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出会い

「なぜ攻撃した!? まだ子供じゃないか!」

「女、子供だろうと例外はない。この街は殲滅区域に指定されたのだ。お前も国家魔術師ならその役目を全うしろ」

「殲滅区域に指定? そんなもの国王が勝手に決めたことだろう! なぜ関係のない人々を・・・」

「関係ないことはない。この街の住人は反乱を企てているという噂があった。だから・・・攻撃した」

「噂だけで人を攻撃しなければならない時代なのか・・・。なぁ? どうしてこんなにも血が流れてるのに俺たちの仕事はなくならないんだろうな」

「さぁな。俺もそれを教えて欲しいくらいだ」

 男が一人の少女を抱えて涙を流し、国を世界を嘆いていた。抱えている少女は10歳前後といったところだろう。体には深い傷があり、命があることが不思議なほどである。その二人を見下ろしている男も涙は流していないが顔は泣いていた。

 戦争によって失われる命。そこに何の差もない。お金持ち、屈強な男性、容姿端麗な女性、子供、赤ん坊まで全ての命に差などない。どの命も平等に死を迎える。

「何を難しく考えてるんです? いいんですよ。全部殺せば。俺たちの力はそのためにあるんだから。ほら、極大魔法で全てを殺してくださいよ。紅蓮の魔術師」

「俺は人を殺さない」

「あぁ? 人を殺さない? 国家魔術師としてあなたは失格です。そんなあなたには幻滅ですよ」

「幻滅してもらっても構わない。だが、俺は人を殺さない。俺がいる目の前で人は殺させない」

 髪を後ろで束ね、吊り上がった目がいかにも悪いそうな雰囲気を醸し出している男が眉をひくつかせながら再度問う。

「・・・本当に人殺しはしないと? 目の前の命を守ると?」

「ああ」

「そうですか・・・。なら、守ってもらいましょうか!」

 男は突然、民家に隠れていた一般人を標的にして魔法を放つ。目に見えない魔法。だが、一般人に向かって進む途中の瓦礫などを見えない何かが斬っていく。

 男が放った魔法は一般人の首に当たり、死んでしまう。

「何が守るんですかぁ? もう一人死んでますよ。あなたの覚悟は甘いんですよ」

「殺す必要はなかっただろう!」

「そうですねぇ! もっと死んでもらいますよ。私を止めるしか方法はないですよ。さぁ、どうします?」

「止めるさ! 止めてみせる!」

 二人が魔法を打ち合う。凄惨な打ち合いによって街一つが地図から無くなった。この戦いはミシッド街殲滅の影で消えた戦いであるが、この戦いの余波は凄まじいものであった。


「―――い、兄ちゃん。おい! 兄ちゃん!」

「おぉ・・・。すまん、少し考え事をしてた」

「何やってるんだよ。それで? これ買うの? 買わないの? どっち?」

「あ、あぁ、買わせてもらうよ。それにしてもこの都は活気があるんだな。どこもこうなのか?」

「どこの都もこんなもんさ。表は活気づいてるが裏では・・・ほら、あの通りさ」

 店の主人が指をさした方向を見ると子供や大人がボロ布を身につけ座っている。1人2人ではなく、裏路地には多数の人が座り、生気のない顔をしてただただボーっと空を見上げるばかりである。

「俺らもああならないために必死なのさ。その日暮らしのお金だけじゃなく、国に収めるべき税まで考えて売上を出さなきゃいけない。だから、表通りは活気づいている。1人でも多くのお客さんをってね。兄ちゃんありがとね!」

 店の主人から買った商品を受け取ると、歩み始める。目的はないが、この国の実情というものを知りたかったからだ。そして、この活気が都であるためだけでないということを知る。

「なるほど。異様に活気づいていたのはこのせいか。大武闘大会か・・・。優勝すれば望みは何でも叶えるとなったら誰もが参加しようとするだろうな。おっと」

 突然、後ろからぶつかられて体勢を崩しそうになるがどうにか踏みとどまる。ぶつかって来た正体を見ると子供であり、怒る気も失せる。そして、こけている子供に手を差し伸べて起き上がらせる。

「どうした? そんなに慌てると今みたいに危ないぞ」

「ご、ごめんなさい。ちょっと人に追いかけられてて・・・」

「追いかけられてて?」

 子供が走ってきた方向から男3人が走ってくる。そして、子供を見つけると3人は一斉に迫ってきた。

「おい、兄ちゃん。その子供をこっちに渡しな」

「いきなり渡せと言われてもな・・・。理由ぐらい聞いてもいいか?」

「ちっ、面倒だな。そいつが俺達の財布を盗んだんだよ。そのことがどれだけ悪いことか分からせてやろうってことさ」

 男3人は子供をボコボコにするようで徐々に距離を詰めてきていた。子供は後ろでガクガクと震えており、差し出す訳にもいかないなとため息をつく。

「財布は返すから許してやってくれないか?」

「あぁ? 返してもらうのは当然だが、それだけじゃ気が済まないんでね」

「子供相手にみっともないことしようとするんだな。そうだな・・・俺が相手になるよ」

「お前みたいなナヨナヨした奴に負けるわけないだろうが! 俺達を舐めるなよ!」

 3人が一斉に飛び掛るも、すんでの所でかわす。そして、3人の攻撃は1度も当たらないまま10分ほど過ぎようとしていた。3人とも息が上がっており、攻撃をする余裕がなくなってきた。

