臨戦態勢
「や、やあ……この間は、ども」
唯斗が間抜けな挨拶をした。
「この前は悪かったわ。気を悪くしてる? でもちゃんと回線を開いてくれてたら、説明はできたのよ」
というアリシアに、ミラー中尉は肩をすくめて答えた。
「いや、こっちこそ悪かった。被害を出さずにやれる、とは思っていたけど。リスクを払う理由はなかった。きみらが正しい」
恥をかかされて怒っているかと思ったけれど、ミラー中尉は、そういうタイプではないらしい。
「修理はまだ?」
「場所が場所だけに、簡単には」
それはそうだ。普通に民間輸送を使用したら、ここは本国から七十五時間かかる僻地だ。
「補給はいつなの?」
ミラー中尉は、外骨格の腕に取り付けたタブレット端末を確認した。
「今から五十二時間後、輸送機から投下だ」
投下された機械部品のコンテナは、相当な重量があるに違いない。回収には重機が必要だ。
最近の【ピクシー】には、アップグレードで簡単なマニュピレータがついた。謝罪の印に手助けが出来ると思う。
「その時は声をかけて、回収を手伝うわ」
「ありがとう。そうさせて貰うよ……いつも思うんだけど、聞いてもいいか? 君たちの声はすごく幼いけど、いったい――」
「なにか、任務と関係ある?」
突然、険しくなったアリシアの声に、ミラー中尉は、おや?といった感じで立ち止まった。
「いや、世間話だよ」
アリシアは声をやわらげた。
「ごめんね。あたし達の立場って微妙なの。自分たちのIDは絶対に秘匿。あたし達は、あなたみたいに軍が守ってはくれないのよ」
「ああ、そうだな、悪かった。きみはとても可愛い声だな、アリー」
唯斗がぴくっと反応したので、アリシアはにやりと笑った。
ほらね、あたしってば声まで魅力的なの。うかうかしてると誰かに獲られちゃうわよ。
その時、ミラー中尉のタブレットに着信音があって、アリシアの視覚野にも、送話着信のアイコンが現れた。
受信をすると、音声のみでキオミのメッセージが届く。
『敷設した警戒網に反応、キャンプに進行中。自警団と推測』
「作戦に戻れってこと?」
『シモーヌ医師には了解済。戻って、ヌエ、アリー』
顔を上げると、ミラー中尉も同じ知らせを確認したようだった。
「今は四機しか出せないが、すぐに準備させる」
「あたしたち、もう行くわ。悪いけど、シートかなんかかけといてくれる?」
強化外骨格は、ここへ置き去りにするつもりだった。省電力モードで待機させたら、三日ぐらいはバッテリーが干上がる心配はない。カメラが汚れないように、埃よけだけしておけばいい。
「引き受けた」
「行くよアリー。時間が惜しい」
唯斗は、もう声まで変わっていた。完全に臨戦態勢だ。きっと退屈して、ゲームの始まりを待っていたのだ。
アリシアは、視線操作で視覚屋にプルダウンメニューを引き出し、【ピクシー】のアイコンを選んだ。
体感覚が切り替えられる瞬間、短い間だけれど、体感覚が消失した。




