動物的なパニック
コディが腹部のミニガンを唯斗の義体に向けるのと、アリシアが二発めの銃弾を発射したのは、ほとんど同時だった。
ミニガンの弾幕は、ヌエの強化外骨格を逸れた。
肝を冷やした。
相手は重武装した砲台だ。アリシア一人だけで無力化する自信は、さすがにない。
「ヌエ! さがって! 早く――装甲を抜けないわ。頑丈よコイツ」
唯斗が防疫キャンプのすぐ裏手に埋めていたのは、自警団が落としていった対物ライフルだった。アメリカ製の50口径。たぶん、イラク兵士の装備がイスラム過激派の手に渡り、それを難民キャンプ自警団がどさくさで手に入れたものだろう。
使っている弾は高精度な狙撃用じゃなくて重機関銃の粗雑な弾だった。きっと、自警団はそれしか入手できなかったのだ。
唯斗の指示通りに、あちこちのつまみを使って焦点距離の調整を行ったけれど、本当に当たるかどうか自信はなかった。うまくいって良かった。
まあ、この銃の本来の射程を考えたら、コディの位置は至近距離も同じだった。的もデカいし当てるのは難しくない。
タングステン弾芯のAP弾なら、抜けたかも。
そう思いながらアリシアは次弾を装填する。この銃は弾倉に五発しか弾が入らない。唯斗が渡した予備弾倉は二つ。ほんとはもっとあったらしいけど、照準調整で唯斗が使ってしまったらしい。無駄弾は使えない。
アリシアは、光学照準の視界に、コディのセンサを捜した。カメラを潰せば、行動は奪える。
スコープの視界の中で、コディのセンサはアリシアの方角に向けらえていた。多銃身のミニガンが、いつの間にか、こちらを照準していた。
「うそ……まだ二発しか撃ってないわよ」
強化外骨格が受け取る衝撃が、アリシアの運動感覚野に再現された。何発か貰った。もし生身の人間だったら胴体を両断されているところだ。左腕の応答がなく、右の大腿部が八十パーセントの能力を失っていた。でもまだ、移動することは出来る。
アリシアは丘陵の稜線に隠れるようにして位置を移した。
ミニガンをくらった代わりに、光学センサを潰した。コディの砲台としての機能は奪ったはずだ。
移動し、再度配置につく。義体を操作するヌエの激しい息遣いが聞こえた。自分の肉体は安楽椅子の上でも。緊張すれば脈拍は上がるし、脳は酸素を大量消費する。
もう一度、スコープの視界にコディを入れたアリシアは目の前の光景に混乱した。光学センサは奪ったのに、コディは変わらずに、右腕の5.56㎜機銃でヌエを追い回している。
――どういうこと? どんな知覚を装備してるの?
もう一度、状況を確認し、アリシアはトリックを理解した。
イツキだ。コディはイツキの視覚を使っている。
そう分かっても、イツキを銃撃することはできなかった。イツキは、銃弾を受ければ壊れる生身の人間だ。
「ヌエ、無理よ。いったん退却して」
「了解……でも、逃がしてくれそうにないんだけど……」
コディの装甲の一部が、スリットのように開くのが見えた。
隙間から顔を出したのは、広範囲を攻撃できる榴弾筒だ。もらえば義体はひとたまりもない。
アリシアは目を細め、視覚野に集中した。時間の流れが細かく刻まれ、アリシアは時間を引き延ばす感覚の中で照準線を確認する。発射した対物ライフルの弾丸は、榴弾筒の露出するスリットに滑り込んだ。
爆発が起こり、コディを覆う装甲の一部が消失した。誘爆が起こり、いくつかの火炎が、立て続けに膨らんだ。
爆風に持ち上げられ、背中から地面に叩き付けられる、イツキが見えた。
破片を貰ってなければいいけど……。
コディの機能停止を期待したけれど、コディは止まらなかった。
湧き上がる黒煙を裂くようにして、腹部の『ペインレスガン』が、唯斗の義体を照準した。
べつに強化外骨格が破壊されたからと言って唯斗が怪我を負うわけではないけれど、動物的なパニックが、アリシアを襲った。
なんとか片膝を立てて起き上がり、イツキは唯斗の義体を目で追っていた。イツキの胸板を、アリシアは混乱したまま照準した。
「だめだ! アリー!」
唯斗の声で我に返った。
人を……殺すところだった。
「……でも、ヌエ」
引き金から指先を離したアリシアの目の前で、唯斗の義体は、毎分四千発の弾幕を浴びた。裂けた炭素繊維が舞い、チタニウムの関節がねじ曲がった。
ショートしたバッテリーが火花を散らす。
ちぎれた義足が、岩の間に転がって挟まった。




