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僕《スウィンダラー》は決して正義を騙らない。  作者: 雉里ほろろ
第一章:王女と嘘つきの国盗り
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第二十話:結末

更新ぶっとばしてすみませんでした!

四月からの新生活のごたごたで忙しくて手が回らなかったんです……(泣)


今度からもし更新できなくなりそうなときは活動報告使います……。

 第二十話:結末



 そのまま木下くんは力が抜けたように崩れ落ちる。

「流星!」「木下くん!」

 それを慌てて受け止める椎名さんと早乙女さん。

「大丈夫流星!? しっかりして!」

「あー、椎名さん。たぶん木下くんってば気を失ってるだけだから」

 僕は二人に近づきながら教えてあげる。

「っ! 雪車町! アンタ流星に何をしたの!」

 だけど、椎名さんにものすごい形相で睨まれてしまった。

 いや、何って言われても。

「何って……別に僕は何もしてないんだけど」

 頬をぽりぽりと掻きながら、苦笑いでつづける。

「僕は何もしてないし、何も出来なかったんだよ。僕が斬られそうになったのを守ってくれたのも、ガイオスさんを後ろから切り殺したのも木下くんなんだよ?」

「アンタねぇ!」

「というか僕や木下くんだけじゃなくて、早乙女さんも椎名さんも同罪だし」

 その一言に、二人が言葉に詰まる。

「だって、二人のほうからなら木下くんがガイオスさんを斬ろうとしたのが見えたよね? だったら椎名さんならさっきみたいに咄嗟に魔法で止められたんじゃないの? 早乙女さんだってガイオスさんに回復魔法唱えなくて良いの? ガイオスさん死んじゃうよ?」

 二人とも、気を失った木下くんの心配をしても、今しがた木下くんに斬られて血を流し続けているガイオスには見向きもしないんだもん。

 と、僕がそういうと早乙女さんは弾かれたようにガイオスへ駆け寄った。

「ガイオスさん、しっかりしてください! 【ヒール】!」

 早乙女さんが唱えた魔法の光はガイオスの背中の傷を癒そうとする。

 でも、本で読んだ。確か回復魔法は傷口を塞ぐことは出来ても、流した血までは戻ってこない。

 ガイオスの背中の傷は治っても、流した血が多すぎる。いわゆる出血多量ってやつできっともうすぐ死んでしまうだろう。

「あ、早乙女さん。もう手遅れだよ」

 自分でも驚くぐらいに冷たい声がでた。

 今僕は、どんな表情をしているんだろうか。どんな表情で人の死を見ているんだろうか。

 けれど早乙女さんは回復魔法を止めない。

「早乙女さんってば――――」


「――――お願いだから黙ってよぉ!」


 おっと、早乙女さんに怒られてしまった。

 早乙女さんは泣きながら回復魔法を唱え続けている。

 でも、やっぱり手遅れみたいでガイオスが再び動くことはなかった。

 早乙女さんが使うのは回復魔法だ。蘇生魔法じゃない。蘇生なんてことはこの世界の魔法でも出来ない。

「さてと。それじゃあ王城に行こうか」

 気を失ったままの木下くんも、涙をこぼす早乙女さんも、黙ったままの椎名さんも、地面に横たわったままのガイオスだったものも、全部を視界に入れず、王城のほうを向いたまま声をかける。

