第十三話:違和感のある少女
前回更新から随分と開いてしまいました……
第十三話:違和感のある少女
「んで、具体的にまず何をすりゃー良いんだ?」
ダルクスが作戦を聞いてくる。
「まずは一週間後にウチの第二王女を連れ出して欲しい」
「…………どういうことだ?」
「具体的には、一週間後の食材の納品の帰りの馬車に、王女を乗っけていってほしいってことだよ。知ってるかもしれないけど、城に入る馬車の積み荷確認は厳重でも城から出て行く馬車ってほとんど中を確認されないんだぜ?」
「……お前が言うなら大丈夫なんだろうが……それに何の意味が?」
「革命起こそうっていうのに代表が城の中にいるのは不味いだろ? 一発で捕まるし。後はそうだな……この建物の中の一部屋を一日借りたい。王女を連れて宿に泊まるわけにも行かないし、ここで一晩を過ごしたい。あと4人で念のため3日間分の食料と水。人数分の毛布。それと見栄えのいい剣を一本。それから声を拡大できる魔道具ってある?」
「別にこの建物ならかくまうくらい余裕だし……他のものも用意できる。でもよ、拠点にするならもっとまともな戦いやすい建物のほうがいいんじゃねえのか? それに食料ももっと用意したほうが良いと思うが」
「直接ここでドンパチやるわけじゃないからいいんだよ。それにお前が自分の店に用事があっても何ら不思議じゃないし」
「確かにそうか。まぁ……俺はこういう直接金の絡まねえ陰謀は向かねぇからな」
そういって僕の話に真剣に耳を傾けているダルクス。雰囲気から察するに、これはホントに協力してくれる感じだな。
「でもよ、挙兵して勝てんのか? 確かに民衆の不満はそれなりに高いが革命してやろうって思うほどでもねぇ。参加してくる奴はそんなに多くねぇだろうし、何より武器を持ったことも無いような一般市民が集まっても、正規武装の騎士にゃぁ敵わねぇぞ?」
「まぁ、そうだろうね」
僕だって何度か騎士団の訓練は見たけど、剣速凄かったもん。こーゆー時のテンプレとして王と一緒に騎士団も腐ってるとかだったら楽なのに、騎士団めっちゃ強いもん。
「というか一般市民は一切今回の革命には参加させないし。気がついたら国のトップが替わってましたくらいの感じを予定中」
「何だよそれ。どこぞの貴族が協力して兵士貸してくれんのか?」
「いやー、それがうちの王女様に聞いたら貴族に味方は一人も居ないらしくて。よかったね、専属メイドさん、詐欺師さん、騎士さんに続いてアンタが味方第四号だよ。よかったね商人さん」
「おい、それじゃぁ勝てねぇぞ!? というか兵士が居ないのにどうやって戦うつもりだ?!」
焦ったように声を荒げるダルクス。
「おいおい、僕がいるんだよ? 何とかするに決まってるじゃん」
「何とかって……」
「貴族をこっち側につけるのも、革命を成功させるのも、全部ひっくるめてやってやるよ。それに知らないの?」
さらに続ける。
「―――――世の中で貴族と、商人と、勇者の3つほど扱いやすい生き物っていないよ?」
権力と、金と、正義で釣れるから。
「ま、作戦はあるから」
「……そうか。お前がそういうなら大丈夫なのかもな」
かもじゃないよ。そこ言い切ってよ。
ダルクスとの細かな打ち合わせを終えて、僕はチーザ商会の本店を後にした。
「~♪」
結果は上々。おまけに面白そうな魔道具も帰り際に安く売ってもらった。
銀貨五枚しか持ち合わせが無かったせいでどれを買おうか迷ったけど、それでも良い買い物が出来たと思う。鼻歌を歌うくらいには気分が良い。
どんなのを買ったのかって言うと、まず一つ目が望遠鏡。正式名称がええと………遠視魔術付与筒……だったかな。
名前の通り【遠視】の魔術が付与されている筒で、覗き込めば望遠鏡と同じように遠くのものが見える。しかも倍率変更も出来るスグレモノだ。まぁ、その分お値段もお高くなんと銀貨二枚半もした。魔道具自体が普通の道具より高いせいでもあるんだけど。
でもこれは中々に便利そうだったので迷わずご購入。
あと、魔道具の時計も買った。正式名称は何だっけ………魔素稼動式小型時計盤だったかな?何でこんなややこしい名前を魔道具につけるんだろうか。
