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僕《スウィンダラー》は決して正義を騙らない。  作者: 雉里ほろろ
第一章:王女と嘘つきの国盗り
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第七話:明かりが欲しいから

最近忙しくて書けない……

第七話:明かりが欲しいから

 


 アリス王女も、後ろのメイドさんもポカンとしている。

「で、どうでしょう、僕にも貴女の夢を、手伝わさせてくれませんか?」

 しばらくの沈黙、そして。

「ふっ、ふふふっ!」

 こらえるように小さく笑い出すアリス王女。

 指で涙をぬぐいながら、僕に視線を向けてくる。

「ふふふっ、いいわ。私の夢に協力してくれるかしら、詐欺師さん?」

「もちろんですとも王女様」

 そういってお互いにわざとらしくそういい、アリス王女は耐えられなくなって小さく噴出す。

「ふふっ、やっぱり私にこういうのは似合わないわ」

「そうですかね? よくお似合いだったかと思いますけど?」

 そういってまた笑う。

「はふぅ。――さて。改めて、私はガーナ王国第二王女、アリス=ガーナ=ユーテリア。あなたの名前を教えてくれる?」

「僕の名前は雪車町終夜。名字が雪車町で名前が終夜。しがない詐欺師にございますアリス様」

「その演技がかった話し方はやめてくれる? その妙な敬語も要らないわ。私のことはアリスって呼んで。私もあなたのことをシューヤって呼ぶし」

「分かったよアリス」

 僕が演技を崩し、口調を戻してそう呼ぶと、若干アリスがたじろぐ。

「み、妙にあっさり呼ぶわね……」

「え、だってそう呼べって」

「い、いや、そうだけど」

 …仮にも私王女……とか小さい声で呟いてるけど気にしない。

「で、そろそろナイフ、どけてくれません? もう僕恐怖で倒れそう」

 そういうと、後ろのメイドさんはナイフをどけてくれた。

「失礼しました。私の名前はミリアといいます。見てのとおり、メイドとしてアリス様の身の回りの世話と護衛をしています。これから仲間同士、よろしくお願いします」

 そういってミリアさんはお手本のような綺麗なお辞儀をした。

「うん、よろしくミリアさん」

 ミリアさんはおとなしくナイフを仕舞ってくれた。よかった。死ぬかと思った。

「ところでシューヤ。あなたは、本当に私に協力してくれるの? 本当に、私の夢を叶えてくれるの?」

 アリスが確認をするように聞いてくる。

 まぁ、確かに普通は信用なら無いよね。

 だから。

「キミが、望むなら」

 それに再び、わざと演技っぽく答える。

 はぐらかすように。

「わかった。

 ――シューヤ。私はね、皆が幸せになるような国を作りたいの。何を夢物語をって思うかもしれないけど、私は夢物語を夢物語のままで終わらせたくない。でも、私には覚悟はあっても力が足りない。だからシューヤ。あなたの力を貸してくれないかしら」

 そういってアリスの真っ直ぐな眼差しが僕に刺さる。

 ほんと、この人も眩しいや…。

 ひょっとしたら僕は、こんな風にアリスや、木下くんや早乙女さんや椎名さんみたいな、真っ直ぐで綺麗な人に惹かれやすいのかもしれない。


 無いものねだりをする子供みたいに。


「任せて。僕が全部、騙しきってみせる」

「……そこは剣に誓ってもとか、そういう風に返すところじゃないかしら」

 アリスが口を尖らせてそういう。

「お生憎様。僕は誓えるような剣がないんだよ」

 それに僕も皮肉気に返す。

「ふふっ……ま、いいわ。これからよろしくね、シューヤ」

「こちらこそ、アリス」

 そうしてアリスは、目も眩むような笑顔を見せてくれた。

 

「で、作戦はあるの?」

「うん、任せておいてくれれば絶対に勝てる。まぁ、ちょっとはアリスにもしてもらうことがあるけど」

「? 何?」

「簡単なこと。僕の準備が整ったあとで革命を起こして欲しいんだ。それまでは待機だね。準備が整ったら正面切って宣戦布告だよ」

 そういうと、アリスが慌てた。

「でも私たちには戦える戦力が……!。民衆を巻き込むわけにはいかないし……」

「大丈夫、民衆に死者はでない。というより、戦わせないから。そもそもに初めから一緒に革命に参加させるつもりもないし。聞きたいことがあるんだけど、アリスに協力してくれそうな人は僕とミリアさんを除いて誰がいる?」

