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名探偵・藤崎誠シリーズ

許さざる者 -名探偵藤崎誠が登場!-

作者: さきら天悟

「最近、何かあったのか?

この一ヶ月、アップしてないだろう」


藤崎はグラスをカウンターに置き、俺を心配そうにのぞき込んだ。

藤崎とは普段メールのやり取りをしているが、合うのは一年ぶりだった。

探偵をしている藤崎は察しが、確かに俺に何かがあったのだ。

こいつならもう分かっているかもしれない。


「ちょっと立て込んでいてな」


「仕事か?」


「いや、そうじゃない」


「なら、女か?」

藤崎は締まりのない顔で聞いてきた。


「そうじゃない」

やっぱり思っている通りだと思い、俺は苦笑いをした。

ワザと藤崎は確信を外している。


「それじゃあ、アイデアが行き詰まったのか?」


「アイデアなら書ききれないほどあるよ」


俺は『小説家になろう』に短編小説の投稿を続けている。

他人に自分の小説を読んでもらいたい!

という気持ちはない。邪心からだ。

自費出版で出した本を宣伝するためだ。


『愛と死のせつな』さきら天悟著 文芸社 648円


宣伝するのは止めた方が良いというアドバイスをいただくが、

これだけは止められない。

でも、そのかいあってか、1年で絶版になるのを免れた。


「親父が死んだんだ…」


藤崎は眉間に弱いシワを作り、包み込むような目で俺を見つめた。

藤崎には父親との関係を話したことがあった。

一ヶ月前の真夜中、突然、母親から連絡があった。

倒れて救急車で運ばれたと。

どこで?と聞くくと、母親は言い難そうに、「小料理屋で」と答えた。

愛人の店だった。


「許せないんだ…」


藤崎は黙って頷いた。

でも、そんな藤崎に、俺は少しイラッとした。

何もかも見通しているような感じで。


「お前に何が分かるんだ?」


俺は藤崎に八つ当たりした。

でも、藤崎は優しい目をしたままだった。

自分でも分かっている。

俺は落ち着こうとして、一つため息をついた。


「ごめん。

遠いところ来てくれたのに。

自分でも、混乱しているんだ。

何も手につかない」



藤崎は珍しくタバコを吸った。

今まで、嫌煙家の俺の前で吸ったことはなかった。


「憎んでいたやつが死んだら、

スッキリすると思ってたのに…」



「それはな、お前に一番作用していた人間がいなくなったからじゃないのかな」

藤崎は言葉を選んで言った。

理系の俺にとって、『作用』という言葉はすんなり頭に入る。



「親父がか?

そんな馬鹿な。親父の影響なんてまったくない」


藤崎は口を尖らせる。

そして、タバコの煙を俺に吹きかけた。


「やめろよ」

俺は手で仰いだ。


「お前のタバコ嫌いは、その一つだ」


「タバコ嫌い…」

俺は藤崎を見つめた。


「結婚のこともそうだ」


「結婚…」

俺はぼう然とした。

藤崎の言わんとすることがようやく理解できた。

タバコ嫌いは親父の影響だった。

親父はひどいヘビースモーカーだった。

親父が嫌いな俺は、親父が好きなタバコも憎んだ。

だから、今まで一度もタバコを口に付けたこともない。

結婚…

俺は結婚をしてはいけないと戒めている。

子供が嫌いだからだ。

子供嫌いの人間は絶対に結婚してはいけない。

先の不幸は目に見えている。

子供を不幸にすることは、人類の最大の悪だ。

でも、なぜ、子供が嫌いかと言えば、突き詰めれば、自分が嫌いということになる。

親を嫌う子供、こんな不幸は断ち切った方がいい。


他にもいろいろ思い当たることがあった。


「止めろよ、親父の影響なんて言うの」


「人とは、そういうものだ。

人はなあ、尊敬できる人や好きなものから影響されるより、

嫌いなものの方に影響されるんだ」


「やめてくれ。

親父の要素が俺に染みこんでいると思うと、死にたくなる」

俺は絶望的な気持ちになった。

思い起こせば、確かにそうだ。

今までずっと親父を憎み、反発してきた。

それが俺の人格を形成している。

俺は打ちのめされ、うなだれた。



藤崎は俺の背中に手を置いた。

温かみが伝わってくる。


「でも、お前の人生は、間違ってなかったさ。

自信を持っていう。

そんなお前が、俺は好きだ」

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