人間らしい生き物
ミラー中尉が酔いつぶれているので、樹は、目的を果たしたことがわかった。
突っ伏しているのは、ミーティングルームの比較的大きなテーブルだ。
アルコールの持ち込みは、不謹慎だということであまりいい顔はされないけれど、時には息抜きが必要である事は、ここで働く人ならみんな知っている。
特に耐え難い出来事があった時、アルコールは思いかけずにいい仕事をする場合がある。
もし、やるべき事が残っていなければ、樹も、きっと酒に溺れていた。
酒の相手は『コディ』だったようだ。賢明な選択だ。『コディ』は人間たちの秘密になんか興味はない。『コディ』に興味があるのは、人間の論理ではなく、人間の感情だ。人間の友人である犬は、人間の悲しみや寂しさを敏感に読み取るよう進化を遂げた。『コディ』の制御部分にもその一部がある。
『コディ』は、ミラー中尉の心の悩みに、寄り添ったのだ。
複合装甲に体を覆われた戦闘機械だけれど、『コディ』は、樹なんかより、よっぽど人間らしい生き物だった。
『コディ』が、マニュピレータをつかって、備品の毛布を引っ張り出してきた。風邪を引かないように、樹は毛布をミラー中尉の肩にかけた。
ミラー中尉は、嫌みな外見に似合わず、朴訥ないい男だった。
まったく、申し訳ない感じだった。あんなに世話になったのに、ミラー中尉には、まだ踊って貰わなければならない。
樹とミラー中尉の様子を、微笑みながら見守っている看護婦がいた。
彼女は机で紅茶を愉しんでいた。
その看護婦は、樹がキャンプに来る前から働いている、古顔だった。確か出身は米国なのだと言っていた。エキゾチックに編み込んだ長い髪が黒い肌に似合っていた。個性的な顔立ちの美人で、モデルのような長身だった。




