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不毛な行い

 トラックに投げ込まれているのは、若い女性だった。

 その黒い肌をした女性たちは、みな、たぶん十四から二十歳くらいだ。足首を掴んで引きずったり、髪の毛を掴んだりして、完全に物として扱われていた。

 血のにじんだ布で目隠しをされていたり、口に下着のような物を詰め込まれたりしていた。


 引きずられて顔に傷がついたり、腕が変な方向を向いていたりしていたけど、彼女たちは文句を言わなかった。どうしてかというと、これ以上ないくらい、彼女たちは死んでいたから。

 戦闘服を着ているので、たぶん、兵士だったのだろう。


 いつまでも目が離せないでいる樹を見て、ナタル――彼はフランスで教育を受けたインテリだ。どうしてイスラム過激派に身を投じたのか聞いたことはないけれど、給料や劣等感で銃を取った一般の過激派兵士とは違う、ちゃんと教養のある人物だった――ナタルは気にするなというように、樹の肩を叩いた。


「異教徒だよ。この言葉は好きじゃないがね。民間人ではない、覚悟をして銃を取った兵士だ。こういうことも覚悟の内さ」


 ナタルは、リジエラで活動するイスラム過激派の重要な地位にある人物で、恰幅のいい長いひげの紳士だった。彼はレアメタル採掘の権利をオリゾンに約束した。

 だから、樹が手を貸すことになった。戦術指導、情報工作、訓練、教育、マインドセット。


「でも、あの女性たちは――」


 キリスト教の中でも過激な教義をもつある部族が、女性を主なメンバーにする勇猛な部隊を編成している、というのは噂で聞いたことがある。政府系の部隊だけれど、その部隊の性格は、これまでの紛争の経緯を反映して、酷く残忍だとも聞いた。


 改めて眺めると、その女性たちは、戦闘服の前がはだけていたり、下半身だけ衣服を身に着けていなかったりした。腕を縛られている者がいて、ある女性は腕と足を侮辱的な形に縛られていた。


「私は、あんな野蛮な真似はしない」


 ナタルは、不快気に眉をひそめて言った。


「というより、出来ない。私のパーソナリティは教育を受けたフランス人の物だ。だが、それを止めもしない、イツキ、彼らを蛮人だと思うかね? 人の痛みを理解しない野獣だと?」


 なにを言っていいか分からなかったので、すぐには返事をできなかった。

 その目の前では、死体がトラックに積み上げられていた。

 虫がたかってくるので、誰かが殺虫剤をまいていた。


「そうではないよイツキ。彼らだって人間だ。彼女たちに、友人を、家族を殺された。子供も犠牲になったかもしれない。だがどれほど憎んだところで、人が人にふるう蛮行には限りがある。人を傷つける行為は、自分も傷つけるからだ」


 樹には、ナタルがなにを言おうとしているのか、分からなかった。

 トラックは、死体をどこかへ運んで行った。たぶん、どこか臭いが届かない場所に運んで、土砂みたいにダンプする。それから、荷台に引っかかっている死体を何人かで積み上げ、ガソリンをかけて、火を放つのだろう。

 

「だから、彼らは線を引いた。あれは儀式だよイツキ。彼らはああいう暴虐で、彼女たちを人として扱わないことに決めた。人間を相手にあんな真似が出来るわけないだろうイツキ。彼女たちは人間じゃない。凶暴なケダモノで、人でなしで、ああいう扱い(・・・・・・)が、ふさわしい生き物だ。彼らはそう思いたいのさ。人間的じゃないか?」


 それを聞いても、樹は、やはり、なんと言っていいか分からなかった。ただ、自分のせいだと思った。


 ナタルは樹の様子を見て、顔を曇らせた。首筋を掴んで、息子にするように額を寄せた。愛情にあふれた仕草だった。


 そうだ、樹はこの男性を尊敬していた。行いはどうであれ、ナタルは、愛情と思慮に満ち溢れた、男の中の男だった。


「おまえに、あんな物を見せるべきではなかったなイツキ。気にするな、お前のせいじゃない。お前が来る前から、ここには争いがあった。おまえの目は、我々が不毛な行いを続けていることを、思い出させてくれる。私たちはおまえに感謝しているんだ。イツキ」


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