表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/87

これをどこで?

 シモーヌ医師の私室は、意外だけれど、とても女らしく暖かい印象だった。

 暖色のワッフル生地で作ったカーテンに、ふわふわとしたレースのシェード、チェストや椅子は、クリーム色のミルクペイントで、猫足が取り付けられている。


 あらかじめ、人払いをお願いしておいたので、部屋には樹とシモーヌ医師しかいなかった。

 私室でも、シモーヌ医師はいつものように、青い不織布の衣服に、長い白衣を羽織った姿だった。足元だけが、毛玉のようなふかふかの室内履きだった。


「座りなさい、イツキ。 飲み物はコーヒーね。あなたの口に合うかどうかはわからないけれど」


 シモーヌ医師は、コーヒーメーカーの動作ボタンを押した。イツキが使っているのと同じ日本製だった。

 広さは樹の部屋と変わりないので、樹はシモーヌ医師のベッド、少し離れた隣に座ることになった。ベッドからは、洗濯洗剤だろう、花の香りが立ち上っていた。


 窓際のカウンターには、家族の写真が飾られていた。液晶画面のフォトスタンドには、何枚かの画像と短い動画が繰り返されている。長身の夫と、三人の子供たち。一番下の娘は、お人形のような青い目で、まだ学校にも行っていない年に見えた。


「夫には苦労をかけているわ。一番上の娘は学校にいっていないの。母親は、娘のことより病気の人たちの方が大事なんだ、と、そう思っているようね」


 レヴィーンを助けてから、シモーヌ医師の、樹を見る目は変わったようだった。任務遂行の為にはありがたい変化ではあったけれど、シモーヌ医師の暖かい言葉は、わけもなく樹を後ろめたい気持ちにさせた。


「それで、内緒の話って? 最初に断っておくけれど、わたしには夫も子供もいるのよ」


 そう言ってシモーヌ医師は、冗談よ、といった感じの笑みを作った。樹の気分を和ませようとしてくれているのだ。


「レヴィーンに殺されてしまいますよ」

「イツキ、あの子に優しくしてくれてありがとう……わたしにとっても特別な子なの。最近はすごく明るくなったわ」

「以前は……そうじゃなかった?」

「昔から笑顔だけれど、だから幸せなのか、というと、それはまた別の話でしょう?」


 樹はポケットから、四つに畳んだA4のプリントアウトを取り出した。なにも言わずに、樹はプリントアウトを渡した。

 シモーヌ医師は、プリントアウトを開き、白衣からメガネを取り出した。長い時間をかけて、最初から最後まで目を通した。


 読み終えると、シモーヌ医師はライターを取り出して、ごくごく平静な様子で、レポートに火をつけた。よく燃え上がるのを待って、灰皿に落とす。

 ちりちりと這う炎が、黒い塊を綿毛のような灰に変えていった。


「イツキ。タバコを吸っても?」

「ええ、もちろん」


 シモーヌ医師は、取り出した細い煙草に火をつけて、深く、長い一服をした。


「これをどこで? と聞いても、教えてはくれないわね」

「残念だけど、そうです。誰かに迷惑をかけることになります」


 具体的にはたぶん、ミラー中尉が実刑をくらう。もちろん話せるわけがない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