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Standard Game  作者: Nemlyc
第四章
9/14

討伐クエスト1

前回に続いて少なめ…

「なあ春乃。参考までに聞かせて欲しいんだが、こりゃどういうことなんだ?」

 数秒の間が空いて春乃はハッと我に返った。自分に向けられた問いかを判断できなくなるほど動揺していたようだ。

「ここはエルフたちの村、ヒルズガーデン。原住民はもちろんエルフ。ただし、全員暗殺者型のモンスター。どういうことかわかる?」

「いんや、さっぱりわからん」

「つまり、この戦線を突破するには、かなりの話術が必要になる」

 え? 何で話術? 俺は次々と浮かんでくる疑問を対処しきれずにいた。そこに、情報掲示板こと片桐が説明を入れる。 

「村人全員を相手するのは、どんなベテランプレーヤーでも無理だよね? そこで、村人を刺激しないように、尚且つ両方に利益が出るように取り引きをするんだよー」

「じ、人身売買か?」

 さすがにそれはやりすぎだろう。

「んー、あっても物々交換とかだね……」

 そうだよね。納得。

 だが、何を物々交換するんだ? ぶつぶつ。

「まあ見てみればわかるってー。じゃあ、行ってらっしゃい!」

 思いっきり背中を押され、俺は茂みから解放された。

 村の入り口へと晒され、近くを通ったエルフが俺に怪訝な視線を向ける。

「人間か?」

「あ、はい。どうも」

 相手は緑がかった肌をしていて、尖った耳を持っていた。細くつり上がった目で横ばいになる俺を見下ろし、口許は引きつらせていた。

「ははっ、久しいな、人間」

 あれー? なんか友好的だよ? 本当は人類と仲がいいんじゃないの?

「あ、ども」

「最近誰もこなくて退屈していたところだ。冒険者か?」

 露骨にNPCっぽい。機械じみたしゃべり方が不自然である。

「うん、多分」

「我は、衛兵長のシャウト。そなたの冒険を全力でサポートしてやろう」

 後ろを振り返ると、二人がすでに茂みの中から出てきていた。なんだよほとんど時差ないじゃん。怖い思いして損した。

「……めっちゃ上から目線だな」

「当たり前。彼らの方が強い。ここは素直に従っておいて」

「了解」

 耳打ちで一連のやりとりを済ませると、俺は村長らしいシャウトに向き直る。

 彼は間違いなくNPCだろう。これ確定。でなきゃ絶対に名乗らない。そしてこんなに解放的じゃない。

 それならば、それに相応しい対応をすべきだろう。あまり下手をしなければ刺激となることは少ないはずだ。

「はい、よろしくお願いします。俺は……ええと、礼堂といいます」

 モンスターに向かって礼か……。いろいろと複雑な気分である。某携帯用ゲーム機のソフトでは狩りまくったからな。

「ふむ。よろしく。住人を刺激したりしない限りは、好きなようにしていいぞ。もし刺激したら……殺しに行く」

「そりゃ、どうも。じゃあ、お世話になります」

「気にせんで良い。……ククッ」

 なんか最後に奇妙な笑いが聞こえたが、気にしないことにするか。いや気にしちゃうけど。

 俺が話している間に、冒険者二人は村へと入って行く。

 俺って今囮だったの?

「待てよ、二人共!」

「あー、ごめんごめん。長かったからさー」

「同文」

「なんか新しい返事だな……。じゃなくて、どうなってんのかわからないのによく歩けるな!」

「私が知っている。初期にここへ来た」

 春乃が自慢気に答えた。

「わたしは初めてー!」

 ん、まあ、春乃がいる分には大丈夫そうだな。

「……え、なに? ということは、どうやってこのエルフのこと知ったの?」

「あ、それ。ここのエルフさんたちの村があるのはここだけじゃないんだよ」

「ふうん、そうなのか」

 俺は彼女らについていく。

 村には小さな家が幾つかあった。真ん中の見えない線を基準として、左右に家を設置しているようで、非常に綺麗に仕切られている。言ってみればキャンプ場のようで、家は簡易的なものにも見えた。それにはわけがある。古代日本の、地方によく見られる藁葺きの家に似ていたからだ。まあ興味はないけど。歴史好きにはたまらないだろう。

