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武装勢力

 アリーたちが「抜け落ちて」、強化外骨格(XOS-5)は片膝を立てて、省電力状態になった。


 見れば見るほど、『ハルシオン』の開発したダミーはよく出来ている。レイセオン社の強化外骨格(エクソスケルトン)は精度向上の為、操者の動作圧と、皮膚表面電位の両方から動作を決定するようになっている。


 ダミーはその両方を表現しつつ、逆にセンサとして、操者に体感覚情報をフィードバックするようになっていた。入力が出力を兼ねているわけだ。

 急ごしらえのシステムとしては完成度が高い。もしかしたらレイセオン社自体に『ハルシオン』の支援者がいて、匿名で開発に協力をしたのかもしれない。

 

 彼らが使用する戦車【ピクシー】も、そういった協力者によるグループワークで設計されたと聞いている。その設計データはオープンソースで、時々、テロリストや犯罪者が設計を流用し、『ハルシオン』の制裁を受けていた。

 公開の三次元CADデータには、ちゃんとこう書いてある――平和目的以外の使用はハルシオンによる実力行使の対象になる場合がある――と。


 理系の人間(STEM)としては興味が尽きなかったが、いつまでも眺めていたって仕方がない。


 ミラー中尉は、スマートフォンで、機体(UGV9)のステータスを確認した。展開可能な四機は、すでに配置を完了していた。ミラー中尉の出る幕ではなかった。作戦指揮の真似ごとをしたって、難民キャンプに怪我人をだすのがオチだ。


 だいたい、ミラー中尉が防疫キャンプに配置されたのは、特殊武器衛生――ようは生物化学兵器対策――の知識を買われただけで、銃や戦車の方は、まったくの門外漢だった。

 ここで人の姿を真似た機械に、うす汚れたシートを掛けているのがお似合いだ。そう、ミラー中尉は自嘲的に考える。


 シートは、打ち捨てられた自動車カバーのようだった。あまり汚れているので、裏を使うか表を使うか迷った。あまりに汚れがひどいので、シーツのしわを伸ばす要領で埃を払うと、防護服のアイシールドにまとわりつく粉塵で、なにも見えなくなった。


 アリーたちは、『ハルシオン』が派遣する戦闘員だ。防疫キャンプで働いているのは、罰としての「社会奉仕活動」らしい。


 ――『ハルシオン』――本来は武装組織ではなく、世界中に星の数ほどもある、ソーシャルネットワークサービス(SNS)の名前だ。「安息の日々」という意味の名前を与えられたそのサービスは、ミラー中尉の目には、やや奇異に映る目的の為に、運営されている。


 人道と友愛。ハルシオンの会員たちは、売られてゆく貧しい国の子供たちを気にかけ、冬に凍える難民の少年に心を痛める。


 実は、興味本位でミラー中尉も登録したことがあるのだが、正直なところを言うと、あまり居心地がいい場所とは感じなかった。銃を持つわけではないけれど、ミラー中尉の身分は、世界に破壊をばらまく『軍人たち』の一人だ。告白すると同時に、ひどく攻撃された記憶が残っている。


 彼らによると、ミラー中尉は、人殺しを生活の糧にして、子供を殺すことを恥じない、人でなしの、ろくでもないトリガーハッピーなんだそうだ。

 確かに銃を持ったことはある。新兵訓練で渡され、自分の足を撃ちそうになって教官に殴り飛ばされた。もちろん落第だ。


 そんな尖った見解の持ち主で構成されたSNSではあるけれど、『ハルシオン』は、地球上でも有数の会員数を誇る、巨大コミュニティだった。会員数をカウントすると、人類の二十人に一人はハルシオンの会員、という計算になる。実際にはアカウントの重複があるので、かなりの数が目減りするが、それでも指折りのコミュニティであるのは疑いようがない。


 ミラー中尉にとって腑に落ちないのは、その暴力と不幸を憎むSNSが、軍事力ランキングに数えられるほどの『私兵』を抱えていることだ。ランキング的には先進国、アジア、ヨーロッパの小国に差を開けられて、アフリカの国々よりは上だ。


 アリーたちは、『ハルシオン』の抱える「武装勢力」だ。遠隔操縦の軽機動戦闘車両(ピクシー)を操って、テロリストや、犯罪者――時には政府系の軍隊とでも戦う。噂によると世界中の少年少女が、ゲーム機をインターフェースにして、それぞれの自宅から操縦してるとか……まあ、都市伝説みたいなものだ。


 「けっきょく暴力じゃないか……」思わず、声に出してしまった。


 友愛だの博愛だの言ったって、けっきょく物を言うのは『暴力』だ。ハルシオンの存在そのものが、それを証明している。


 アリーたちの強化外骨格(XOS-5)にシートを掛け終えて、ミラー中尉は防疫キャンプへ歩いた。基地の方にもどってもネイサン・ミラー中尉の仕事はなかった。


 この頃の楽しみは、キャンプで暮らす発症前の子供たちと遊んでやることだ。

 いずれは死んでしまう子供たちだけれど、病気の恐怖を和らげることが出来るのなら、死を見守るたびに自分が傷つくことについては、しばらくの間は、目をつぶっていいと思った。


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