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予算上の問題

 呼び出されたのは、現地スタッフ全員だった。そうは言っても三人だけだけれど。

 レヴィーンたちは、いつかイツキが殴られていたミーティングルームで、シモーヌ医師を待った。


 現れたシモーヌ医師は、無表情で、挨拶さえしなかった。仕事上の分かりきった指示を告げるように、素っ気なく言った。


「予算上の問題があって、あなた達を解雇します。いままでご苦労でした。荷物をまとめて一週間以内に退去すること。報酬は清算して、後日、キャンプまで届けさせます」


 ぽかーんと、口を開けている子がいた。まだ、なにを言われたか理解できていない感じだった。レヴィーンも同じようなものだ。わたしたちは、なにか酷い失敗をしたのだろうか、と考えたけれど、思い当たることはなかった。

 イツキとのことは、みんな応援してくれていたし、わけが分からなかった。


「悪いわね。もし問題が解決したら連絡するわ。質問も不満も、今回だけは受け付けません」

「理由を――」


 と、言いかけたレヴィーンを、シモーヌ医師は手で遮った。


「質問は受け付けない。聞こえたわね、レヴィーン。荷物をまとめて」


 そんな――。

 イツキの寂し気な横顔が、頭に浮かんだ。

 ゆうべ、イツキはレヴィーンにすがって、息もできなくなっていたのだ。

 ――あの人を置き去りにしてなんか、どこにも行けない。


 いつの間にかレヴィーンの心の中で、イツキの存在は母のことよりも多くを占めるようになっていた。まるで死の宣告だ。足元がさらさらと崩れていくような感じがした。

 もし、防疫キャンプに残ることが出来るのなら、どんなことだって出来る。


「お願いよ、シモーヌ! 待って、話を聞いて」


 シモーヌ医師は、レヴィーンには構わずにミーティングルームを出ようとした。レヴィーンの声は、最後には鳴き声になっていた。

 レヴィーンはシモーヌの腕に縋った。


「シモーヌ!」


 一度だけ、シモーヌ医師はレヴィーンを振り返った。優しかったシモーヌは、見たこともない恐い顔をしていた。


「……お願いよ、シモーヌ。わたしを……助けて」


 シモーヌは素っ気なく背中を向け、部屋を出て行った。

 残されたレヴィーンは、お尻をつけて、床に座り込んでしまった。


 こんなのってない。

 レヴィーンは自分の運命を呪ったことなんかない。酷いことはあったけれど、全部、自分で決めたことだ。もし耐えられないと思ったなら、もっと前に終わりにすることだって出来た。

 生きると決めたのは自分だった。誰にも文句なんか言わない、とそう決めていた。


 でも、こんなのってない。こんなのひどすぎる。


 部屋の隅で充電をしていたコディがやってきて、冷たいマニュピレータが、背中を優しく撫でてくれた。

 レヴィーンは冷え切った心のどこかで、父親を殺されても泣かなかった自分の嗚咽を、まるで他人の声のように聴いていた。


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