そんなのあたしのせいじゃない
拒まれないから押しかけて、怒らないから、いろいろ思わせぶりにした。
唯斗が求めないから、図に乗って挑発した。
でも、もし最初から唯斗に関心がないのなら、アリシアがしていたことは、なんだか嫌がらせみたいだ。
唯斗は優しいから、はっきり言わなかっただけなのかもしれない。
「ず、ずいぶんじゃない、ヌエ。もしかして、あたしってあんたに迷惑かけてた? やっぱり一人がいいんだ。昔からそうだもんね」
「……一人で悪いかい、アリー。べつにどっちだって平気だ」
「へぇ、どっちだっていいんだ」
レヴィーンの前で、こんなケンカだめだ。そう思ったけれど、もう止まらなかった。
「気がすすまないのに、つきあってもらって悪かったわね。あたしね、ヌエもまんざらじゃないのかなって思っていたの。バカね、勘違いのバカだったわ!」
「……」
「なんとか言いなさいよ……」
「時間だ。行ってまた仕事だよ」
「なにか言ってよ!」
声を大きくしたアリシアに、唯斗の強化外骨格は素っ気なく背中を向けた。
丘陵の上で、黄色い防護服のスタッフが手を振っていた。二人に、なにか仕事が出来たのだ。
「アリー。きみは世界的な富豪の娘で、誘拐されて世界中で話題になった有名人だ。男ならみんなが振り返る美人で、しかも頭の回転が速い。欲しければ、どんなものでも手に入るはずだ」
唯斗の言葉は、アリシアの癇に障った。それじゃ、まるでアリシアの気持ちを疑っているみたいだ。
「あたしの一時的な気まぐれだって、言いたいの?」
「もし、いつか君の気が変わったら、ぼくにいったいなにができる。みじめに泣いて、足に縋ればいいのかい?」
あたしは唯斗を裏切ったりしない。唯斗があたしを信じてないとしても、そんなの……そんなこと、あたしのせいじゃない。そんなのあたしにはどうすることもできない。
どうしようもなく、腹が立ってきて、アリシアは唯斗が傷つくような言葉を探した。
その言葉は、探すまでもなく、喉までこみ上げていて、アリシアはもう、ずいぶんと長い間、自分が我慢し続けていたことに気がついた。
言ってはならないけれど、ずっと言いたかった言葉を、アリシアは口にした。
「……あたしが、なにも持ってない惨めな女だったら、安心できるの? ……ヌエは、あの時からぜんぜん、変わってない。変わったと思ったあたしが間違ってた――」
アリシアは視線でメニューを操作し、回線遮断のアイコンを捜した。たぶん、無責任だと後でキオミに絞られるけど、そんなこと関係なかった。
「――ヌエはあの時と同じ、臆病で、卑怯者だわ。無関心なふりで、自分を誤魔化してるだけよ」
そう言い放って、義体を荒野に残したまま、アリシアはログアウトした。
切断されて、視覚野には、ゲーム機の終了時に表示される【ネブラ・ディスク】のロゴアニメーションが流れていた。簡単な生体反応のレポートと、最近、話題になったゲームの告知。
ヘッドギアを外して目を開くと、そこは誰もいない、静まり返った自分の部屋だった。