「…………宰相のジョセフさんは、昔から私のことを気遣ってくれてたから、協力してくれるかもしれない。他の人は……たぶんみんな父と姉の方につくわ」

「なるほど。ジョセフって言えば……あぁ、最初に王の隣で下手な芝居を手伝わされてた人か」

 僕たちに頭を下げる王を諫めて、それに対して王がもっともらしいことを言うことで僕たちに王は良い人であるというアピールを手伝わされてた人か。

 僕からしてみれば演技が微妙だったし、何より不本意そうな表情が若干見えたからあの人は国王派じゃないんじゃないだろうかと思っていた。

「ま、ようするに城ではほぼボッチ状態ということでいい?」

「……面目ないです」

 アリスがシュンってなった。あれ、どうしよう可愛い。

「まぁ、協力者は居ても居なくても関係ないんだけどね。既に一人確保してるし」

「え? どういうこと? 誰?」

「そのまんまの意味だよ。この城の中に、アリスと同じこの国を変えたいと思う正義の心の持ち主さんがいたんだよ」

 そういって僕は部屋を出て行こうとする。

「もう帰っちゃうの?」

「うん、今日は僕を売り込みに来ただけだから。また来るよ。そのときはその協力者さんも連れてね」

 そのまま僕はアリスの部屋を後にした。


 ☆ ☆ ☆


「アリス様、本当に良かったのですか?」

 終夜が部屋を出た直後、ミリアは自分の主に問いかける。

「どういうこと?」

「あのシューヤという男ですよ。あの者を本当に信用してしまっていいのですか?おまけに協力者など……」

 ミリアの言葉に、アリスは「ああ」と納得したような声を出す。

「うん、きっと彼は大丈夫だと思う。嘘をついていないって確証は無いけど、彼が私に協力してくれるのは本当だと思う。もしそうじゃなかったら真っ先に私は殺されてたわ。それに来るのももっと真夜中だったでしょう」

「まぁ……アリス様がそうおっしゃるのでしたら構いませんが」

 そう言いながら、ミリアは先ほどのシューヤとの会話の間ですっかり冷めてしまった紅茶を淹れなおす。

「それに、今の私には少しでも多くの味方が必要なの。じゃないとどうしようもないわ。まさか向こうから来るとは思わなかったけど……」

 アリスはミリアからティーカップを受け取りつつ呟いた。

 アリスは召喚された勇者のこともミリアから聞いていたし、その内の一人が勇者からはずされたことも聞いていた。

 そして彼女は元々、隙を見て彼と接触し、自分たちのほうへ引き込むつもりだったのだ。

この城でミリア以外に信用できる仲間が居ない彼女は、先入観といったものを持ってい

ない終夜、というより勇者たちに目をつけていたのだが。

「私たちの代わりにこっそり色々やってもらえればいいなとは思ってたけど、まさかそれ以上とは……」

「本当に彼はこの状況からどうにかできるというのでしょうか? 少なくとも私には見当もつきませんが……」

「私にもどうするつもりなのか分からないけど……期待して待ってるしかないわね」

 そう呟きアリスは紅茶を飲む。

 そうしてその紅茶の熱さで思わず小さくむせた。

 彼女も案外動揺していたらしい。


 ☆ ☆ ☆


「はふぅ―――――――――、緊張したぁ……」

 夜の廊下を歩きながら、周りに誰も居ないことをいいことに長い長い息をつく。

 廊下には僕が歩くカツカツという音だけが鳴って、あとは静かなものだ。

「さてと、活動基盤?はできたし、あとは色々と実行していくだけか」

 アリスによる革命。やろうと思えば今すぐにでも出来ないことは無いかもしれないが、確実に成功させようと思ったらもう2、3手は欲しいところ。

「…ただまぁ、料理長いわく隣の国がきな臭いらしいから、早めに行動するべきだよなぁ……」

 隣にあるコリアトという国が最近戦争をする準備を始めているとのこと。それに反応して食材やら武具の値段が高騰しているそうだ。

 この国に攻めてくるっていう確証は無いんだけど、この国と対立してる国だし、攻めてくるとしたらこの国以外にないんだよなぁ。

「ま、なんにせよ一回自分で確認しておかないとな。情報に聡いのは商売人っていうのは時代も世界も超えて共通だろ」

 また料理長からお使いを頼まれて食材とか必要なものの発注を受け持って城の外に出させてもらおう。

「何て言うんだっけかな……そうそう、人事を尽くして天命を待つ、か」

 やれることはすべてやろう。何せこんな大掛かりなことは生まれて初めてだし、失敗しましたじゃ取り返しがつかないから。

「ま、そこがやる気になるんだけどね」


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