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一九六八年一月三十日0910


 砲撃は唐突に終る。

 得体の知れぬ植生の中で這いつく張り、土と木の破片を浴びながら耐えていた兵士たちには非常に長く感じられた。しかし、発砲音がした時に冷静に腕時計を確認していた少尉は、その時間が僅かに二分足らずだった事を知った。


 耳が、唸りを上げて炸裂した榴弾のおかげでよく聞こえない。彼は唾を何度か飲み込んで鼓膜に掛かった圧力を解くと、

「損害報告!」

 と声を張る。兵士たちが立ち上がり、直ぐに銃を構え、いびつな円形となって円の外側を警戒する。その間それぞれの分隊を率いる二人の軍曹が自分の分隊を回って点呼を行い、怪我の有無を調べた。既に一人の兵士が衛生兵から手当てを受けていて、衛生兵が手際よく左腕に添え木を当てている。

「ブラボー十名、アベル伍長が左腕骨折、他異常ありません」

「アルファ十名、全員無事です」

「本部三名、異常なし」

 軍曹三名が競う様に報告すると、少尉は、

「よし。直ちに撤退に移る。ハンガーステーション(ヘリ降着地点)まで後退、ピックアップ(収容)を要請、三十分後だ」

 通信担当の伍長が担った通信機で連絡を始めると、少尉は軍曹たちに、

「ブラボーを先頭に出発。アルファは後方警戒を六名に増員して備えろ。駆け足で行くぞ、かかれ!」

 分隊長たちが敬礼し命令を伝え始めると、

「軍曹」

 先任軍曹を間近に招くと少尉は、

「何が起きているのか意見を聞きたい」

 軍曹は黒い顔に懸念の色が濃い。

「直接的な敵の気配がありません。万が一、敵が周辺に潜んでいる、としたら、敵はニンジャとしか思えません」

 すると少尉は苦笑を浮べ、

「ニンジャならとっくに俺たちの首を欠いているだろうよ、軍曹」

 そして真顔になると、額に浮かんだ汗を無意識に拭いながら自論を展開する。

「敵さんはモーター(迫撃砲)じゃなく滅多にお目にかかれない野砲を持ち出した。この小道を我々がやって来ると踏んで、だ。この踏み分け道の終点に予め照準を合わせていたはずだな。最初の試射も一発だけ、きっちり道に当てていて、続けて修正する事無く効力射。軍曹、観測班なんか居ないよ。多分その辺に観測機器かなにか仕込んでいたのか、北の同士マオか、ゲジゲジ眉の書記長虎の子の偵察衛星からリアルタイムに情報を得たのだろう」


 隊列が動き始めると、二人は後方のアルファの前に入り、歩きながら話し続けた。

 通信担当の伍長は、通信機をさんざんいじくり回したが、ベース周辺は妨害電波が出ているらしく、切れ切れに音声が聞こえるがまともな通信は無理の様だった。

「引っ掛かったのはウチだけでしょうか?」

 先任軍曹が問うと、

「どうかな。他にもあるだろうな」

 少尉は既に遅れ気味になっているカメラマンの日本人を見遣る。二人の兵士が両脇から、縺れる足を必死で前に繰り出しているカメラマンを半ば抱えるようにして彼らの後ろを付いて来る。

「妨害電波が気になりますね」

「そうだな。北は大掛かりな攻勢を企んでいるのかも知れない」

 少尉が言った瞬間、轟音が響き木々が振動で震えた。しかし、ほとんどの者は驚きもせずに早足を緩めず、数名が空を見上げたが無論緑の天井が見えただけだった。

「えー、最初の一発から十七分経過。優秀なる我が空軍様の登場だ。間に合ったと思いますか?」

 先任軍曹の問いに少尉が答える前、ズシン、と地面が揺れ爆発音が連続した。

「間に合った、と思いたいね」

 苦笑を浮かべた少尉に軍曹も笑って返す。

「ホー親爺の砲兵隊は逃げ足が天下一品ですからな。結果はベースで聞きますか。帰った時の楽しみが増えましたね」

 ところがまさにその頃、ベースは大変な事になっていたのだった。


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