残酷な死、優しい死
丘陵の斜面に小さくまとまった石柱は、亡くなった患者たちを葬った墓標だ。
もうすぐ冬がやってくるので、吹く風も、灰色の灌木も、どこか寒々しい感じだった。
アリシアは、強化外骨格で運んだ日本の雑誌を、墓標の前に置いた。
「無駄になっちゃったじゃない。レヴィーン」
墓標の前で、スタッフの捧げた花が、ちょっとだけしおれていた。
「あたしが泣いたりするのは、たぶん間違ってるわね。あたしの身体は、絶対に安全な自分の部屋。最初からフェアじゃないの。そう思うでしょ、ヌエ」
「レヴィーンは、そうは言わないよ。誰かの為に泣くのに、フェアとか、アンフェアとかない」
「あたしが余計なことをしなければ、こんなに酷いことにはならなかったかも。レヴィーンにとってはただの憧れで、イツキにとってはただの可能性だったのかも」
「それで、切ない「死」が、ただのありきたりな「死」になった? やめろよアリー。そんなのアリーらしくない」
唯斗はちょっと怒ったみたいだった。声が尖っていた。
「残酷な死とか、優しい死とか、そんなものない。死は死だ。それに意味をつけるのは、この地球上で人間だけだ。ぼくだっていつか死ぬし、アリシアだってそうだ。思い出して湿っぽくするのは勝手だけど、それはレヴィーンへの侮辱だ。レヴィーンは最後までイツキを守ろうとした。それが無かった方がいいって言うのなら、アリー。ぼくだってアリーになんか、かまって欲しくない」
唯斗は本気で怒っていて、アリシアはちょっと恐くなった。このまま本当にかまってくれなくなったら、唯斗が他人みたいになってしまったら、アリシアはどうすればいいのだろう。
そう思って初めて、アリシアは唯斗に甘えていたことに気がついた。




