思いっきり殴ったら死ぬかな?
唯斗の義体は、銃弾を受けて、ばらばらになりながら弾んだ。
アリシアは、その様子を照準器の中に見た。
強化外骨格は銃弾を受けて火花を散らした。跳弾で土煙があがる。機械的強度の低いダミーがばらばらになって、緑色のパッドが散乱した。プリント配線が、ちらちらと燃えて縮れた。
小さな部品が、岩に当たって跳ね返っていた。
馬鹿! ドジ! なにやってんのよ!
アリシアは半べそで、そう思った。唯斗の支援がないのは心細かったけれど、一方で、頭の一部が冴えていくのを感じた。
自分しかいないのなら、自分の出来る方法でやるだけだ。
この距離からの狙撃では、止められない。
銃を背中に背負い、アリシアの操作する強化外骨格は稜線の死角を走った。コディに歯が立たないのなら、直接、イツキを押えるしかない。
殺さずに止めるのは、銃を使ってでは不可能だ。なら後は肉弾戦だ。
有利な材料もある。
運動機能は失っていたけれど、唯斗のセンサはまだ稼働していた。視覚からの情報を唯斗から得ることが出来る。
「誘導してよ、ヌエ」
「了解……アリーもうちょっと静かに、コディはたぶん地面の振動を拾ってる」
アリシアは移動のペースを落とした。
視覚に、唯斗が乗ってくるのがわかった。
唯斗は、コースをアリシアの視覚野にマーキングした。視線で描画したのたくる蛍光ブルーの線は、この辺りを歩け、という意味だろう。
なにか稜線にある目標で、唯斗側からは見えないアリーの位置を推測しているのだ。
ちょっと寒気がするような処理能力だった。
岩の形とか、多少は判別できるけれど、反対側からどんな形に見えるか、そんなことまではアリシアにはわからない。岩は岩だ。アリシアにそういう注意力はない。
念の為、唯斗側の視覚で確認したけれど、コディはアリーとは反対の方向を警戒していた。まっすぐ歩いていたとしたら、確かにその辺りから姿を現すはずだ。
「思いっきり殴ったら死ぬかな?」
強化外骨格は、腕力だけで言えば五百キログラムの荷物を持ち上げることができる。マニュピレータが先に壊れるけれど。
力いっぱい人間を殴ったら、銃を使った方が清潔だった、といった感じの死体が出来上がるに違いない。
「ほどほどで殴っても死ぬよ、たぶん」
気の抜けた声で、唯斗が応えた。
「どうしたらいいのよ」
「……そっと、殴ったら?」
こいつ、他人事だと思って……。
「ばかにしてるでしょ、ヌエ」
「――そこだ、アリー。尾根を越えて十メートルでイツキ。アリーの方向には背中を向けてる」
強化外骨格が尾根を越え、アリシアはイツキを視覚野に入れた。
と、同時に失敗を悟った。当たり前のように何気なく、イツキが振り返ったからだ。あらぬ方向を向いたコディを、イツキは囮にしていたのだ。
イツキは、肩につけた銃をアリーに向け、フルオートで発砲した。イツキが手にしている銃は連射時のコントロール性がすこぶるよい、と評判の銃だ。銃弾は強化外骨格の関節部に集中し、右側の脚が股関節から取れた。