まぁよーするに時計。形は腕時計とかじゃなく、鎖がついていて首とか腰からぶら下げるような時計。貴族が持つような高級感漂うのもあったけどお金がなかったのでそんな豪華なものじゃない。けど、ストップウォッチもついてるタイプだ。これもあると便利そうだったので購入。ちなみに銀貨一枚半。
あと魔道具でもなんでもない普通のナイフを一つとウエストポーチみたいな手のふさがらない小さなカバンを買った。無いことを祈るけどいざというときにこういう護身用に使えるものがあるのと無いのとでは大違いだからね。ナイフくらいなら刺すか振り回すくらいでも使えるしから剣なんてからっきしの僕でも使えるし、重くないし、何よりいろんなことに使えるし。ウエストポーチとセットでちょっとおまけしてもらった。
それでもそこそこの値段だった。おかげさまで現在手元には大銅貨二枚しか残っていない。いい買い物だったから満足だけど。
このまま城に帰っても良いけど、せっかく外に出られたのである程度の情報収集をしておきたいと思う。
とはいっても城から出られる機会なんて滅多に無いだろうから、店に通いつめて「店主、最近景気はどうだい?」みたいなことは出来そうに無いので、この辺りの町並みや行きかう人の様子を見るくらいだ。ちょっと憧れるんだけどな。
「にしても西区画は人が多いよなぁ……」
こんなに人が多いと嫌になる。スリにも気をつけないと。
すれ違う人たちの表情はやっぱり暗いとまではいえないが、明るいはいえない。
税金で搾り取る量は民衆を生かさず殺さず、限界まで搾り取るという、ある意味で優秀な王だね。これはダルクスからも聞いた。
そのまま表通りだけでなくいわゆる裏路地にも入る。
こういったところの確認も必要になるかもしれないからね。
「やっぱ裏路地までくれば人は少ないな」
というよりむしろ居ない。表通りが人でごった返しているのが嘘のように誰ともすれ違ったりしない。
「ま、人がいないほうがある意味好都合なのかもしれないけ―――うぉっ」
呟きながら角を曲がると、前から歩いてきていたらしい人とぶつかってしまった。僕はちょっとよろけただけだったけど、相手は尻餅をついてしまっている。
白いローブを着ていて、フードで顔は見えないけどたぶん身長とかぶつかったときの体重の感じからして小さい女の子だと思う。
「大丈夫? ごめんね考え事してたから」
「い、いえ。ボクのほうも考え事をしてたので。お互い様です」
そういう声は明らかに幼い少女の声だった。
「あ、落ちてるよ」
道に落ちていた彼女のものと思しき魔ペンを拾って渡す。
「あ。ありがとうございます」
少女は素直に受け取って、それをそのままローブの内ポケットにしまった。
「あ、あの」
そのまま立ち去ろうとすると少女が声を掛けてくる。
「どうかしたの?」
「いえ、その少し道に迷ってしまって……よろしければ西区画の中央市場までの道を教えていただけませんか?」
なるほど。そういうことか。
「いいよ。でも道がちょっとややこしいから直接道案内してあげるね」
「え!? ありがとうございます!」
そういって少女は頭を下げようとして、自分がフードをかぶったままだということに気付いて慌ててフードを脱いだ。
そこには薄い水色の髪を短く切りそろえた、13、4歳くらいの少女の顔があった。
しっかり顔を見せてから、彼女はきちんと頭を下げる。
「ありがとうございます。ボクはリナリー=アンセスタといいます」
「僕は雪車町終夜」
僕がそう名乗るとリナリーといった少女は「変わった名前ですね」と言った。一応終夜のほうが名前だと補足しておく。日本にいたころでも自慢じゃないが一回で名前を正確に読んでもらったためしがない。
「それじゃ、中央市場でいいんだよね」
「はい」
「じゃあこっち」
リナリーを連れて裏道を戻る。他の場所の行き方は分からないけど、中央広場ならチーザ商会があった辺りだから今まで通ってきた道を戻ればたどり着くでしょ。
歩き始めて、無言って言うのも何となく嫌だったので話題を振ってみることにする。
「そーいやリナリーちゃんはどうしてこんなところに? 裏通りなんて女の子が一人で歩かないほうが良いと思うけど……」
「あ、ちゃん付けはやめてください。それと…その子ども扱いっぽい話し方も。ボクはこれでも16歳、もう一応は成人してるんだから」
