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僕《スウィンダラー》は決して正義を騙らない。  作者: 雉里ほろろ
第一章:王女と嘘つきの国盗り
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第二話:世界を救えるユウシャ様

第二話:世界を救えるユウシャ様



「は?」

 僕の脳はいきなり新しい情報が飛び込んできてそれを処理するのに精一杯だった。

 視界をめぐらせば石で出来た壁。地下室のように暗い部屋。唯一足元の魔法陣らしきものの光だけが明るいので部屋の中の様子がわかる。

 そして隣には、先ほど教室で別れたばかりの木下くん・早乙女さん・椎名さんの三人。

 目の前には、巫女装束のようなものを身に纏った、金髪の少女。たぶん、同い年くらいじゃないかな。

「勇者様! 突然の召喚で申し訳ありません。ですがどうか、私たちの国を救ってください!」

 その少女が、僕たちに向かって頭を下げた。


「ええと……とりあえず頭を上げて。何がどういうことなのか説明してくれないかな?」

 口を開いたのは木下くんだった。相変わらずのイケメンスマイル。多少笑顔が引きつり気味というか、苦笑い気味なのはまぁ仕方の無いことだろう。僕だって無表情を保つのが辛い。

「あ! 申し訳ありません勇者様。私はこのガーナ王国の第一王女、エミリア=ガーナ=へイドリッヒと申します。エミリアとお呼びください」

 そういって礼をするエミリアと名乗った女の子。その姿はまさに王女というに相応しい優雅さで、一瞬とはいえ木下くんも、早乙女さんや椎名さんも目を奪われたみたいだ。

 え? 僕は別にだよ。すごいなぁとは思ったけど、目を奪われるほどじゃないかな。

 呆然としている振り。状況に飲まれている振り、慌ててる振り。


「先ほども申し上げたとおり、貴方さまがたは勇者としてこの国に召喚されました。この国は今、魔王の手によって未曾有の危機に陥っております。どうか、魔王を倒して私たちを助けてください!」

 そういって再び頭を下げるエミリアさん。

「…………頭を上げてください、ええと、エミリアさん。僕たちに協力できることでしたら、なんでもしますよ」

 木下くんはそういってエミリアさんに笑いかける。流石見た目も心もイケメンだ。やることなすことカッコイイね。

「………ま、よくわかんないけど、流星がやるって言うならあたしもやるよ?」

「わ、私に出来ることなら…………」

 それにあわせて、椎名さんと早乙女さんの二人も頷く。

「本当ですか!? ………そちらのお方は?」

 エミリアさんが、いまだに黙ったままの僕に目を向ける。

「え?! 雪車町?!」「雪車町?!」「雪車町くん?! どうしてここに?!」

 そのことで、どうやら木下くんたち三人も僕がいることに気付いたらしい。……黙ってたとはいえ僕ってそんなに影薄い?

「その……ソリマチ様というのですか? 貴方様もどうか、私たちの力になってはくださいませんか?」

 エミリアさんは僕に向かって泣きそうな瞳を向ける。

 その姿は自国のことを憂う、さながら悲劇の王女様。白馬の王子様に、あるいは世界を救う勇者様に助けを求める物語のヒロイン。

 でも、僕には何も感じない。


 ――だめだよ、そんな泣き真似じゃ、騙せない。少なくとも、僕は。

 

