たしかに面白くない
作業自体は簡単に終わった。アリシアとしては、拍子抜けで、むしろフラストレーションがたまったくらいだ。
キャンプ自警団の戦闘車両は、対戦車ミサイルの直撃を受けて、全て炎上していた。
予め不可視レーザーで標識し、出現した標的コンテナに、対戦車ミサイルを割り振っただけ。
【ファハン】も使って、上空から多目標指示を行ったので、一瞬で攻撃は終わった。延焼が広がらないように、燃料や、付近の建造物を避ける方が神経を使った。
アリシアたちの熱工学迷彩は、白と黒いレタリングのUNカラーモードをやめて、背景追従モードで稼働していた。カメレオンのように背景に紛れ込んでいて、消火活動であたふたする自警団の兵士に、【ピクシー】の姿は見えていなかった。
戦闘車両からの炎は、屋根覆いを飲み込んで、黒煙を上げていた。全機のカメラ情報から、複数個所の、慌てふためく様子が見て取れた。陽動としては十分以上の成果だろう。
バケツリレーを始める兵士がいて、燃え盛る車両を車庫から出そうとする兵士がいた。危険なので、誰か止めた方がいい。
「ぷぷっ」
その様子を見て、チャーリーが吹きだしていた。確かに滑稽だけど、ちょっと不謹慎だ。だって火を放ったのはアリシア達なんだから。
「あっけないわね」
とアリシアは言ったけれど、これが完全にコントロールされた結果だ、ということも分かっていた。
機体の割り振りから、侵入ルート、攻撃位置、注意すべき脅威、唯斗は、グーグルの画像から任務の詳細をお膳立てしていた。
結果的に、的外れな見積もりはなかった。ハプニングも、ニアミスもなし。一連の行動は、作戦ではなく、「作業」だった。
――ヌエ、これではわたしの立場がない。
と、キオミがむっとしていたくらいだ。
「つまらない」と、トラッシュがぼやいた。
「たしかに面白くない」と、カイトも同意した。「これはゲームじゃない」
『怪我人が出なかったのは幸い。撤収する』
キオミは、消火活動を笑うチャーリーに腹を立てているようだ。声が尖っていた。
「キオミ、ちょっと提案なんだけど」
『……今度は、どのような根拠で?』
諦めムードでキオミが尋ねた。
「人道活動よ。難民キャンプに、防疫スタッフが孤立してる。安否を確認するべきじゃない?」
『アリー。自警団は腹を立てている。今、もし顔を合わせれば、本格的な戦闘になる。難民キャンプに怪我人を出すわけにはいかない』
「それはそうだけど……迷彩があるし。ちょっとだけよ。キオミ」
キオミはため息をついて、考え込んでいた。
「思ったより火勢が強い。延焼が起こらないか、観測の必要がある」
唯斗が後押しをしてくれた。ナイスフォローだ。キオミは唯斗に甘い。
しばらく考えていたキオミは、やがて吹っ切れたように、大きめの声で言った。
『気づかれたら即座に撤収。スタッフになにか起こっても、対応はPKF兵士にまかせる。約束できる?』
「了解。ヌエ、座標をお願い」
唯斗は、感染者発生のポイントを、マップに標識した。
そこは、アリーのポジションから、わずか一キロの距離だった。




