すこしふしぎな世界の話 『町』
ある時私は1人の男に出会った。
こんにちはと挨拶されたので私もこんにちはと挨拶したのだが、彼が次に発した言葉に思わず顔を顰めてしまった。
「ねえあなた、私の影を知りませんか」
なんとも奇妙な質問だ。
もしかしてからかわれているのかとも思ったが、彼が至極真面目な顔をしていたものだから、頭がおかしいんですかと聞くのはためらわれた。
「どうしてそんな事を聞くんです?」
「どうしてって、そりゃあ自分の影がなくなっていたら誰だって驚くでしょう。気づいたらなかったんですよ、昨日は確かにあったのに」
男ははあ、とため息をついてうなだれたが、ふと私の足元を見ると血相を変えて私に詰め寄った。
何だというんだ、一体。
「ちょっとあなた!あなたも影がないじゃありませんか!」
どうしてそんなに落ち着いているんですか、と喚く男に、私ははあ、とため息をついて言ってやる。
「どうしてって、そりゃあここが『影のない町』だからですよ、旅人さん」