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僕《スウィンダラー》は決して正義を騙らない。  作者: 雉里ほろろ
第二章:軍師と嘘つきの戦争
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第四十三話:それから

びっくりするぐらいお久しぶりです。

 第四十三話:それから



「あ、起きた?」

 目が覚めると、目の前には大きな二つの山が――――ごめん、ちょっと寝ぼけてた。さっきの言葉は忘れて欲しい。うん、大丈夫。大丈夫だから。何も無いから。膝枕って、実際頭置いてる部分は太ももだよね。

「…………早乙女さん?」

「そうだよ終夜くん。よかった起きてくれて……!」

 見れば早乙女さんは肩で息をしている。

「お、雪車町起きたのね。まったく、いつまで寝てるんだか」

 投げやりにも聞こえる椎名さんの言葉だけど、言葉の中に心配の気持ちが混ざっているのが分かる。

 そして、あれ? 

「えっと、ここは……?」

「ここはリザの住んでいた洞窟の中よ」

 ああ、そうだったそうだった。道理で妙な洞窟にしては見覚えがあると。

 どこから持ってきたのだろうか、ガラクタの散らばった洞窟の床には人数分の毛布が敷いてある。 

 椎名さんと早乙女さんはすぐ傍で、木下くんは――あ、いた。リザと何か喋っているのかな? 少し離れたところに小さなリザと木下くんの姿が見えた。


「えと、とりあえず、僕ってどのくらい寝てたの?」

「丸々二日。アンタが目を覚まさない間、詩歌ったらずーっとアンタに回復魔法かけてたんだからねー?」

「ちょ、灯ちゃん!?」

 ふむ、回復魔法を二日間かけ続けてようやく起きたのか。つまりそれだけの負担が僕にかかっていたと。

 ………………もう二度と、あんな無茶はしないでおこう。直接戦闘は仕方が無かったとはいえ僕には無謀すぎた。戦闘訓練をしていないどころか、日々の生活の中ですら運動不足気味なただの男の子に、剣を振ったり何だりは無理だ。無茶だ。

 そうそう。一応足は繋がってる。力を入れて見ると動く。ちゃんと動くな。良かった。これで下半身不随とか、それは本当に困る。冗談じゃない。

「そうなんだ。早乙女さん、ありがとうね」

 看病してくれていたらしい早乙女さんにはお礼を。

「あ……う、うん…………」

「それで、だ。えーっと、とりあえず状況説明をしてもらえると助かるんだけど…………」

「それなら、私がするわ」

 椎名さんが説明を申し出てくれた。素直にをお願いする。


 椎名さんの要約によると、こうだ。

 僕が気を失ったあと、戦後の話し合い(というかこっちの一方的な要求になると思う)のために国の代表者であるアリスを呼ぶ必要が出てきた。のだけれども、流石に自分の国の女王様をホイホイ簡単に国外に連れ出すのは難しい。だったら代理で僕でも良いんじゃないだろうか? ちょうど外交関連の決定権はアリスに次いで二番目なんだし、ということになったらしい。まさかあのとってつけたような役職名が効果を発揮するとは。その本人が目を覚ますかが不明だったけど、今僕が目を覚ましたから問題はなくなった。

それで、ひとまずは僕が目を覚ますまで安全なリザの巣に篭ることにしたそうだ。


「とりあえず状況は分かったけど……」

 体を起こして背中を伸ばす。二日も寝ていたからか、全身が痛いし気だるい。

 …………そして、真っ二つに切られたせいでもう使い物にならなさそうな僕の学ランはどこに行ったのだろうか。何故、僕の服装が変わっているのかは怖いので聞かないことにしよう。どこにでもあるような安物の服の袖に、見るからに高級な布で出来た腕章は凄く似合わない。

 リザの加護つきのペンはポケットに入っている。そこはリザか、もしくは木下くん達の誰かが回収してくれたのかな?

「にしても雪車町も無茶したものよね。正直、驚いたわ。あんたってあんなことするタイプに見えなかったもの。あんたが剣を持って走り出したときは、そりゃびっくりしたわ」

「それに関しては何も言い返せないです、ハイ」

 僕だって穏便に済ませられるならそうしたかったけれど、喧嘩を売られちゃったんだからつい買っちゃったといいますか。いや別につい衝動で、っていうわけじゃないよ。あの状況は有無を言わさなかったといいますか。

