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アリシアの不協和音

「アリー、そこを通してくれ。戦力差は明らかだ。今後も機会があれば、きみたちと作戦を共にしたい」


 無線通信からの声は、何度か聞いたことがある。ウィルソンとかいう若い兵士。門外漢のミラー中尉とは違って、戦場で育った本物の兵士だ。

 一度だけ防疫キャンプに顔を出したことがあるけれど、生真面目な印象の黒人青年だった。もちろん、悪人には見えなかった。


「べつにあんた達を非難するつもりはないけど、それは無理。……他に方法はないの?」

「残念だけど、選択の余地はない。アリー、君の家族を守る為でもある」


 通信は途絶え、米軍の軽機動戦闘車両部隊は応答しなくなった。

 アリシアの頭には、拭いようのない違和感が残った。この成り行きは、なにかがおかしい。


 米軍の部隊を指揮しているのはミラー中尉ではなかった。彼らは、なにも考えず闇雲に命令に従っているわけでもない。自分がなにをしようとしているか十分理解しているようだし。自分を責めながら残りの人生を送る覚悟も出来ているようだった。

 その事実も、アリシアの不協和音を大きくしていた。


 戦闘で培ったアリシアの本能が、誰かがアリシアを嵌めようとしている、と訴えていた。

 だが、考えても、誰がどのように、とまではわからない。


「アリーの考えている通りだ。おかしいよ、これ」


 唯斗の声だった。どうしてあたしの考えていることがわかるのよ! と一瞬だけ考えたけれど、事態は緊急を要するので、取り敢えずは言葉の先を聞いた。


「普段ぼく達は、一緒に作戦を展開する時しか、米軍の活動については知らない。本当であれば、敷設した警戒網にかかるまで、ぼく達は、米軍の動きを知ることは出来ない筈だ。なのに、まるでタイミング良く知らせるように――シモーヌにその情報を伝えたのは、誰だと思う? なんでミラー中尉は、この局面に居合わせていない?」


 そうだ、シモーヌが米軍の秘匿情報を知ることなど出来ない。誰かがタイミングをはかって、それを伝えたのだ。


「これは時間稼ぎだよ、アリー。誰かが『ハルシオン』と米軍を噛み合わせようとしている――防疫キャンプが危ない」


 警備の当事者は、双方ともここで衝突しようとしている。その誰かは防疫キャンプをもぬけの空にしたかったのだ……いったい、何の為に?


「キオミ。なんとかなる?」


 ここから【ピクシー】で向かっても間に合わない。機体は放置して、強化外骨格(XOS-5)に操作を移すのが最短だ。


『なんとかするしかない。わたしも作戦に加わる』


 キオミは自分自身で【ピクシー】を操縦する気らしい。言わせてもらえば、それも明白な内部規定違反だ。


 やっぱり、最初にぶーたれたのはトラッシュだった。


「無茶振りだよアリー。【ピクシー】の十倍は値の張る新鋭機六台を、四台だけでとか……」


 笑いを含んだ声で、チャーリーが言った。


「ぷふっ……トラッシュは無理なんだ。ぷ」

「いや、べつにやれるけどさ。割に合わないってことだよ」


「じゃあ、カイト、悪いんだけど」


 唯斗もアリシアも抜けた場合、次点のチームリーダーはカイトだ。唯斗よりはチームリーダーに向いている。能力の点で不安はない。


「早く行けよ。俺たちの苦労を無駄にするなよ」

「行くわよ、ヌエ」


 アリシアは、メニューを開いて、強化外骨格のアイコンを選択した。

 視覚野が一瞬だけ、溢れる虹色の光に溢れ、暗転し、パソコンを起動するようなシステムメニューが現れた。気がつくとアリシアは防疫キャンプのミーティングルームだった。


「ヌエ、異常ない?」

「起動チェックシークエンスが、あと三十秒」

「なんか、武装(えもの)が必要だと思うんだけど」


 もう、なんとなく想像がつき始めていた。アリシアの思う通りなら、タフな戦闘になる。丸腰では、ちょっと分が悪い。


「それは確保してある。目印がちゃんと見つかるかな……」


 確保って……武器を隠してたの? 唯斗、あんた奉仕活動中になにをしてるのよ?


「先に行くわ。あんたが言う宝箱の座標をちょうだい」

「……了解。くそぉ、ぼくが使ってみたかったのに」


 唯斗の声は、心底悔しそうだった。


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