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【狂信者】

 前後関係からの推測で、マスコミでは自警団の兵士を殺害したのは『ハルシオン』である、との論調になっていた。『ハルシオン』に犯罪者をさばく正当性があるのか、というのがマスコミの論調だった。

 事件は、小さな扱いだけれど世界中に報道され、『ハルシオン』は、少々の――馬鹿に出来ない数の――の支持者を失っていた。


「このキャンプが危険だという評判になれば、運営もやりにくくなる。結果的に『ハルシオン』にも迷惑をかける形になったわ。アリー、『ハルシオン』の見解はどうなの?」


 部屋にいる全員が、ミラー中尉を含めて、壁際の『スパルトイ』に注目した。

 急に矛先が自分に向けられたので、アリーは戸惑っていた。壁にもたれて組んでいた腕をほどき、立ち直して、一同の顔を眺める。


「な、なによ。ハルシオンの評判? そんなの関係ないわ」


 全員が、相変わらず強化外骨格(XOS-5)に注目したままなので、アリーは自分の発言が、少々、不適切だったことに気付いたようだった。

 ここにいる全員が、アリーを人道団体の代表だと思っているのだ。

 彼らが期待したのは、もう少し、違う形のコメントだった。


「オーケイ。言葉が悪かったわね。あたしには、公式なハルシオンからの指示も、苦情も、もしくは他の声明も、なにもないし、知らされていない。つまり、この事件がハルシオンの人道活動に与える影響はなにもないってこと。少しくらい支援者が減ったって、善意に溢れた人々は、世界中に掃いて捨てるほどいるのよ」


 さらに不適切な発言を重ねたことに、アリシアは気付いてないようだった。一同は、なにも言わず、さらに外骨格を見つめ続けていた。

 強化外骨格(XOS-5)は、気まずげに身じろぎした。


「な、なんなのよ、あたしはハルシオンの戦闘員だけど、べつに人道主義者だってわけじゃないわ。世界の不幸を救おうという意趣には共感するし、出来る限りのことをするつもりはあるけど、べつにそれを人に押し付けたり、不幸に無関心だからといって誰かに腹をたてたりしない。わかる? あたしは狂信者(ファナティック)じゃないの」


 誤解は解けたようだった。一同はようやく納得が出来た様子で、視線をシモーヌ医師に戻した。

 シモーヌ医師は、アリーの立ち位置についてすでに理解していたようだ。さほど困惑するようすもなく、むしろ優しげに微笑んで言った。


「アリー、わたしは、あなた達の行動を立派だと思っているわ。ところで、ミラー中尉。もう、だいたい見当はついているとは思うけれど」


 確かに、そうなるだろうと思っていた。ここにいるメンバーで自衛の為の攻撃が許されているのは、多国籍軍として参加している自分達だけだ。


「そうですね、今回の攻撃は我々が行ったことにしましょう。基本原則的にも、『文民に危害を加える紛争当事者がいれば,国連PKOは見て見ぬふりをせず,文民を保護する任務を全うしなければならない』ということになっています。付与された権限(マンデート)は明らかです。会見を設定して下さい。その他の根回しはしておきます」

「助かるわ」


 シモーヌ医師は立ち上がって、ミラー中尉の肩を叩いた。

 イツキは、何を考えているのかわからない表情のまま、立ち上がった。


「話は終わりですね。退席しても?」

「……、え、ええ。手間を取らせて悪かったわ。レヴィーンを見舞ってあげて。あなたのしたことは間違ってない。個人的には応援するつもりよ」


 イツキは返事をせずに部屋を出て行った。ミラー中尉は、そこそこに退席の口上を述べ、イツキの後を追った。


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