耳の長いネコ
これはある国にある、あるお城のおはなし。
むかし、むかし、あるお城には王様とたくさんのネコ達が住んでいました。
王様はネコが大好きで、ネコを見つけてはお城に連れて行き、何不自由ない暮らしをさせてきました。
その中でも特に王様のお気に入りのネコ。
それはいつもお城の窓辺に寝そべり、外を眺めている耳の長いネコでした。
耳の長いネコはいつも外を眺めながらため息ばかり。
実は耳の長いネコはあまりに耳が長すぎて、お城から外に出ようとしても耳がつっかえて出れなかったのです。
耳の長いネコは外を眺めながらつぶやきました。
『外はいいな〜。外にいきたいな〜』
そんな耳の長いネコに他のネコ達は言います。
『お城の方がいいよ。暖かな食べ物も寝床もある。それに王様もとっても優しいよ』
でも、耳の長いネコは聞く耳持ちません。
ふてくされた様にただただ外を眺めるだけでした。
そんな耳の長いネコを王様はとても心配していました。
ある日、王様はお城の中に音楽隊を呼びました。
それは国で一番の音楽隊です。
音楽隊はお城でとても楽しい音楽を奏でました。
それを聞いた執事や庭師、王様に猫達は楽しく踊ります。
そして王様はまだ外を眺めている耳の長いネコに言いました。
『どうだい、お城も楽しいだろ』
耳の長いネコは振り返り、王様に言いました。
『王様、王様。僕はこの長い耳で外の声がよく聞こえます。外では農家のおじさんが楽しく鼻歌を歌いながら畑を耕しています。僕はそんな歌を近くで聞きたい』
そして、耳の長いネコはまた外を眺めました。
また別の日、王様はお城に画家を呼びました。
それは国で一番の画家です。
画家はとても楽しい絵を書きました。
それを見たお城の執事や庭師、王様に他のネコ達も心踊り、楽しくなりました。
王様はまだ外を眺めている耳の長いネコに言いました。
『どうだい。お城も楽しいだろ』
耳の長いネコは振り返り、言いました。
『王様、王様。僕はこの長い耳で外の声がよく聞こえます。外では子ども達が楽しそうに、家の壁に落書きしている。僕はそんな楽しい絵が見たいんです』
そして、耳の長いネコはまた窓辺から外に目を戻しました。
またある日、今度は王様はお城にコックを呼びました。
国で一番のコックです。
コックはとても美味しそうな料理を作りました。
それをお城の執事や庭師、王様に他のネコ達は楽しく笑いながら料理を食べました。
王様はまだ外を眺めている耳の長いネコに言いました。
『どうだい。お城だって楽しいだろ』
耳の長いネコは振り返り、王様に言いました。
『王様、王様。僕はこの長い耳で外の声がよく聞こえます。外では子ども達のお母さんがいつも晩ご飯を作って待っています。それを美味しそうに食べる子ども達。僕はあの料理を食べてみたい』
そして、耳の長いネコはまた窓辺から外に目を戻しました。
さて、王様は困りました。
もう耳の長いネコを楽しませるアイデアが思い浮かびません。
王様は執事や庭師、他のネコ達と一緒に耳の長いネコを楽しませる方法を考えましたが、誰一人良いアイデアが出てくる者はいませんでした。
その日の夜、誰もが眠る真夜中に耳の長いネコはムクッと起き上がりました。
王様も眠る寝室をコソッと抜け出し、夜のお城をヒタヒタ歩きます。
そして着いた場所。そこはお城の厨房でした。
綺麗好きなお城のコックは厨房を綺麗にしており、壁には様々な調理道具。
耳の長いネコはそんな調理器具をマジマジと眺めていました。
耳の長いネコは考えていました。
この長い耳はたくさんの声は聞こえるが、何も楽しいことは出来ない。
それなら、こんな耳はちょんぎって短くすればお城から出られるんだ。
お城の厨房には様々な包丁が並びます。
耳の長い猫はその中でもとびきり大きく長い包丁を取りました。
痛いのは最初だけ。我慢すれば後は楽しい。
えいっ。
耳の長い猫は一振りに包丁を振りかざしました。
ザクッという音と一緒に耳はとても痛くなりました。
でも、耳の長い猫はそんな事、気にもとめずに窓に向かいます。
いつも窓の内側から見る景色。その向こうには村の明かりがチラチラ見えます。
えいっ。
耳の長い猫は窓から飛び出しました。
いつもはひっかかる耳が今日はありません。
体は軽く、すいすい木を飛び越えます。
もう耳の長い猫ではないのです。
ネコはどんどん走りました。山も飛び越え、川も飛び越え、線路や畑もどんどん飛び越えます。
そしてネコは村につきました。
村の明かりに見えたのは道の街灯。周りの家々は暗く、みんな寝静まっていました。
ネコは鼻歌まじりで畑を耕す村人を探しました。
でも、そんな村人はどこにもいません。
ネコは塀に落書きする子供も探しました。
落書きは見つけましたが、軽快なリズムと共に落書きする子供はそこにはいません。
ネコは家で料理を作るお母さんも探しました。
家はたくさんあるけど、みんな寝静まって、だれも料理なんか作っていません。
ネコは途方に暮れてしまいました。
道の真ん中でネコは一人ぼっち。
寂しい心がどんどん広がり、次第に無くなった耳も痛くなってきます。
足も疲れて体はフラフラ。とうとうネコはその場で倒れてしまいました。
そして、ネコが次に目覚めたのはお城のベットの上でした。
ネコの上では王様がわんわん泣きながらネコの手を握っています。
お城のたくさんのネコも執事も庭師もみんな集まりネコの心配をしています。
ネコは起き上がり、みんなに言いました。
『勝手な事をしてごめんなさい。外はちっとも楽しくなかった』
起き上がったネコを見たみんなは一斉に喜び、王様は更にわんわん泣きました。
それから、ネコはまた窓に寝そべるようになりました。
耳はなく、もうつっかえるものはありません。
でも、ネコはもう外に出たいなんて言いません。
お城にはネコを心配してくれるみんなやとても大切にしてくれる王様がいるからです。
そんなみんなと一緒にいる方が楽しいのです。
だから、ネコはお城の中がよく見えるこの窓からずっとずっとお城の中を眺めていました。