 ここから数百メートル先には断崖絶壁があり、直線上では小さな洞穴が見える。そこがクエストで指定されているダンジョンのようで、その周りには肉眼でも視認できるくらいに人がいない。

「片桐、直接行くのか?」

「え? どっちでもいいよー。長くここに居たいならすぐの方がいいかもだけど。もともとそのつもりだったし」

「すげぇ気楽だな……。真剣さとかないの?」

「んー、どうかな。わたしもやる時はやるし、……あ、でも、真剣じゃない時が多いのは確かだねっ!」

「あまり関心できんな……」

 俺はげんなりとため息をついた。

 まあ、なんだし、春乃にも話を振ってみるか。

「春乃は前に来たって言ってたけど、前はどんな感じだったんだ?」

「変わらない。ずっと一緒。やっぱりみんな、機械的」

「……そりゃNPCだもんな」

「ちっ……」

 思いっきり舌打ちされた。春乃を覆うオーラがやばい。黒だ。

「ま、まあ行こうじゃん? まずはクエスト受領か」

 役所……の役割を果たすであろうところへ俺たちは向かった。

 周りを行き交うエルフたちから奇異の視線を向けられる。エルフといえど様々な顔つきをしていて、独特な特徴さえ無視すればほとんど人間と大差なかった。

「見られてるのも気持ち悪いもんだな……」

 俺はあくまで、影ながら生きていく者の一人である。人に見られるなどたまったものではない。


 俺は背中から鎌を下ろし、右手に持った。

「春乃、本当に大丈夫なんだな?」

 最後に確認しておこう。

 先ほどクエストの受領を済ませて契約書を受け取り、ダンジョンがある洞穴の前にきたところだ。近くで見るとなかなか大きいもので、俺の身長の三倍近くはあるだろうか。中も暗く、遠くまでは見渡せない。松明を買ってきたのだが、それでも物足りないと俺は思う。

「問題なし。……沙輝のセンス次第」

「問題ありじゃねえかッ!」

 だが、進まなければ何も解決しない。この夢と現実の行き来を終わらせるには、それしかないのだ。

 俺はこの状況を楽しんだりしてはいないだろうか。

 いたとしたら最低だ。多分楽しんでるけど。

 ともかく。

「よし、行こう!」

 俺は先頭を切って歩み出す。

 雲から赤褐色の地面へと足場が変わる。踏ん張る必要の無くなった足は、ダンジョンに踏み入れた途端、一気に軽くなった。

 奥を見渡しても、ごつごつとした硬質な岩肌が延々と一直線に続いている。天井が高いからか、少しの物音でも通常の数倍の大きさで反響した。

 パーティ(のようなもの)のテンションは雰囲気に圧倒されてか、場馴れしているはずの春乃もローになる。

 だが、そんな中不謹慎だとは思うが、楽しんでいる自分もいた。

 男に生まれた子ならわかるはずだ。

 この、何かありそうだが何も起こらない、いつ起きるかわからないという、ロマン溢れる躍動感。

(さいこー!)

 もちろん叫ぶことなどできなかった。みんなが真剣な面持ちで前へ進んでいるというのに、一人だけハイになっているわけにはいかない。さすがにそこは自重する。

 一人だけ違う空気の存在、というのは、俺の最も嫌いな状況だからだ。

 だってーー

「沙輝くん、止まって! ……ねぇ、何か聞こえない?」

 片桐が言うので、俺は仕方なくスキップを止めた。無意識って怖いな。いつの間にスキップしてたぜ……。

 耳を澄ましてみると、微かに風切り音が聞こえた。

「なんだよ、ただのすきま風じゃな……」

「待って」

 俺の気だるげな一言を遮って、春乃が鋭い声で一喝した。言わせろよ。

「本当に何なの? 何も聞こえないじゃん」

 はぁ、という小さなため息が聞こえ、春乃が自分のこめかみに手を置いた。

「耳をもっと澄ませばわかる。モスキート音みたく、高い周波数の音」

「風切り音じゃなくて?」

「そう、別に聞こえる。暮羽も聞こえる?」

「うーん、ギリギリ。沙輝くんは、聞こえないってことは……老化が始まってるんじゃない? ここは、現実とのパラメータの誤差はほとんどないから」

 え、マジか。

「そんなことはどうでもいい。──来る!」

 春乃の切れのある声の後、幾つか重なった羽音が聞こえてきた。それは延々と続いていて、最初よりも多くなってくる。遠近の関係上、近づくに連れて音量が変わってくるのは明らかだが、その増幅具合が以上なことから、数が増えているという結論に至るのが普通だ。

