部隊の現状
気がつくと、自分のトレーラーで、制服を着たまま、ベッドの上だった。昨夜も酔いつぶれたみたいだな、とミラー中尉は強張った頭皮をマッサージする。自分の吐息からホルムアルデヒド臭がした。
記憶は、まったくなにもない。誰かに迷惑をかけていなければよいのだが。
すでに、通常の勤務時間に入ってずいぶんになる、具体的にはもう、日暮れが近いのだけれど、誰もミラー中尉を起こしにはこなかった。
この頃、毎晩酔いつぶれているミラー中尉の惨状は明らかで、もしかしたら若い兵士たちに気を使われているのかもしれない。
すでに命令は下されていて、手続きはミラー中尉の指示を待つ状態だった。準備を整えたと報告すれば、トルコ・インジルリク空軍基地に展開する米軍の航空部隊は、焼夷弾頭による精密爆撃を準備することになっていた。
野犬と防疫キャンプを焼き払う為の弾頭だ。引き金を引くのは、ネイサン・ミラー中尉の役割だった。それが、ここ数日酔い潰れている理由だ。
シモーヌや、イツキ、その他のスタッフ達を、患者ももちろん含めて、行動能力を奪い足止めする。
まるで、火を放つ前に十字架にかけるような仕事だ。
いつまでも、先送りすることはできない。けれど、他になにか方法はないのか? と、ネイサン・ミラー中尉は考える。感染者数が増えているのも事実だ。学者が危惧するように、飛沫感染が起こるのであれば、このまま放置すれば、爆撃による悲劇とは、比べ物にならないほど多くの死者が発生することになる。
シャワーを浴びて、髭を剃る必要があったけれど、職務上、部隊の現状を把握するのが先だと考えた。
部屋を出て、ミラー中尉はすぐに異変に気付いた。
多国籍軍として参加したミラー中尉の部隊は、六台のUGV9を、二十人の兵士で運用し、『ハルシオン』のチームとシフトを組んで防疫キャンプの警戒に当たっている。六台が一時に参加するのはコスト負担が大きい為、警戒任務は四台でこなし、残りの二台は待機状態を維持している。
だから、日中でも出張駐留基地には、手持無沙汰な兵士がうろうろしている筈だった。
だが、トレーラーを出ても、兵士の姿は、一人もいなかった。