 見たらたぶん、自分がしていることを後悔して立ち止まってしまう。それは僕が嫌だ。

 せっかくの舞台で、怖がって立ち止まったら目も当てられない。

「……王城って、何言ってるのアンタ」

「何って言われても……。三人も見たほうが良いと思うんだよね。今回の騒動の結末を」

 広場から小さく見える王城は、ここからなら普段と変わらない。

 でも、団長さんとジョセフさんの二人に任せているんだし、制圧は時間の問題だろう。ひょっとしたらもう、制圧が完了しているかもしれない。

「ねぇ……終夜くん」

 早乙女さんが小さく呟く。

「何かな、早乙女さん」

「…………それは、初めからなの?」

 早乙女さんの質問の意味がわからなかった。

「それって?」

「その、貼り付けたみたいな笑顔。それって、元の世界にいたときからなの……?」

 心臓が止まるかと思った。

 今、僕は笑っているんだ。初めて知った。

 意識した作り笑いでも何でもない、本心からの笑顔を僕は今、しているらしい。あんまりにも久々に笑ったから貼り付けた風に見えるんだね。

 僕は人殺しの作戦を立てて、その結果生まれた大量の死体と血の匂いに囲まれながら、自分の事を友達と呼んでくれる人を利用して――――笑っているらしい。

「は、はは」

 乾いた笑い声が自分の口からこぼれた。

 意識しない笑いなんて何時振りだっけ? この惨劇を作り出したにもかかわらず、僕は笑っているのか?

 そう考えるとなんだかとても怖くなってきた。

 もう僕は、本格的に駄目かもしれない。

「ははっ。そうだね。いつからだろうね。僕がこうなったのって」

 早乙女さんの質問の答えにはなってない。だって今のは自分に問いかけただけだから。

「…………ずっと、私たちを騙してたの?」

「騙していただなんて人聞きの悪い。僕は三人のことを友達だと思っているし、嘘をつくのは僕の処世術とでも思ってよ」

 早乙女さんに飄々と返事をする。自分でもどの口が言うんだと思う。この口しかないんだけど。

「それより早く行こう。木下くんは僕が負ぶっていくよ」

 気を失ったままの木下くんを負ぶって、王城へ向かって歩き出す。ちょっと遠いけど、木下くんは体重が軽いほうだから大丈夫だろう。

 少し離れた後ろから、椎名さんと早乙女さんも一応はついてきているみたいだ。



 城の門は、無残にも壊れていた。たぶんジョセフさんたちが魔術か何かをぶち込んで強引に開けたんだろう。じゃないと攻城兵器の一つも持っていない騎士団・魔術隊・貴族の連合じゃ、この門を突破できないはず。

 予想するに、まず貴族の兵士たちが突っ込んでいって、その後ろから魔術隊がひたすら魔法詠唱。向こうが魔術隊を狙うも練度の高い騎士団が守りにはいって、数の多い貴族の兵士たちに気を取られているうちに門が破壊され、諦めた門の防衛の者たちが逃げるかこっちに味方するかして以下略。

