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こっちに来ちゃダメ

 約束の四十分が経過すると同時に、爆発音がして、キャンプの離れた場所で、黒煙が立ち上った。

 あちこちで悲鳴が起こって、イツキを珍しそうに眺めていた子供たちが、親に連れていかれた。みんな家に籠ってしまい。キャンプは無人のゴーストタウンみたいになった。


「消火だ! 手がすいている物はベースに戻れ!」


 と、誰かが叫んでいた。厄介者たちにかまっている場合じゃない、ということだろう。

 黒煙が、難民キャンプのあちこちで立ち上り、レヴィーンの隣人たちも、延焼に備えて消火の準備を始めた。


 レヴィーンの母親の住居には、警備する兵士が一人だけになっていた。

 樹がミラー中尉と視線を合わせると、中尉はため息をついて、兵士の方に歩いた。ポケットから、マネークリップでまとめた札束を取り出す。二三言の会話を交わして、話はついたようだった。


「行けよ、イツキ。彼はいま忙しくて、とても監視には手が回らないことになった。他には誰も見ていないしな」

「すまない、ミラー中尉」


 光を反射するようにベージュの塗料が塗られた、安っぽいブリキの家だった。

 ドアノブにチェーンが巻きつけられ、扉は内側から開かないようにされていた。イツキはチェーンをほどき、祈るような気持ちで、ゆっくりとドアを開けた。


 外の強烈な日差しから、目が慣れるまで、少々の時間が必要だった。


 最初に見つけたのは、血に汚れたベッドだった。女性の死体が寝かされていて、心臓が止まりそうになったけれど、その女性はレヴィーンよりも年を取っていて小柄だった。

 きちんと寝かされて、ちゃんと手が組まれていた。顔も綺麗に拭いてあった。愛情を持って扱われているので、その女性はレヴィーンの母親だということが分かった。


 イツキはパニックを押さえつつ、レヴィーンの姿を捜した。


 レヴィーンは、ベッドの足もとに椅子を置いて、穏やかな顔で、母親を見守っていた。民族衣装なのだろうか、鮮やかなピンク色のレースで作った綺麗な服を身に着けていた。帯でまとめるその服は、どこか日本の和服に似ていて、清楚で、女らしかった。


「どうして来たの、イツキ……ここは、とても危ない所なのに」


 レヴィーンに怪我はないようだった。


「でも、来てくれてすごくうれしい。やっぱりイツキは、わたしが思った通りの人だった」

「レヴィーン、無事でよかった」


 イツキはレヴィーンに駆け寄ろうとした。けれど、レヴィーンは持っていた古い銃を、イツキに向けて言った。


「こっちに来ちゃダメよ、イツキ」


 レヴィーンは、身に付けた衣装の袖を、少しだけめくった。細い手首には、たぶん、母親のものと思われる噛み傷があった。


「わたし……噛まれちゃった」


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