 暗くてよく見えない中、一生懸命目を凝らし、暗中を模索していると、やっとのことで、俺にも例の高周波数の音が聞こえた。

「これは……コウモリか?」

「うん、まあそんな感じかな! 一応敵だから、沙輝くん、武器を構え直してー!」

「了解した」

 俺は鎌を両手で握り直した。今までずっと片手で支えてきた重量が、両手に分担されて少し楽に感じる。

 反り返った刃の切っ先を見つめて俺は思う。

「俺は、斬れるのか──?」

 その問いは、誰に聞かれる間もなく、無数の羽音によって掻き消された。春乃と片桐は既に臨戦体制に入っており、いつでも戦える状態だ。右に春乃、左に片桐がいて、計算しつくされたコンビネーションを実行するかの如く、敵が来るのを待っていた。

 そんな中、俺はただ一人残される。戦闘直前の緊張した空気を肌で感じながら、己の意志を確かめることにした。

 ゆっくりと目を閉じる。周りに広がる粗い岩肌が見えなくなり、うっすらと見えていた奥行きも感じなくなる。

 何も聞こえなくても気配だけでわかった。

 近い。

 それに立ち向かう勇気はあるか。

 それを殺す勇気はあるか。

 それらを全うした上でなお、まだ立ち続けることはできるか。

 答えは無論──、

「イエスだー!」

 俺が叫び、目を開けた瞬間に、奴らは視界内に飛び込んできた。

 だが、もうそれは見越していた。

 俺は跳んで一歩後退し、鎌を地面につきたてて、支えとし制止する。その後、瞬時に立ち上がり、鎌を右手で左水平に振り抜いた。

 ──倒す!

 すると、この世界の仕様なのか、白色のエフェクトが弧を描いて放たれる。鎌の刃が通った軌道を完璧にトレースした後、それは跡形もなく消えた。

「す、すげぇ……」

 俺は無意識に感想を漏らしていた。

 自分もここまでできるのか、と我ながら感服してしまう。

 今の一撃で先頭の三匹を斬りもとい刈り落とした。しかしここで終わるわけにはいかない。確か、このまま放って置くと、通称ゾンビ化してしまうはずだ。

 俺は今更大事なことに気がついた自分を悔やむようにして、手順を知っているはずの二人の内、近くにいた春乃に話しかけた。戦闘中に会話を吹っ掛けることは明らかにマナー違反だが、今回は緊急につき勘弁していただこう。それほど手こずって無さそう(すごくダルそうに短剣を振り回してる)だから大丈夫だろう。少し安直過ぎた気もするが。

「ファイナルブロウってどうやんだ、春乃?」

 春乃は短剣で重打撃を与えて一旦コウモリと距離を取ってから、ゆっくりと移動してきた。さっきまでのふてくされていた表情とは裏腹に、非常に輝かしい表情へといつの間にか変わっている。ホント女心ってわからん。というか、こいつの場合野心か?

「どうと言われても困る。……けど、倒せてる」

「は?」

 俺は当然の如く訊き返した。

「からくりは後で教える。けど、ここまで習得してしまうとは、思わなかった。想定外」

 両手の短剣でコウモリをさばきながらも、春乃は続ける。

「やり方としては、念じてから、斬る。というのがセオリー。だけど、それ以上もそれ以下もない」

「つまり?」

「今の感覚を忘れないで。──沙輝、来てる!」

「おう、っと」

 一歩後ろに下がり、俺に迫ってきていたであろう攻撃を回避した。

 重複した羽音がむず痒い。

 俺に向かってきていたのはまたもや三匹で、おまけに三匹とも体力満タンのようだ。

 長いため息を一つつき、俺は鎌を持ち直した。


まずは、このセクションの読了ありがとうございました。


内容が途中ですが、文章量のバラツキ回避のために投稿させていただきます。



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