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僕《スウィンダラー》は決して正義を騙らない。  作者: 雉里ほろろ
第二章:軍師と嘘つきの戦争
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第三十六話:言葉の戦

 第三十六話:言葉の戦



 曲の終わりとともに早乙女さんに一礼して、早乙女さんの手を離す。

 名残惜しそうな早乙女さんを中心に置いたまま、僕は会場の中心から離れて壁際に寄る。

 近くにいたウェイトレスさんを呼び止めて飲み物をもらい、口をつけながら周囲を見回す。さっそく三人は貴族のご子息お嬢様方に捕まってるよ。

 おろおろしてる早乙女さんと、早乙女さんを守りながら面倒そうに相手してる椎名さん。木下くんは木下くんで貴族のお嬢様方に囲まれて苦笑いしながら対応に追われている。

「僕は僕でご飯食べよっと」

 三人に注意が向いているのを良いことに食事がおいてある場所まで歩いていく。

 大量に並べられた料理の中から食べたいものをウェイトレスさんに伝えて取り分けてもらう方式らしい。

「そのお肉と、あとサラダもお願いします」

「えっ?! あ、はい!」

 ついつい初対面の人には丁寧語で話しかけてしまう癖のせいで逆にウェイトレスさんに慌てられながらも取り分けてもらった料理を受け取り、そのまま壁際にUターン。

 壁際の花という言葉がまさに似合うね。

 フォークを使ってまずは切り分けられたお肉を一口。途端にしっかりと火を通してあるにもかかわらず歯が必要ないんじゃないかと思うくらいに柔らかいお肉から肉汁がこぼれ出る。

