1.不良少女
──東京都葛飾区府中刑務所入り口──
「もう戻って来るなよ!」
そう言って、ロングヘアで美顔の女子高生くらいの少女を、看守は見送った。
今時、女子高生が刑務所から出てくるのも珍しく無いこの時代。
女子高生は久方振りの外に出ると、元気良く駆け出した。
「よっしゃあ!
久しぶりに暴れてやるぜ!」
あまりの嬉しさから、女子高生はそう叫び、飛び跳ねた。
この娘、数年前に殺人を犯し、今まで刑務所に収容されていたのだ。
殆どの場合、出所しても再び犯罪に手を染める事が多い。だが、この娘だけは違った。
もう殺人などしない──そう心に決めているのだ。
そうそう、忘れていたが、この娘の名前は、黒田 瞳。根っからの悪い娘で、小学校の時、<いじめっ娘>として生活をしていた。
その為か、友達もいなく、誰からも相手にされない、そんな可哀想な娘なのである。
それと、一部では<不良少女>とも呼ばれている。その理由は、学校にはあまり来ない、タバコは吸う、気に入らない事があると直ぐに暴力を振るう等。人は見かけに由らず、である。
それより、先ほどから気になっている事がある。
それは・・・──彼女に行く宛はあるのか?──と言う事である。
無論、行く宛など無い。人生棒に振るってしまったのだから。その証拠に、
「これからどうしようか」
と、独り言を言っている。
「瞳?」
突然、誰かが瞳に声を掛けた。
声の主は瞳の元彼、日下部 光一。
「あんた誰?」
瞳は直ぐにそう言った。
「悪い悪い、変装してたから判らなかったかな」
そう言って男は、帽子を脱ぎ、メガネを外した。
「こ、光一じゃねえか。久しぶりだな!」
「覚えててくれたのか。嬉しいな」
「それはそうと、どうして変装なんか?」
「ああ、それは・・・」
それは数年前、光一が芸能界にデビューしたから、である。
今では、最も人気ある芸能人ベスト5の内、トップを司る男である。
「成る程ね」
瞳は納得するとそう言った。
「そう言えば、今までお前、何処で何してたんだ?
急に連絡途絶えたもんだから心配したぞ」
「オレ、今まで刑務所にいたんだ。
数年前に人殺して、それからずっとさ。
でも、やっと出所出来たよ」
「ひっ、人殺したって・・・──冗談だろ?」
「本当だ。
数年前、代田が殺されただろ?
あれ、オレが殺したんだ」
「マジかよ・・・」
そう言って、光一は顔色を変えた。
「ああ。
でも、殺そうと思って殺ったんじゃない。あの時、偶々喧嘩して、衝動的に殺っちまったんだよ、オレ・・・」
と、その時。
遠くの方で声が聞こえた。
「あっ、光一だ!」
「本当だ!」
その声の主達は、光一の下に駆け寄って来ると、瞬時に周りを囲んだ。
「ちょっとあんた、邪魔よ!」
瞳は一人の女性に突き飛ばされてしまった。
最早、こいつらがいては、誰も光一には近づけない。流石芸能人、とでも言っておこう。
「おうおうおうお前ら!光一に近寄ってんじゃねえ!」
そう言って瞳は、光一を囲む煌の集団を吹っ飛ばした。
「行くよっ、光一!」
そう言って、光一の手を引いて走り出した。
「待ってえ〜光一〜」
その声と共に、煌の集団は光一を追い掛けてくる。
「しつけえぞオメエら!」
瞳は集団に向かって叫ぶ。
しかし集団は光一に夢中。瞳の言葉など耳にしていなかった。
「瞳、そこ曲がって」
「おう!」
瞳は建物の角を曲がり、近くの狭い路地に入り込んだ。
「「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」」
と、二人とも息を切らしている。
「此処まで来れば、もう大丈夫だよな」
「多分な」
取り敢えず集団を撒ききった二人。
これからこの二人がどんな物語を見せてくれるのかを期待したい所だ。
この回はまだ、物語の序章にしかすぎない。