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僕《スウィンダラー》は決して正義を騙らない。  作者: 雉里ほろろ
第一章:王女と嘘つきの国盗り
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第六話:晩餐の裏で

第六話:晩餐の裏で



 勝手に図書室に入って色々と調べ物をしていると、気がつけば夕方になっていた。

 この周辺の地図を1枚拝借して慌てて自室に戻る。

 そろそろ例の晩餐とやらが始まるだろう。行動するなら今だね。

「とりあえず、晩御飯食べに行きますか」

 僕は騎士団の詰め所にある食堂に移動することにした。


 食堂に入ると、やたらと酒臭い匂いが鼻を突いた。それにあわせて響く大きな笑い声。

「おい、シューヤが来たぞ!」

「なんだ、やっぱお前も晩餐には呼ばれなかったクチか!」

「馬鹿、俺らみてぇな下っ端が呼ばれるわけねえだろ! 団長、副団長と、貴族出身のお偉い騎士サマしか出てねえよ!」

 どうやら晩餐に呼ばれなかった一般市民出身の騎士たちはこっちで勝手に酒盛りを始めているらしい。確かに偉い人も面倒くさい貴族出身の騎士も全員いないからはっちゃけても大丈夫だろうけど。

「おいおい、あんまり飲みすぎるなよ?」

 そういいながら、僕も近くに居た騎士からお酒の入ったジョッキを受け取る。

 それに軽く口をつける。うぇ、苦い。

 適当に近くの席に着きつつ、大皿に盛られた料理を食べ始める。これはひょっとしなくても料理長たち厨房組も絡んでるな。さっきからジョスを含む料理人見習い組が料理配ってるし。料理長とかは晩餐会のほうの給仕とかで忙しいんだろうけど。

 おつまみみたいな料理が多いけど、おいしいから良しとしよう。


「おうシューヤ、お前さんも飲め! どうせ俺らは同じ下っ端組だ。今日だけは楽しくやろうぜ!」

 そういってぐいぐいやってくる知り合いの騎士たちと乾杯をして、お酒に軽く口をつける。うぇ、やっぱ苦い。もういらないや。

 しばらくして、窓からちらりと外を見ると、夕暮れだった空はすっかり黒に染まっていた。今頃、晩餐会のほうも頃合だろう。


 ―――そろそろだな。


 僕は酔って絡んでくる奴らを適当にあしらいつつ、騎士に料理を配っている厨房の見習い組に声をかける。

「なぁ、城のほうで見回りについてる奴らにも少しくらい酒の差し入れをしてやりたいから、酒とつまみになりそうなものをくれないか? 僕が持って行くから」

「おう、シューヤ、そいつはありがたい。見回り当番の連中にも楽しんで欲しいからな!」

 そういって僕は小さな袋を受け取る。

 この袋は魔道具とか言うものの一つでアイテム袋。正式名称は魔法空間収納袋。見た目よりもずっと多くのものが、重量を無視して入るという便利アイテムだ。

 ちなみにこの世界には魔道具と魔導具という名前の似た二つがあるのだが、魔道具はこの袋みたいに魔法を利用した道具のこと。大抵のものはどこかに魔法陣が刻んであり、当然だけど普通の道具より高い。そして魔導具は魔法を使うときに使う触媒やら媒体(例えば杖とか魔術書とか)のことを指す。こっちは魔法使いに必須のアイテムだ。