…………………………………………………………………。
足が止まった。
いやいやちょっと待って欲しい。僕が今、16だよ? もうすぐで17だ。元の世界ではだけど。
たしかにこの世界は16歳から成人で、一人前として認められる。お酒とかも16歳からオッケー。
でもさ。
「僕が16歳なんだけど……リナリー……って歳、幾つ?」
「だから16歳だってば」
「…………マジで?」
「マジで」
目の前のリナリーをじっと見る。どこからどう見ても小学生から中学生なりたてくらいにしか見えない。少なくとも同い年にはどう頑張っても見えない。
「………………凄く失礼なことを考えられた気がするんだけど」
「気のせいだよ」
渾身の演技をここぞとばかりに使用。無駄に頑張る。
「で、歳はいいとして何でまたこんなところに?」
強引に話題を転換する。リナリーが微妙そうな顔をしたけど気にしない。
だけど、本当に何でこんなところに一人でいるのか気になる。正直言ってここはお世辞にも治安が良いとは言い難い。僕だって何も無いときに一人で歩くのは嫌だ。
「あー、買い物の帰りだったんだよ。それよりそっちはどうして?」
「僕も買い物の帰りだよ」
そうやって会話をしながら進む。多分ここを右だったはず。このまま交差点二つ分真っ直ぐ。
他にも他愛も無い会話をしながら歩いていくと、ようやく見覚えのある大通りまで出てきた。
「お、出て来れたよ」
「ホントだ。ありがとう」
後ろからついてきていたリナリーがお礼を言う。
「ここからの道は分かる?」
「うん。ここからなら大丈夫」
「そっか」
「ありがとう。それじゃ、また何か縁があったらね」
リナリーは僕に向けて頭を下げてそういうと、可愛らしい笑顔を置き土産に人ごみの中へとまぎれていった。
「さてと。それじゃあ僕もそろそろ城に戻りますか」
日の傾き具合からしてお昼を少し過ぎたくらいかな。なんにせよそろそろ戻ろう。
「にしても…………リナリー=アンセスタね……」
買い物に来ていた帰り、なんてのは嘘だろう。荷物も持ってなかったし。
それに、明らかに彼女は一般人じゃない。
こういう言い方をすれば何かあの子がアブナイ人みたいに聞こえるけど、そういうことじゃなくて。
この世界の識字率は決して高くない。むしろ低い。話す聞くくらいなら誰でも出来るけど、読み書きとなると途端に人数が減る。
なのに彼女は魔ペンを持っていた。つまり読み書きが出来るってことだ。
でも、それだけならかなり少ないってだけで別に居ないわけじゃない。
問題は魔ペンを持っていたっていうこと。
魔ペンだって何だかんだで立派な魔道具の一つだ。僕は騎士さんからタダで譲ってもらったから持っているけれど、魔道具である以上かなりの値段がする。安い魔道具でも銀貨3枚は最低ラインだと思う。僕がさっきダルクスから買ってきた時計と望遠鏡だってかなり値切ったのだ。
聞いたところだいたい一般的な一人分の一ヶ月の食費で銀貨5枚もかからないくらい。つまり魔道具なんてものは普通の家庭でほいほい買えるようなものじゃないってこと。ペンなんて生活に密接に関わるわけでもないような魔道具だと特に。
なのにそんなものを常に持ち歩いているって事は普通じゃない。
腕の立つ稼ぎのいい冒険者とかだったら分からないかもしれないけど、体つきからして鍛えてなんか無い普通の女の子だった。おまけに冒険者ならペンなんて買わないだろうし。
魔術師の可能性も無いわけじゃないけど、それなら杖なり魔術書なり魔導具の一つも持ち歩くだろう。見たところそんなものは持っていそうに無かった。
それにこの西区画はいわばこの王都の商業の中心。この王都に住んでいる人なら道くらい覚えているだろうし、覚えていないような裏路地には危険だからほとんど入ったりなんかしない。
つまり彼女はこの王都に最近来たばかりってことになる。
「そうなってくるとますますきな臭くなってくるんだよな……」
流石に僕の作戦には関係してこないと思うけど、明らかに放置して良いような存在じゃない。
「とりあえず、頭の片隅にとどめておくくらいにしておくべきか」
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