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僕《スウィンダラー》は決して正義を騙らない。  作者: 雉里ほろろ
第一章:王女と嘘つきの国盗り
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第八話:騎士団長

 第八話:騎士団長



「とりあえず……もう騎士団の食堂には戻らなくていいかな」

 というより戻りたくない。今頃酔いつぶれた酔っ払いとテンションの高い酔っ払いとまともそうに見えて駄目になってる酔っ払いしかいないだろうから。

「この袋は……明日にでも厨房に置くかな」

 とりあえず今日は部屋にもって帰ることにした。

 


 廊下を歩いて自分の部屋に戻る途中、カツカツと誰かが廊下を歩く音が聞こえてきた。

 一瞬見回りかな、と思ったけれどそれにしては歩く速度が早い。見回りはゆっくり目に歩くのが基本らしいのだが(元の世界ではどうなのか知らない)、音の感じ的には早歩きくらいかな。

 足音はこっちに近づいてきている。


「って、あれ? 団長さん?」

「おろ? 何でシュー坊がここにいんの?」


 曲がり角から姿を現したのは、何とこの国の騎士団団長、リカード=アルテルさんだ。

 ただ、彼の今の格好は普段僕が見慣れている騎士団統一の鎧姿ではなく、防具としてよりもむしろデザインを意識した、鎧と服の中間少し服寄りくらいの格好だった。かろうじて腰にはいつもの剣を差しているけど。


「団長さん、今パーティーの真っ最中だよね」

「ああ」

「何でこんなとこいるんですか?」

「そりゃ逃げてきたからな」

 この人……悪びれることなくあっけらかんと言い切りやがった。

 そんな僕の視線に気付いたのか、慌てて良いわけをする団長さん。

「い、いや、あのな? シュー坊は知らないかもしれないが貴族の晩餐ってめっちゃ怖いんだぞ? 明らか目つきが獲物を見る獣の女性陣が詰め掛けて来るんだぞ?」

 世のモテない男性が聞いたら血涙を流しそうな発言だな。

 仕方ないけど。


 この人は正直言って優良物件過ぎるのだ。

 この王国でもっとも尊敬され、老若男女問わず憧れの対象である騎士団。そこの団長を24歳という若さでしてるくせに未だ結婚もしてないんだから。

 名字が無いことから分かるとおり彼は元一般市民だったが、剣の才能と社交性、そして集団の指揮と騎士に必要な素質だけを集めてきたような天才だったためにこの歳で騎士団長だ。元一般市民であることすらもはや関係ないくらいの立場。こんな物件ほっとくわけが無い。木下くんと並べるくらいイケメンだし。本人は「剣がありゃぁ、別に何もいらねぇけどな」なんていってるけど。

 おまけに元一般市民からの超出世で、市民や同じ市民出身の騎士からの信頼も厚い。貴族からはあんまり好かれてないみたいだけど、持ち前の社交力で上手くやっている。

 ちなみにこの人が木下くんたちに剣術の戦闘訓練をつけているらしい。


「にしてもシュー坊こそどうしてこんなところに? てっきりシュー坊も晩餐に呼ばれてるもんだと思ってたから出席してシュー坊を盾代わりに使おうと思ってたのによ」

「何気にひどいなオイ。僕は見回り組みの騎士に差し入れだよ」

 そういって腰にぶら下げてある袋を見せる。

「………まだ残ってる?」

「残ってるけど……飲んできたんじゃないの?」

「あんな空間で落ち着いて酒なんぞ飲めるか。よしシュー坊、中庭出るぞ付き合え」

「は、ちょ!」

 抵抗したけど鍛えている団長さんに敵うはずもなく、抵抗むなしく僕は城の外の中庭に連れ出された。



 連れてこられたのは中庭にある小さな噴水。まぁ、中庭とか言っても結構広いんだが。

「どっこらしょ」

 妙に年寄り臭い台詞を吐きながら団長さんは噴水の傍のベンチに腰掛けた。

 やれやれ、とため息をつきながら僕もベンチに腰を下ろす。

 そのまま袋から残ってた酒瓶のうち一本を差し出す。

「おう、サンキュ」

 受け取った団長さんはそのままラッパ飲みを始めた。凄まじい飲みっぷり。内臓に悪そうだ。

「ぷはー」

「おっさん臭いぞ24歳」

 僕がそういうとギクッとしたように団長さんが身じろぎした。


「んで、何が悲しくて僕は野郎と夜空を見上げながら酒盛りをしなきゃならないんだよ」

 時間的には晩餐はようやく中盤に差し掛かったくらいかな。僕の今日の目的は達成したけど、疲れたから出来れば部屋に戻りたい。

「釣れねーこというなよ。せっかく報告聞こうと思ったのによ」

 その言葉に今度は僕が反応する。

「第二王女様には会えたか?」

「ああ。良い返事ももらえたよ」

「そうか」

 大きな息を吐いて団長さんはベンチの背もたれに寄りかかって空を仰いだ。

 