「て、てめぇ・・・何者だ?」

「俺の名前はグレン。しがない旅人さ」

「旅人? その身のこなしからは想像出来ないな」

「人は見かけによらないってことさ。さて、そろそろ終わらせようか」

 グレンは一気に走ると男たちの首元へ手刀を叩き込む。的確な一撃は確実に1人ずつ気絶させていく。そして、3人とも気絶させると壁によりかけて子供の元へと戻る。

「大丈夫か? もう2度とこんなことするなよ」

「あ、ありがとうお兄ちゃん・・・」

「さて、君の真の目的を教えてくれるかな? 演技力が凄くて気付かなかったけど、俺とこいつらが戦っている時の君の殺気は子供のそれとは思えない。何が目的かな?」

 ニコやかな笑顔を絶やさずに子供に問いただす。今まで不安そうな顔をしていた子供は一気にドス黒さを感じさせる笑みを浮かべる。それと同時にグレンも飛び退く。

「なるほどねー。君があの紅蓮の魔術師か。素晴らしい力だ。この国の王妃が気に入る訳だね。圧倒的なまでの力・・・そして、躊躇いなくそれを行使する精神力。ああ、どれを取っても素晴らしい。素晴らしすぎて壊したくなっちゃう」

「俺も簡単にやられるほどお人好しじゃないんだが。君は何者だ?」

「ああ、紹介が遅れたね。私の名前はリリス。この世界に混沌と絶望をもたらすために産み落とされた存在とでも言うのかしら。私としてはそんなことはどうでもいいのだけれど、その方が面白そうじゃない? いずれ世界は私によって闇が覆うことになる」

「そんな事を言う存在を放っておけるとでも?」

 グレンは左右の手に火球を作り出す。それぞれ色が違い、右手は赤色の炎、左手は青色の炎の球を圧縮する圧縮して圧縮し続ける。そうして出来た火球のエネルギー量は周りの物を溶かすほどである。

「な、なるほど・・・。この魔力、そして、それをコントロールする上手さ。私でもその火球を食らうと何かと面倒そうだ。だが、君の力を受けておくのはいいのかもしれない。さぁ、打ってきたまえ」

「・・・。いや、止めておこう。俺は人殺しをしないと誓ったんでね。まだ、何もしていない君を殺す訳にもいかない」

「甘い、甘すぎるよ! よほどあの戦争のことが忘れられないとみえる。しかし、そんなことでは闇がたちまち世界を飲み込み、終焉が来るだろう。忘れないことだ。私はいつでも世界を狙っているということを。そして、これはこれからの楽しい戦いへの感謝の気持ちだ!」

 リリスは地面へ手をつけるとグレンを見て高笑いをする。リリスの手から漆黒の闇が広がっていく。その速度は速く、たちまち周りの建物が飲み込まれ、無機質な物へと変貌する。物はそこにあるのに気配を感じない、そのような物へと変わってしまった。グレンは闇を避けつつ大通りへと出る。

 リリスは地面から手を離すとグレンへと歩いていく。その間にも闇はリリスは起点にどんどん広がっていき、人間を巻き込み、拡大していった。

「どうだろうか? 闇が世界を包み込んでいくのは。さすがにフルパワーではないのでこんなものと思われたくはないのだけれどね。それでもこの力だ。いい加減に君もその枷を外して攻撃してきたらどうかね? じゃなければ、この街は滅びることになる」

 グレンは目を閉じ、一瞬考える。自らの枷は重い。あの時に人の命の重みを知った時からグレンは殺さないことを信念にやってきた。だが、目の前のリリスはそんなことを嘲笑うかのように次々と人々を殺していく。

(・・・もう、誰も・・・)

「・・・もう、誰も殺させない!」

「そうだ! それを待っていたんだ! 君との戦いは面白くなりそうだ!」

 グレンが火球をリリスに向かって放ち、リリスも闇でそれに対抗しようとした瞬間に突然、声が発せられる。

「そこまでです! 私の国でこれ以上の振る舞いは許しません!」

 その声の方向を二人は見る。そこには、金髪の美少女が立っている。鎧をまとい、腰には剣を携え、威風堂々とした彼女に二人は戦闘を中断する。彼女の横には従者と思われる人物が二人おり、歴戦の戦士のようなオーラを感じさせる。

「これだけの被害を出したのですから覚悟は出来ていますね?」

 彼女たちの参戦により、大きく戦いは変わる。そして、グレンの心は揺らぎ、新たなる決意を迫られることになる。

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