにもそれは分かっている。アリシアだって、銃弾がある間は可能性を探る。たまたまセンサを破壊するかもしれないし、装甲の隙間から銃弾が滑り込むかもしれない。
弾切れと同時に、イツキは銃を捨て、肩をすくめた。
「タフだな、ヌエ。最初からずっと機体を運んでいたのか?」
コディは、痙攣しながらなんとか立ち上がろうともがいていた、主人であるイツキの身を案じているのだ。電気部品の焦げる匂いがした。
イツキは、コディに歩み寄り、痙攣する脚に、優しく手を触れた。
「もういいんだ、コディ。ぼくは大丈夫だ。『ハルシオン』はこれでも人道団体だからね……ありがとう。もうお休み」
安心したように、コディは痙攣をやめ、動かなくなった。
しばらくの間、イツキは動かないコディに手を触れたままだった。