 にしても。呆れてるのだろうけれど。

「ひょっとして、心配してくれてたの?」

「はぁ? 心配してたのはあたしじゃなくて詩歌のほうよ」

「ちょ、灯ちゃん!」

 椎名さんの言葉に大きく体を跳ねさせた早乙女さん。というよりも、椎名さんは心配してくれてなかったのだろうか。だとしたら少し悲しい。

 それとやっぱり早乙女さんには心配をかけちゃっていたみたいだ。申し訳なく思う。

《…………うむ? おお、シューヤが目を覚ましたのかの》

「良かった。気分はどう?」

 そこで、離れたところで話していた二人がやってきた。

「ああ、木下くん。気分は大丈夫だよ。なんだか心配かけたみたいだね」

 安心した表情を見せる木下くんを見ると、なんだか申し訳ない気持ちになってくるね。

「で、雪車町。起きてすぐで悪いんだけれど」

「うん、分かってるよ。話し合いに行かなきゃ行けないんでしょ?」

 椎名さんが言うまでも無く、僕も分かっている。丸々二日寝てたのだから、起きてすぐであったとしても出来るだけすぐに戦後処理を済ませておきたいのだろう。

「ということで、さっそくで悪いんだけれどリザ、頼まれてくれない? 僕達をまた皇都まで連れて行って欲しいんだけど」

《まぁ、いいじゃろう》

 軽く身支度を整えると、僕たちはリザの背中に乗り大空へと飛び立った。



 一回目は僕は気を失っていてどういうものだったのか知らないだけにリザの背中に乗っての大空の旅は不安だったのだけれど、案外快適だった。

 リザの背中は広く、四人が余裕を持って座れるほど。何か魔法を使っているのか、かなり高度があるはずなのに寒さも風も感じない。硬い鱗の上だからお尻が痛くなってきたけど、他は快適な空の旅。次はクッションを持ち込めば完璧だ。

 見下ろす景色はまさに絶景。元居た世界でもそうそう見られないだろう、空から眺める美しい自然というのは良いものだ。

 でも、あまりずっと見ていていいわけじゃない。考えることもあるし。

「リザ、あとどのくらいで着きそうなの?」

《もう二刻ほどで着くじゃろう》

 あと大体二時間か……。その間にこっちの要求と、相手の反論を封じ込める方法を考えないとね。リザがこっちにいる以上、脅しつけるようにすれば多少の無茶も通るだろうし。かといってあまりに無茶な要求をしすぎると、自棄になってくるかもしれない。そうなったら今度はこっちが困る。忘れちゃいけない点として、今僕たちガーナ王国に戦争を出来るだけの戦力がないっていうことがある。

 それよりも椎名さんはいつの間にリザと仲良くなったのだろうか。椎名さんはさっきからリザの頭の上を占領して、何やら二人で喋っている。

 ……断片的に聞こえる会話だと、どうやらドラゴンの使う魔法の話をしているみたいだ。勉強熱心なことだね。むしろ、そんなキケンなものをドンドン覚えていこうとする椎名さんが怖い。その内ドラゴンに変身する魔法とか覚えそう。



「要求することかー……」

 戦後処理。正直言って今回のは戦争とも呼べないような代物。勝手に向こうが吹っかけてきて、そして半日足らずで終了した戦争。戦争というより、どちらかというと小競り合いのようなもの。ただ向こうが気を抜いていた状況で、強力な兵器を使って、相手の国のど真ん中で暴れて、結果として王様の首一歩手前まで追い詰めただけ。

「向こうもこっちも経済的な被害は驚くほど少ないよね……」

 戦争というものはお金がかかる。武器を買うのにお金がかかる。軍を食べさせるのにもお金がかかる。人が死ねばその人が生み出すはずだった労働力が消し飛んでしまう。戦争の賠償金で馬鹿みたいに金銭を要求するのには、その損失を埋めるためだ。

 だというのに今回、ガーナ王国うちに対する被害は実質ゼロ。|コリアト皇国(向こう)の受けた被害も、そりゃ王城に詰めていた兵士達はたくさん死んでしまったかもしれないが、国全体の兵力で考えれば少ない。それこそ地方の貴族が集結すれば明日にでも戦争できるくらいだろう。一日しか戦っていないから兵糧も減っていない。

「つまりは、すぐに向こうが反撃を考えられないようにしなくちゃいけないってことか」

 だったら相手の勇者。貴族の温存している兵士。それを指揮する軍師。資金と兵糧。これらを削がないといけない。

 それなら――

「さっきから難しい顔してどうしたの?」

 一人でぶつぶつと考え事をしていると、顔を覗き込むように早乙女さんが声をかけてきた。ちょっとびっくりした。

「いや。交渉の場だけどどうしよっかなーって考えてた。実際の戦争は三人とリザのおかげで終わったけれど、僕の仕事はむしろこれからが本番だからさ」

 そう、これから本番だ。むしろ何で僕ってば戦場に出てたんだろうね。

「そっか……」

 早乙女さんは何ともいえない、でもどこか悲しげな表情だ。

「大丈夫だよ。もう戦争がないようにするから」

「そっか……!」

 ごめん早乙女さん。違った。戦争が出来ないようにする、の間違いだった。わざわざ訂正はしないけれど。


お読みいただきありがとうございます。

今後の更新に関して、活動報告の方に書いてありますのでお読み頂くようお願いします。

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