 流石に良いもの使ってるなぁ……と、小市民的な感想しか出てこない。美味しいのは美味しいんだけれどね。

 サラダもシャキシャキと新鮮な音を口の中で響かせてくれる。ドレッシング一つとっても何だか手の込んだ雰囲気がする。いや、よく知らないけど。

 そうしてもしゃもしゃとサラダを頬張っていると、こちらに近づいてくる人影が見えた。

 料理と飲み物を一旦近くのテーブルに置き、やってきた人物を迎える。

「や、リナリーちゃん。そのドレス可愛いね」

「お世辞どうも。あとボクにちゃん付けしないでってば」

 フリルの目立つ真っ白な可愛らしいドレスに身を包んだリナリーちゃんは、ほんと同い年には見えなかった。お世辞抜きで可愛らしい。

 ここで勘違いしてはいけないのは、この可愛らしいは父性的な意味を半分くらい含むということ。ほんと、同い年に見えないよ。

「僕はお世辞すら言ってもらえない位にヒドイ?」

「何? 言って欲しいの?」

「いいや。別にそういうわけじゃないよ」

「キミ、そういうの別に気にしないでしょ? まぁ、お世辞でもその真っ黒な服はどうかと思うけれど……」

「あ、やっぱそうなんだ……」

 流石に煌びやかなドレスの中に単身学ランで特攻は多少無茶があったか。日本なら大抵のところは制服で行けば問題なかったけど。

「それで、キミは開始早々壁の花ってわけ?」

「僕は料理を食べることに忙しいからね。こんな美味しい料理は滅多に食べられないから今の間に食べておかないと」

「冗談。さっきからキミは周囲を警戒してばかりだよ。さっきも料理を取りに行きながら周囲の話に聞き耳を立てていたでしょ?」

 …………やっぱり僕を観察してたのか。聞こえた話は貴族同士の面白くもないお世辞の言い合いと自分の領地の自慢だけだったけどね。

「ねぇ、ボクと踊ってくれないかな」

 リナリーちゃんが僕に問いかける。

 その目は理知的で、真っ直ぐ僕を射抜いていた。

「……喜んで」

 僕はリナリーちゃんの手を取って、スペースの空いた場所へ向かった。

 身長差の大きいリナリーちゃんだけど、まぁ何とか踊れるかな。

「…………何だか、この歳で子持ちになった気分だ」

「ねえ、馬鹿にしてるの? ボクを馬鹿にしてるの? 流石に怒るよ? ボクじゃなかったら処刑モノだよ?」

「リナリーちゃんにしかこんなこと言わないよ。流石に僕もそこまで命知らずじゃないし」

 リナリーちゃんもあまり踊り慣れていないのか、どこかぎこちない足取りで踊る僕たち。


「ねぇシューヤ」

 不意にリナリーちゃんが口を開いた。

「昨日の『自分のため』って言ってたの、どういう意味か聞いてもいいかな」

「――――――」

 どういう意味、か。

「リナリーちゃんは昨日、どうして軍師になったのか教えてくれたよね」

「え? うん」

 ステップを踏みながら答えてくれるリナリーちゃん。

「リナリーちゃん、小さな頃から頭が良かったんだよね」

「頭が良いっていうより、人より物覚えが良いって感覚だけど」

「じゃあさ、例えばどうして薬師にはならなかったの?」

「どうしてって……」

「薬師になれば、自分の手で人の命を救うことができる。そりゃ回復魔法のほうが効果は高いかもしれないけど、薬師なら魔法の才能がなくても知識でカバーできるじゃないか。わざわざ戦争で傷つく人を減らすだなんて後ろ向きな方法じゃなくても、自分の手で傷ついた人を救える。他にも人を救うことができる職業なんてたくさんあるよ?」

「えっと……」


「リナリーちゃん、ホントは人を殺したかったんじゃないの?」


 僕の腕の中で踊るリナリーちゃんに視線を合わせて告げる。

「違う!!」

 大きな声をあげたせいで周りの数人がこっちを向いたけど、すぐに興味を失ったみたいで視線を戻した。

「そう、知ってる。リナリーちゃんはそういうこと考える子じゃないもんね」

「だったら!」

「でもそういう理由で動いてるのが僕なんだよ」

 リナリーちゃんはどういう意味か分からない、という表情をした。

「リナリーちゃんが心に抱いている立派な決意も、捻くれた捉え方をすればさっき僕が言ったみたいに自分勝手で、世間一般で言う人として間違った行動原理として捉えることもできる」

「……言いたいことはわかる。でも、それがシューヤと何か関係があるの?」

「僕がこんなことをしている理由は完全に自分のためでしかない。自分が楽しいからこんなことをしているんだ。僕の理由は捻くれた捉えかたその通りなんだよ。僕の行動にはそれらしい理由が見えても、それは本当の理由じゃない。

