それが人類の総意
シモーヌからの知らせは、アリシアが受け取った。そういう作戦が存在する可能性は『ハルシオン』でも検討していた。もちろん、それに対策する装備も準備してある。
べつに、驚くようなことではなかった。アリシアは、ナイーブな人道主義者というわけじゃない。どちらかと言えば、合理的に考え、数量で判断するアメリカ人だ。アリシアは十人と一万人を秤にかけて悩んだりはしない。
『ハルシオン』の行動指針を決めているのは『アーキタイプ』システムだけれど、人類の心を映す、と言われている『アーキタイプ』ですら、同じ判断を下す可能性は高い。
種を保存しようとするのは、生命の根幹となる行動原理だ。
ただし、たいていの人間にはこの判断に対して言い訳がつく、もしその十人の中に、自分の家族や友人が含まれていた場合、この価値判断は、途端に難しい物になる。
アリシアだって同じだ。
防疫キャンプで一緒に働いた仲間が、皆殺しにされ焼き払われる、といった決断を、人類の存続の為には止むを得ないわね、と簡単に割り切ることは出来ない。
他に方法はないの? と普段は信じていない「神に」だって祈る。誰だってそうだと思う。
「どうするのよ、キオミ」
『それが人類の総意なら……口を挟むことは出来ない』
キオミの声からは、いつもにも増して一切の感情が抜け落ちていた。動揺している時の、キオミの癖みたいな物だ。
「本気で言ってんの?」
『そんなわけない……でも』
黙って聞いていた唯斗が、口を挟んだ。
「もしかして、なにか指示が出てるのかい?」
考えてみれば、アリシア達は、キオミがどのようにして作戦の指示を受けとっているのかを知らない。『ハルシオン』には事務局も代表も存在しないけれど、もしかしたら秘密の上部組織みたいな物があって、秘密結社みたいに密やかに物事を決定しているのだろうか?
それとも世間で言われるように、『ハルシオン』の実力行使を決めているのは、”アーキタイプ”というコンピュータープログラムで、人の意思など一切介さずに、全ての決定がなされているのだろうか?
もしそうだとしたら、ただのアルゴリズムで、人工知能ですらない”アーキタイプ”が下す指令は、いったい、どのような形を取るのだろう?
モニターに現れる文字列? もしそうだとしたら、それは巫女の託宣みたいだ。
『米軍を阻止する命令は出ていない。静観するべきだと……』