「それじゃ、行ってくるよ」

 そういって僕は騎士団の詰め所を後にした。


 城の中を歩く。行き先はあらかじめ騎士団長さんから教えてもらっている。

「止まれ! 何者だ! ………って、なんだ。シューヤか」

 途中で見張りをしていた騎士に止められるけど、大丈夫。

「どうしたんだ?こんな時間に」

「いや、見張り組に差入れをって思ってね。ハイこれ」

 そういって僕は腰の袋から酒瓶を一つと、おつまみになりそうなものを少し渡す。

「おおマジか! ありがてぇ!」

 そういって受け取った騎士は喜ぶ。

「見張りが出来ないくらいに酔っ払わないようにな。あ、あと向こうの奴らにも渡してくるから行っていい?」

「おういいぞ! 渡してきてやってくれ! いやぁ、ホントありがとな!」

 そういって見張りの騎士さんは快く僕を先に進ませてくれる。

 心の中で、そんなんでいいのかと思いつつ、目的の場所へ向かう。


「ここか」

 何度か同じように騎士たちにお酒とおつまみを渡して、たどり着いたのは何の変哲も無いただの部屋の扉。だけど、ここが目的地。

「あー緊張する」

 リラックスのため首を軽く回す。今から騙すのは今までとは分けが違う。僕のこれからを左右できるほどの大物だ。そりゃ多少は緊張する。

「よし。それじゃ、行きますか」

 ここからはスイッチを切り換えろ。完璧に演じきれ。

 目の前の扉を開け、中に入る。

 そこには。


「あなた、誰?」


 長い銀髪をなびかせる、美少女がいた。


「誰ですか」

 直後、その美少女の隣に居たメイドさんが姿を消したかと思うと、首元に冷たいものが押し当てられる。まったく動きが見えなかった。どんな瞬間移動だ。マジで異世界怖い。

「誰ですか。答えてください。何が目的です?」

 首筋に押し当てられる刃物が痛い。物理的には軽く触れるくらいしか当たっていないのに、殺気みたいなものが突き刺さる。

 だけど僕は、そんなものを無視してポーカーフェイス。内心はビビりまくってるけど、表には微塵もださない。

「僕は雪車町終夜。お初にお目にかかります第二王女、アリス=ガーナ=ユーテリア様」

 その言葉に、目の前の銀髪の美少女、アリス王女の表情が軽く動く。

「…………どうして私が王女だと?」

「そんなもの、メイドやら騎士やら、この城に働く人の間にとっては公然の秘密でしたよ? 妾の子供で、隔離されている第二王女。家族として認められず、へイドリッヒではなくお母様の系名であるユーテリアを名乗る王女様。何でも、この国を変えるために現王を倒すおつもりだとか」

 僕の言葉に、さらにアリス王女の顔が驚きに染まる。

 ちなみに、系名というのは元の世界には無かったものであって、この世界の人には名前・名字・系名の順で呼ばれる。系名というのは名字と似ているけど少し違うもので、名字は一般には貴族しか持っておらず代々変わることなく受け継ぐものだけど、系名というのは結婚の際に自分たちで決められるものらしい。子供は親と同じ名字と系名を受け継いで、結婚の際に系名だけを結婚相手と一緒に考えて変えるらしい。一般市民は名字が無いので系名だけを受け継いで、結婚の時には変える人もいるけど名字のようにそのままで引き継いでいく人のほうが多いらしい。

「そんな……革命は誰にもバレていないはず……」

 後ろのメイドさんが小さく呟いた。

 可能性は半々だったけどドンピシャか。状況証拠はあったけど。

実の父に疎まれて隔離されて、不満を抱いていないはずが無い。それに、噂では彼女は民衆の気持ちを考え、飢える民を嘆く優しい王女って評判だったし。ほんとかどうかは情報が少なくて怪しかったけど、それでも評判が本当なら革命の一つや二つ考えていたっておかしくない。

まぁ、これでもし革命する気が無いような王女だったら今からすぐに口車に乗せて担ぎ上げてその気にさせていただけなんだけどね。

でも、可能性は十分高いし、実際ビンゴ。手間が省けた。

 それよりも、

「とりあえず、首元のナイフどけてくれません?」

「駄目です。あなたはまだ信用できないので」

 残念。

「それで? 貴方はどうしてここに来たのかしら? ひょっとして私を殺しに?」

「まさか。だったらこんな風に正面から堂々とお邪魔したりしませんよ。……だからナイフに力を込めるのやめてくれません? 皮膚と心が悲鳴を上げてるんですけど」

 痛い痛い。血、出てないよね?

「だったら何のようなの?」

 アリス王女は首をかしげながら聞いてくる。やっぱり王女なのだろう、その小さな仕草一つとっても優雅だった。

「いえ、たいしたことじゃあありません。僕もそれに一口噛ませてもらおうかと思って。僕なら、すぐに貴方の目的を達成することが出来ます」

「! ……理由は? 貴方のメリットは?」

 動揺しつつも、表情を崩さないように努力するアリス王女。

「無理してポーカーフェイスを貫こうとしなくてもいいですよ? そうですねぇ、理由は僕も民が飢えるのが心苦しく……なんて嘘をつくのはやめて、正直に言いますよ」

 そういって小さく笑う。


「僕は知り合いといっしょにこの世界に勇者として召喚されました。そして、僕は戦えないと判断されて勇者パーティーからはずされました。

 今の王は、はっきり言って僕は信用できません。魔王を倒すためといって僕たちを勇者として呼び出しましたが、それが本当かも怪しい。そんな相手に、僕の知り合いが良い様に使われそうになっているんです。

 貴方なら、正しく国を動かしてくれるでしょう。そのために僕は貴方に協力したい。そしてすぐにでもこの国を変えたい。

 この理由じゃ駄目ですか?」

 嘘だ。

本当の理由はこんなことじゃない。確かに木下くんや、早乙女さんや、椎名さんの安全も確保したいけど、それはある意味ついでだ。


僕は、自分のこの能力を使いたい。使ってくれる人の下につきたい。それだけ。

だから、嘘をつく。


「この理由じゃ、僕を使ってくれませんか?」


 僕の言葉を受け、アリス王女が考え込むように俯く。

「…………貴方、さっき戦えないといったわよね? 貴方は私の悲願を、夢を叶えてくれるといったけど、それは本当に出来るの?」

「ええ、出来ますよ。僕は勇者とは戦場が違うんです」

「……どういうこと?」

 アリス王女が小首をかしげる。後ろのメイドさんも意味がよく分からないようだ。

 だから、懇切丁寧に説明する。

「僕の戦場は草原や森や洞窟なんかじゃないんですよ。

 僕は勇者でも、戦士でも魔術師でも、指揮官でも軍師でもスパイでも、何でもありません」

 そして笑う。


「僕は、詐欺師ですから」


さらにヒロイン候補の登場です。

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