 言ってしまえば僕は間違っているんだよ。世間一般で見ればね」

「…………意味が、わからないよ」

「そのうち嫌でも分かるよ」

 曲が終わった。楽団による演奏の音が一度途切れる。

 僕はリナリーちゃんの手を離して、一礼する。

「だから、リナリーちゃんはそのまま真っ直ぐでいてね」

 未だに納得のいかない表情のリナリーちゃんを残して、僕はご飯を食べに戻った。



 とりあえず興味の湧いた食べ物は一通り食べてお腹も膨れたし、そろそろ行動を開始することに決めた。

 会場をゆっくり歩き回りながら、目をつけていた貴族に声をかけ挨拶をしていく。

 ご飯を食べながら会場を見回して目星をつけた人達だ。

 貴族の中にも優劣はあり、力の弱い貴族は強い貴族に取り入ろうとする。そうすれば自然、人の中心になる貴族が数人いる。

 その人達に声をかけて回るのだ。名前は盗み聞きして聞いたから完璧。

 その中でもいい具合にお酒の入っている人から重点的に攻めていく。向こうも僕の立場を知っているから相手をしてくれる。

 酔っ払いの相手は大変だけど、その分有益な情報も得られた。

 今この城に在中している戦力とか、最近コリアト皇国内で力をつけてきている(古参貴族から見れば調子に乗っている)新興貴族とか。

 うちの国もそうだけれど、流石にどこの国も一枚岩というわけにはいかないみたいだな。

 でも今回の僕はそういうのを引っ掻き回しつつ直接の戦争をしたいわけじゃない。適度に内乱でも起こしてほしいから裏で色々と手は回す予定だけど。

 その内乱の影響でコリアト皇国がせっせと準備している戦力が削がれればベスト。そうして|ガーナ王国(僕たち)と戦争する余力がなくなれば万事解決。

 新興貴族と古参貴族って対立関係とか、僕がこっそり根も葉もない噂を流しただけでも勝手に戦ってくれそうで美味しいです。

「次は……」

 不自然にならない程度に会場を見回して目的の人を探す。こういった機会で顔を繋いでおきたい人はたくさんいる。他国の貴族だろうが何だろうが利用できるものは全部利用しないと勿体無いからね。

 そんな風に会場を見回していた僕に、声をかけてきた人がいた。

「やぁソリマチ殿。楽しんでくれているかな?」

「どもども雪車町。飲んでっか?」

 きちっとした正装に身を包み上品な笑みを浮かべるグレイ皇子。そしてその隣を歩く、服を着崩した四之宮くんだった。

「おや、お二人ともこんばんは。おかげさまで楽しませてもらってますよ」

 手に持ったグラスを軽く持ち上げて見せて、僕は薄く笑う。

「なんやねん。酒やなくてジュースやん」

「僕はお酒は飲めないの。未成年だしね」

「この国じゃ十六から成人。飲んでもいいんやで」

 勢いよく自分のグラスを煽る四之宮くん。お酒が入って少し顔が赤く見えるけど、目はまだしっかりしている。

「そういうことじゃなくてお酒は苦手なんだ。そういえば、長谷川さんは?」

「あぁ? マリーやったらまたどっかで欲まみれの貴族のオッサンどもに捕まってるんとちゃうか。アイツはまぁしっかりしとるから大丈夫やろ思うけどな」

「あはは……皇子として耳が痛いね。確かにマリーは美人だけど私も思うけれど」

 四之宮くんの歯に衣着せぬもの言いにグレイ皇子は苦笑いを浮かべた。

「そういう四之宮くんやグレイ皇子も、そういったお話には事欠かないのでは?」

 僕はわざとらしく笑みを浮かべて二人に問いかける。今でも二人はかなり注目の的だし。

二人ともイケメンだしね。

「いえいえ……私もそういうお話はよくあるのですが、何分立場が立場ですしね……。それに私としては一生でたった一人の女性を心の底から愛し尽くして、そして愛し尽くされたいのです」

「俺はマリーにしか興味ねぇって寄ってくる女にゆーとるからな」

 ――やだ、二人ともイケメン……!

「ふ、二人とも随分男前な考えだね……」

「そうかな?」「そうか?」

 いまどきの若い男性にしたら随分男前だと思うよ。草食系男子とか睨んだだけで余裕で倒せるくらいには。

 木下くんとかは典型的な優柔不断で八方美人な雰囲気だしね。

「そういうソリマチ殿は? 先ほどリナリーとも踊っておられましたし、最初はサオトメ殿でしたね」

 あー、そういう見方もされちゃうのか。

「僕はそういう恋愛事情に興味ありませんので」

「興味がない、とは?」

「今はそんなことにうつつを抜かしていられるほど暇でないので。忙しくて忙しくて、そこまで手が回りませんよ」

 まぁ、回ったとしても興味ないけどね。

 だからグレイ皇子。僕にハニートラップは意味ないと思うよ。木下くんもそういうのには誠実そうだから大丈夫かな。

「そうですか」

 さてとグレイ皇子。そんなことを話すために僕に近づいてきたわけじゃないでしょ?

 気合を入れなおしますか。


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