 その壊れた城門をくぐり、城内を歩く。

 城の中には争ったあとは見られない。たぶん門が突破された段階かそれよりもっと前に城に残っていた人たちは逃げたんだろう。

 ここにくるまで、椎名さんも早乙女さんも終始無言だ。

「ん…………」

 と、耳元で微かなうめき声がした。

「あ、木下くん起きた?」

「っ! 流星!」

 僕の呟きを聞いた椎名さんがいち早く駆け寄ってくる。

 僕は一度立ち止まって、木下くんを地面に座らせる。

「流星! 私がわかる!?」

「…………あれ? 灯……? ここ、どこだ……?」

「ここは王城の廊下だよ」

 僕の声を聞いて顔をこっちに向けた木下くんが、僕と目を合わせた途端に大きく目を見開いた。気を失ってから目を覚まして、ボーっとしてた頭も一気に起きただろう。

「……木下くん気絶してたから、終夜くんが木下くんを背負ってここまで来たの。結末を見るべきだっていって……」

 早乙女さんが木下くんへ説明する。

「結末…………?」

「そ。今回の内乱の、その結末だよ。歩ける?」

 疑問を抱えたままの木下くんだが、もう歩く分には大丈夫らしいので自分で歩いてもらうことにした。

 そのまま木下くんたちを連れて王の玉座のある、謁見の間に向かった。

「ここか」

 僕がここに来るのは二回目だな。木下くんたちがどうなのかは知らないけど。

 前はこの世界に召喚されてすぐ。エミリアさんに連れられてやってきたときだ。

 あの時は扉の横に二人の衛兵がいたけれど、今は誰も立っていない。

 自分の手で扉を開けて、中へ踏み込む。


「――――おうシュー坊か。遅かったな」

 真っ先に声をかけてきたのは団長さんだった。

 本来国王の座る玉座には誰も座っていない。

 そしてこの無駄に広い広間の中心には後ろ手に縛られた国王と第一王女。それを取り囲むようにしてアリス・ジョセフさん・団長さんが立ち、一歩引いたところには騎士団と魔術隊の精鋭。そして有力貴族たち。

「ごめん遅れた」

 僕も団長さんたちの傍へ。

「貴様…………」

 後ろ手に縛られて地面に座らされた国王が忌々しげに僕を睨んでくる。

「この勇者の成り損ないが……こんなことをしてただで済むと思っているのか!」

 国王が叫ぶ。隣の第一王女さんは黙ったままだ。

 国王は僕の後ろに木下くんたちがいることを見ると、すぐに勝ち誇ったような表情になってさらに声を張り上げた。

「おお、勇者よ! どうか今すぐこの場の悪を斬り、私を助けてくれ!」

 木下くんたちは当然動かない。だって今の彼らは何が正しいかよく分かってないから。

「どうしたのだ勇者よ! 早く!」

「あれ? 団長さん。ひょっとしてこの馬鹿ってば状況がわかって無い感じ?」

「ああ、たぶんな」

 団長さんに問いかけると団長さんは微妙そうな表情とともに答えてくれた。

「馬――!?」

「じゃあ教えてあげようか」

 僕は国王の前にしゃがみこむようにして、目線を合わせる。

 そして作り上げた屈託の無い笑顔で一言。

「アンタの負けってこと」

 そう告げた。

「隣の第一王女さん――ええと、エミリアさんだっけ? はちゃんと分かってるみたいだけど、まだ分からないのかな。この状況。

 アンタはアリスの起こしたクーデターに負けたんだよ。明日からはアリスがこの国の女王だ。アンタの人生はここでゲームオーバーってわけ」

 ニコニコと微笑みながら、心を削りにいく。

「なっ! ふん、ここで私を殺せばどうなるのか分かっているのだろうな」

 それでも依然強気な態度を崩さない国王。

「うん、分かっているよ。殺したところでどうにもならない」

「は――――?」

 だから事実を告げていく。

「第一王女さんのほうはまだ使い道があるんだけどさ、アンタは特にないんだよね。だから殺したって問題なし。むしろ悪しき王を討ったということで国民からのアリスの株が上がると思うし。それにアンタって他の国からも評判よろしくないらしいんだよね。だからこれから色々やっていくのにアンタに生きていられると邪魔なの」

「だが――――!」

「周りをよく見てみなよ。今まで裏でコソコソ一緒に仲良くやってきた貴族サマが一杯いるけど、誰かアンタを助けようとしてる?」

 僕の言葉に国王ははっとして周囲を見渡す。

 そして、国王と目が合った貴族は一人残らず目を背ける。

「おい、貴様ら! どういうことだ! 私は王だぞ!? 早く、早く助けんか!!!」

「うるさいって。それにもうアンタは王じゃないってば」

「黙れ! そうだ、勇者だ! おい、勇者たちよ! ほれ、今まで仲良くしてきたではないか!? た、助けてくれ、頼む!」

 焦ったように叫び始めるが木下くん達は辛そうに目を背ける。

「おい、待て、待ってくれ……! ほら、ジョセフ!?」

「――――――」

「リカード……?」

「――――――」

 二人の無言の視線が、国王を助ける気が無いことを雄弁に物語る。

「アリス…………?」

 アリスは一瞬だが国王の、自分の父の顔をみて悲痛そうな表情をした。

 でも、それは悲しみじゃなく憐れみだったと思う。無様な父に対する、憐れみ。

 だけどそれを殺すことに対する迷いだと受け取ったらしい国王は一気にまくし立てる。

「アリスよ。今まで済まなかった。私はどうにかしていたのだ。今までのお前にしてきた仕打ちは謝る。ほら、これからは親子で、私とエミリアとお前の三人で仲良くやっていこうじゃないか。だから頼む。助けてくれ――――」

