人数と場所、そして発生の時間
キャンプから、新たな感染者が発生したことを告げるメールが入った。
シモーヌはメールの内容を確認し、人数と場所、そして発生の時間を頭に入れた。
さほど、珍しくはない通常の出来事だ。いまだ媒介者である野犬を駆逐するには至っていない。これは、時折発生する事故のような物だった。
受け入れの手順は、決まりきっていた。人数分のベッドを開け、兵士を派遣し、二次感染のない装備でキャンプへ連行する。連行、という言葉を使ったのは、文字通り、無理やり疫病キャンプへ連れてくる場合も多いからだ。キャンプの間で、疫病キャンプへ連れて行かれると必ず殺される、と噂が立っていた。
必ず死を迎える、というその一点において、噂は間違っていなかった。キャンプでは、まだ一人も患者を救えていない。
感染者は一人だけ――せめてもの幸いだった。
感染の程度は中期――まもなく凶暴性を発揮し始める頃合いだ。どうしてこんなに連絡が遅くなったのだろう? 頭の中を、考えたくない最悪の可能性がよぎる。感染例の中には、動物に咬まれていないのに発病した、感染ルートの明らかでない症例が存在した。動物ではなく昆虫が媒介者になったのでは――例えば吸血性昆虫の刺し傷――、という意見もあったが、今のところ解明はなされていない。
もしも、飛沫感染であったなら――もちろんそうであれば間接接触でも感染する――、感染者がある臨界値を超えた時、止めようがないパンデミックを引き起こす可能性がある。それは、米軍の対応マニュアルに記載された、消毒の判断ポイントでもあった。
「心臓に悪いわね」
シモーヌは、国連平和維持軍の現地指揮官、この場合は少々頼りないけれどミラー中尉へのメールを準備しつつ、発生場所を確認して眉をひそめた。
それは、今日、レヴィーンが戻った筈の、少数民族が居住する難民キャンプだった。
不安がシモーヌの胸をよぎった。メールを送ると同時に携帯を手にとって、ミラー中尉へ口頭で要請を伝えた。ミラー中尉からの返答は、いま帰ったばかりだが、すぐに向かえるように準備は出来ている、という物だった。レヴィーンを送る際に、やはり、おかしなことがあったらしい。
べつに伝える理由も、義務もないのだけれど、シモーヌは当然そうするべきだと感じて、イツキに連絡をいれた。
それは、抑えようがない胸騒ぎのせいだったかもしれない。
連絡を受けたイツキは、わかりました、と簡潔に応えただけだったけれど、もちろん、それで納得するわけがないことは、明らかだった。
キャンプに常駐している『トヨタ』の数は限られている。イツキの為に移動の手段が必要だった。
シモーヌは、ミラー中尉に連絡を入れ、イツキを待つように申し入れをした。
もちろんミラー中尉はそれを理解していて、彼の為の席は空けてあります、と短く答えた。