 僕だったらもっとこうするのに。そんなことを頭の片隅で考えつつ、さらっと目の前の嘘泣きを評価する。

 でも、3人は気付いていないんだよなぁ……。

「……まぁ、話くらい聞きます」

 だからこそ、こんな中途半端な生返事を返してしまった。

「! ありがとうございます!」

 それを肯定的な返事と受け取ったらしいエミリアさんは、僕に向かって頭を下げる。

 ただ、エミリアさんは気付いていないんだろうな。

 無意識に自分の口元が歪んでいたことに。それに僕が気付いていたことに。


「では早速出申し訳ないのですが、我が父、ガーナ王国国王のシルヴァ=ガーナ=へイドリッヒに会って頂きたいのです。詳しい説明などはそこでいたします」

 そういってエミリアさんは、僕たちを王の間へと案内した。

 やたらと長い廊下を進んでいくけど、メイドさんとかそういう人とすれ違うことは無い。ひょっとしてあらかじめ近づかないようにしているのかな。

 そんなことを考えていると、一際大きくて豪華な扉の前についた。その扉の両脇には騎士鎧を着た見張りと思しき兵士さんがいる。

 その兵士さんはエミリアさんの顔をみると、お互いに小さく無言で頷いてその豪華な扉を開けた。

「どうぞ、勇者様」

 エミリアさんに促されて中に入る。


「うわ………」

 王の間へと入った瞬間、僕はその荘厳さに言葉を失った。言うまでもなく、他の3人もである。

 テレビで見たことはあっても実際に見たことも無いようなレッドカーペットと、きらびやかなシャンデリアの照明。

 両サイドには太った人が多いものの、豪華で値の張りそうな服装からしてこの国の貴族らしき者たちが並んでいる。

 そして、正面には豪華でかつ繊細な彫刻の入った玉座があり、そこには王冠をかぶった一人の老人が座っていた。

 その老人の両脇には、剣を腰に差し鎧を着た騎士風の男と、重そうな分厚い本を手に持ってローブを着た、年老いてやせ細った男がいる。

「どうぞ」

 エミリアさんに促されるままに、僕たちはカーペットの上を歩き、やがて玉座に座った老人の前へたどり着く。

 それを確認した玉座に座る老人が口を開いた。

「よく来てくれた勇者たちよ。私がガーナ王国国王、シルヴァ=ガーナ=ヘイドリッヒである」

 どうやらやっぱりこの人は国王様らしい。老人にしては力強い声でそういった。

「始めまして。僕は木下流星といいます」

「あたしは椎名灯」

「私は早乙女詩歌といいます」

「雪車町終夜です」

 それにあわせて僕たちも名乗る。

 とりあえず国王様とやら、早乙女さんと椎名さんにその厭らしい視線を送るのはやめたら?ばれても知らないよ?

「このたびはこちらの勝手な都合で呼び出してすまなかった。だが、我が国はそれほどまでに危機的状況に陥っているのだ。どうか許してほしい。そして、どうか勇者として魔王を倒し、我が国を救ってほしい。頼む」

 そういってて国王様は頭を下げた。

 それに慌てたのは国王様の両脇の二人だった。

「い、いけません国王さま! 国王ともあろうお方が軽々しく頭を下げるなど」

「構わんジョセフ。我輩が勇者に頼みごとをするのだ。それなのに頭を下げないわけにはいかんだろう」

 慌てて止めようとしたジョセフと呼ばれた痩せ男にむかって、国王様はそう言い張った。

 また、立派なことで。

 そして国王様は再び視線を僕たちに――いや、正しくは木下くんに向ける。

「我々も、出来る限りの支援はする。だから、どうか魔王を倒してくれないか勇者よ」


「―――当然です。国王様。僕は、困っている人を見捨てるほどひどい人間ではありません。何より、エミリアさんみたいな人が僕に頼んできたんです。それで断るはずがありませんよ」


「まぁ、あたしだって急に呼び出されて状況もよくわかんないし、ちょっとむかついてたけど……それでも、助けないっていう選択するほど落ちぶれてないわよ」

 

「私は……困っている人がいて、私にそれを助ける力があるのなら、助けたいです」


 その国王の頼みに、三人は力強く返事をする。

 ……眩しいなぁ…。

 あ、あとたぶんだけど、木下くんが言った台詞も、彼自身はまったく意図して言ったわけではないんだろうなぁ。その隣でエミリアさん本人が顔を真っ赤に染めているが、狙ったわけではないんだろうなぁ。

 それを聞いた国王様が満足そうに頷いた。そして、何も言わない僕を疑問に思って視線をこっちに向ける。

「お主は?」

 問いかけられた僕は、やっぱり愛想笑いを浮かべて言う。

「僕に出来ることなら」

 ―――まぁ、嘘だけどね。

 心の中で付け加える。

 まぁ、向こうも嘘をついているみたいだし、おあいこじゃない?


「うむ、頼む」

 国王様が満足そうに頷く。

「雪車町くん、頑張ろうね」

 隣から小さな声で早乙女さんが声をかけてきた。

「うん、よろしく」

 また、愛想笑い。

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