 僕がアリスの居場所を聞いたのは彼からだ。

 彼が、僕の協力者。

「なぁ、シュー坊。ホントにこの国は変わると思うか?」

「変える、の間違いでしょ。僕にかかれば容易いよ。協力してくれればだけど」

 彼が僕に協力してくれる理由。それはアリスの理由とまったくといって良いほど同じだった。


 この国をよりよくするため。


 その一点に限る。

「そっか。――――今の王は、この国は、駄目だろ。そうだよな。変える、だよな」

 確かめるように呟く。

 彼は市民出身の騎士からの信頼は厚いが、その分貴族組に敵は多い。持ち前の社交力の高さで表立って対立しているわけではないが、僕がこちら側に勧誘した段階で今のこの国の状態では駄目だと確信していた。

 いつも国王の傍に仕えている騎士団副団長のガイオス(最初は僕もてっきりコイツが騎士団長だと思った)を中心に、貴族と貴族出身の騎士で固まっているらしい。そのことで民衆への生活に影響がでているのだとか。

 市民出身の騎士は城下町の見回りなんかも自分の町ということで進んで行い、市民の生活の現状を目の当たりにしているのだが、貴族出身の騎士はそれすら怠りひどい有様なんだとか。

「騎士団のうち、約四割の市民出身の騎士は、俺が何とかする。だから頼んだぜ?」

「貴族その他諸々は僕がどうにかする。だから任せといて」

 そして彼はこの世界に来て、初めて僕が信用した人でもある。

 この騎士団長は僕たちが、というより木下くんが召喚されていなかったらひょっとしたら勇者になっていたかもしれないような人だ。

 剣の腕前もさることながら、何より彼には裏表が無い。

 今こうして僕と一緒に仲良く酒を飲んでいることも、革命を起こしてこの腐った国をどうにかしたいと思っているのも、全部本心。しかも、一切の打算も無い。


 どこまでも真っ直ぐで、どこまでも正直で、どこまでも優しい、勇者のような男。

 それが、リカード=アルテルだ。


「シュー坊、お前の言ってた作戦だけど、ホントに上手くいくんだろうな? いや、別にシュー坊を信用してないわけじゃないんだがよ、シュー坊の作戦が上手くいかなきゃ俺もどうしようもないんだぜ?」

 だからこそ、僕も信用して、今回の作戦の全貌を話しているんだけどね。

「大丈夫。この作戦の詳しい内容を知ってるのは今のところ僕と団長さんの二人しかいない。作戦はバレないし、もし不安なら、作戦が成功しなかったときは何食わぬ顔で僕を切り殺せば良いよ。そうすればまさか団長さんが僕の味方だったなんて誰も気付かないだろうからこれからの城での生活にも何ら支障は出ないよ」

「いや、シュー坊が失敗したときは素直に俺も死ぬけどよ。――――じゃ、信じて俺はギリギリまで国王に仕えておくぞ?」

「うん、そうしてほしい」

 そういって僕はベンチから立ち上がる。


「それじゃ、冷えてきたし僕はもう部屋に戻るよ」

「おう、ありがとな」

 団長さんが僕に向かって軽く手を挙げる。

「いいよ。それよりまた今度は団長さんも王女様に紹介するから」

 それに僕も軽く手を挙げひらひらとふって答える。

「あ、ついでにこれもあげる」

 腰にぶら下げておいたアイテム袋を取り外して、団長さんに投げ渡す。

「中にまだ酒瓶がもう一本と適当なつまみが残ってたはずだから」

「おう、サンキューな」

 それを受け取って快活そうに笑う団長さん。

「でもさ、一応騎士団団長なんだからパーティー抜け出すのは不味いんじゃないの? 明日以降誰かになんか言われても知らないよ?」

 その笑顔が笑顔のまま固定された。

「い、いや、な。晩餐って怖いんだよ」

「僕からしたらあれほど楽しそうな舞台無いと思うけどね」 

 まさしく僕の戦場じゃないか。

 そういうと、団長さんは深いため息をついた。

「はぁー…………。そんなこと言えんのは性根の腐った貴族以外じゃお前しかいねーよ」

「お褒めに預かり光栄です、と返しておくよ」

 皮肉に皮肉で返して、僕は自分の部屋へと向かった。

 にしても団長さんもこの国の最重要人物の一人だっていうのに、ホントに抜け出したりなんかして大丈夫なのか?

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