これをどこで?
シモーヌ医師の私室は、意外だけれど、とても女らしく暖かい印象だった。
暖色のワッフル生地で作ったカーテンに、ふわふわとしたレースのシェード、チェストや椅子は、クリーム色のミルクペイントで、猫足が取り付けられている。
あらかじめ、人払いをお願いしておいたので、部屋には樹とシモーヌ医師しかいなかった。
私室でも、シモーヌ医師はいつものように、青い不織布の衣服に、長い白衣を羽織った姿だった。足元だけが、毛玉のようなふかふかの室内履きだった。
「座りなさい、イツキ。 飲み物はコーヒーね。あなたの口に合うかどうかはわからないけれど」
シモーヌ医師は、コーヒーメーカーの動作ボタンを押した。イツキが使っているのと同じ日本製だった。
広さは樹の部屋と変わりないので、樹はシモーヌ医師のベッド、少し離れた隣に座ることになった。ベッドからは、洗濯洗剤だろう、花の香りが立ち上っていた。
窓際のカウンターには、家族の写真が飾られていた。液晶画面のフォトスタンドには、何枚かの画像と短い動画が繰り返されている。長身の夫と、三人の子供たち。一番下の娘は、お人形のような青い目で、まだ学校にも行っていない年に見えた。
「夫には苦労をかけているわ。一番上の娘は学校にいっていないの。母親は、娘のことより病気の人たちの方が大事なんだ、と、そう思っているようね」
レヴィーンを助けてから、シモーヌ医師の、樹を見る目は変わったようだった。任務遂行の為にはありがたい変化ではあったけれど、シモーヌ医師の暖かい言葉は、わけもなく樹を後ろめたい気持ちにさせた。
「それで、内緒の話って? 最初に断っておくけれど、わたしには夫も子供もいるのよ」
そう言ってシモーヌ医師は、冗談よ、といった感じの笑みを作った。樹の気分を和ませようとしてくれているのだ。
「レヴィーンに殺されてしまいますよ」
「イツキ、あの子に優しくしてくれてありがとう……わたしにとっても特別な子なの。最近はすごく明るくなったわ」
「以前は……そうじゃなかった?」
「昔から笑顔だけれど、だから幸せなのか、というと、それはまた別の話でしょう?」
樹はポケットから、四つに畳んだA4のプリントアウトを取り出した。なにも言わずに、樹はプリントアウトを渡した。
シモーヌ医師は、プリントアウトを開き、白衣からメガネを取り出した。長い時間をかけて、最初から最後まで目を通した。
読み終えると、シモーヌ医師はライターを取り出して、ごくごく平静な様子で、レポートに火をつけた。よく燃え上がるのを待って、灰皿に落とす。
ちりちりと這う炎が、黒い塊を綿毛のような灰に変えていった。
「イツキ。タバコを吸っても?」
「ええ、もちろん」
シモーヌ医師は、取り出した細い煙草に火をつけて、深く、長い一服をした。
「これをどこで? と聞いても、教えてはくれないわね」
「残念だけど、そうです。誰かに迷惑をかけることになります」
具体的にはたぶん、ミラー中尉が実刑をくらう。もちろん話せるわけがない。




