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自分の喜ばせ方

 ごく一部の男性は、安全で快適な生活には満足できず、自ら危険と逆境の中に躍り込んで、神経が昂るぎりぎりの危険を相手にしなければ、生きている充実感を得ることが出来ない。

 アドレナリンの中毒とか、ドーパミンの受容体が足りないとか言うけど、アリシアに言わせれば、ただ、頭がおかしいのだ。

 ぎりぎりの任務(オペ)に取りつかれて、だんだんエスカレートしていって、どんな綱渡りでも、そのうち刺激が足りなくなる。


 カイトの場合、もし自分の生身の身体で戦闘ができるなら、とっくに銃を取って、戦場に躍り込んでいるに違いない。

 たぶん、死ぬまでそのサイクルを繰り返す。ブレーキがついていないんだから、論理的には当然そうなる。

 アリシアは、そんなイカれた奴を友人に欲しいとは思わない。本人はそれで満足かも知れないけれど、この手の「馬鹿」はたいていの場合、あまり長生きしない。

 葬儀に参列する自分の姿とか、ちょっと気が滅入る。


「カイト。あんたがどんな風に人生を使おうとあんたの自由だけど、ヌエとあんたを一緒にしないでくれる。あんたは異常者。ヌエは違う」

「違うと思いたいだけじゃないのか?」

「しつこいわね」

「あいつがお前を負かさなかったら、興味を感じたか? あいつがお前を助けなかったら、三年も日本に通ったか? 誤魔化すなよ。おまえの本能は強い遺伝子が欲しいんだろ?」

「……最低ね。じゃあ、あたしもこの際だから言わせてもらうわ。あんたが取り巻きのビッチをヌエにあてがおうとしているの、ちゃんと知ってるんだけど」


 カイトは雑巾を床に投げて、コメカミの辺りをマッサージした。強化外骨格(XOS-5)を装備しているので、その辺りはヘルメットだったけれど。


「ばっかだなぁあいつ、筒抜けなのか? 黙ってたら分かるわけないのに」

「そういうのやめてくれる。ヌエはあんたみたいに遊びとか、無理だから」

「へぇ……なんでもお見通しか?」


 なにか、地雷を踏んでしまった感じがあった。いつもの人を小馬鹿にした雰囲気が消え、声が低くなった。カイトは理性的な外面(そとづら)だけど、ピクシードライバーの中では、『獰猛』な部類だ。スイッチの入ったカイトは、それなりの迫力があった。


「おまえ、そこまでヌエのことを理解しているならわかるだろ。あいつは、自分の喜ばせ方を知らない。ただでさえ自分には合わない窮屈な世界を生きているんだから、欲望くらいは満たしてやらなきゃ……それが、自分を大事にするってことだ。違うか?」


 それはカイトの事情で、唯斗の事情とは違う。でも、もしかしたらカイトの言う通りなのかも知れない。アリシアは、唯斗に無理をさせているのだろうか? ただでさえ窮屈な唯斗の世界を、自分は、ますます辛い物にしてしまっているのだろうか?

 認めたくはないけれど、カイトの言葉は説得力があった。


「……前に助けてもらって、こんなこと言うのもなんだけど……やっぱり、あんたとは合わないわ、カイト」


 アリシアは、傷ついた声をしていたのかも知れない。みっともないけれど、カイトに気付かれたようだった。

 カイトの声はノーマルに戻った。からかうように、だけど穏やかな声で言った。


「情けない声を出すなよ、妖精女王(ティターニア)。唯斗なら心配いらない。だって他の女に手を出さないからな。ゲイでないなら、答えは一つだ」

「……あたし、あんた嫌いよ、カイト」


 カイトは笑って、拳を作り、アリシアが操作する義体の、背中を押した。親しみをこめた動作だった。気に入らない奴だけど、カイトは長く「状況」を共にした戦友だった。


「気が合うな、おれもおまえのこと嫌いだ。掃除しろよ、アリー」


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