「アリス――」

「大丈夫、大丈夫だからシューヤ。私は、大丈夫だから」

 アリスが、国王に歩み寄る。

 そして国王は嬉しそうに顔を上げてアリスを見つめて。


 パンッ!


 アリスの小さな手の平が、国王の頬を叩いた。

 頬を叩かれた国王は、何が起こったのか分からないといった表情をしている。

 アリスは、手を振り切った体勢のまま大粒の涙をこぼしていた。

「何で――」

 アリスは、もう耐えられないという声色で叫ぶ。

「何で――――お母さんには謝ってくれないんですか!?」

 泣きじゃくるアリスは、嗚咽混じりに続ける。

「どうして!? 私には謝れるのにお母さんへの謝罪は一言も出てこないんですか!? どうして!? お母さんが、お母さんが平民だから!? 私を生んですぐに亡くなったお母さんのことなんてどうでもいいってことですか!?」

「アリス様!?」

「ジョセフさんから昔、お母さんの写真を見せてもらったときに聞きました。私のお母さんはただでさえ病弱だったのに私を生んだときに無理をして、私が生まれてすぐに亡くなったって! だから、お母さんの分まで強く生きなさいって!」

 え、ちょっと待て。

 何だそれ。僕は知らないぞそんなこと。

 慌ててジョセフさんに目を向けると、申し訳なさそうな表情をされた。

 たぶん、ジョセフさんも本人以外には言いたくなかったんだろう。

 確かにアリスのお母さんの話は調べても一切出てこなかったから不思議に思ってたけれど。

 唐突な告白でいまいち纏まらない思考の中、アリスが心の叫びを表に出す。

「貴方の口からは私に対する上辺だけの謝罪で――――お母さんへの謝罪は一言も言っていない!」

「ち、ちが……」

「何が違うんですか!? だったら、お母さんの名前を言ってくださいよ! お願いだからお母さんに、謝ってくださいよ……」

「おっと」

 アリスが倒れそうになったのを慌てて後ろから抱きしめるようにして支える。

 女の子特有の甘い匂いが僕の鼻をくすぐるけど、今はそれどころじゃない。

「お、お前の母親の名前は――――」

 国王が、焦ったように口を開く。

「――――――――――――――――――――」

 でもその口からは掠れたような息が漏れるだけで、言葉は、アリスの母親の名前は出てこなかった。

「やっぱり…………言えないんだ……」

 アリスが諦めたような笑みを浮かべた。

「リカード団長……お願いします」

「心得ました。王女様。――――いや、女王様」

 シャランッという綺麗な音を立てて、団長さんの腰から騎士剣が抜かれる。

 切っ先が光を反射して、その殺意を示す。

「待て、待ってくれ……」

「ふっ!」

「死にたくな――――」

 振りぬかれた騎士剣によって斬り飛ばされた国王の首が飛んで、血が噴水のように吹き出る。

 隣に座らされていた第一王女と首を切った団長さんはそれを被ってしまった。

「シューヤ……?」

 僕はアリスと位置を入れ替わるようにして半回転して、アリスを抱きしめる。

 背中に何か生温かいものがかかるけど気にしない。

「アリス……お疲れ様」

「うん…………」

 そのままアリスは眠るように目を閉じ、気を失った。

あともう一話入れて、一章は終わる予定です。

それと二章までの間に3話ほど閑話を考えています。

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