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コンラン  作者: ラミア
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第1回

 暗い路地裏を一人の少女が歩いていた。

 キーン

 頭に一本の筋のような感覚が走る。

「また。この感覚。やっぱり近いのかな」

 少女は一人つぶやくと、さらに枝分かれした通路に入っていく。そして、そこには

 先客がすでに三人。先客は少女一人と少年が二人だった。

 四人は顔を近づけ、二言、三言ささやく。

「やっぱり・・・。絶対に渡すもんか、わたし達がさきに確保するんだ・・・」

 最初の少女が言い、全員が瞳に決意を浮かべた。



 1.対面

「今日は転校生を紹介します」

 季節は秋、二学期の始業式。

 朝のホームルームで聖アトン学園高等部の二年三組の担任教師、和田教諭が喋り始める。

 教諭の後ろには一人の女子生徒がいた。転校してきたと言うのが彼女なのだと二年三組の全員がわかり、彼女を見る。

 肩より少し下まで伸ばした黒髪と、東洋系のすっきりした顔立ちが嫌でも人目を引いた。

 黒板には和田教諭が、「風向 天奈」と書いていく。

風向かざなた 天奈あまなさんだ。皆仲良くするように」

 初老というべき感じの和田教諭が、小学生に言い聞かせるように言う。

「風向さんは窓側の最後尾の席に座ってください」

 再度、和田教諭の言葉が続き、彼女は席に座った。

 鐘がホームルームの終わりを告げた。

「風向さん。天奈って呼んでも良い?」

 そんな言葉が、天奈の周りを飛び交った。クラスの女子が総出で天奈を包囲していた。

「うん。いいよ」

 天奈は一つ一つに応えていた。が、その言葉は少し片言に近かった。

 人付き合いが苦手な天奈は、こういうのに馴れていない。

 こんな状態がいつまで続くの・・・・・・一日でも早くあのコを探してあげないといけないのに。

 天奈は嘆息していた。


 数日後。

 キーンコーン、カーンコーン。

 学校の終了時刻を告げる鐘が、黄昏の空に響いていた。

 天奈は部活にまだ所属していないので、足早に校門を後にした。

 しかし家には帰らない。待ってくれる人のいない空間である家が、天奈は嫌いだった。天奈はそのまま細い脇道にはいっていく。

 どこかにいくのかと思えば、そこの壁に背を預けてたっていた。

 何かを待つのか、何かに集中しているのか。十数分、天奈は動かなかった。

 突然、なんの予備動作もなしに天奈は動き出した。

 丁度、同じ学校の男子生徒が1人出てきたところだった。

「あなたでしょ。わたしに信号を送ってきたのは。亮さん」

 天奈は、相手の名前を少し冷やかすように言い、いきなり切り出した。

 天奈は亮とは実際には初対面のはずだが、亮は結構有名なので顔を見たことがあった。それは亮も同じで、天奈も有名なので亮も天奈のことを知っていたのである。

 亮はかなりの二枚目だった。顔立ちは整っていて、髪型は無造作。色は少し濃い目の茶色で、夕日に映えている。

「ああ、そうだよ。君の目的は、あのコを救うことなんだろ?そのために転校してきた。どこか違ってるかい?」

 男子生徒、炎城寺えんじょうじ たすくは軽い口調で言った。

「俺は初めからこの学校にいるけど、目的は君と同じだよ。あのコを探し出して助けてあげること。そのために、あのコが誰なのか探してる最中さっ!」

 亮は変わらず軽い口調で話し続けていた。しかし、天奈は内心では苦虫を噛んだかのような想いを抱いていた。

 名前も知らないあのコに呼ばれたのは半月も前だっていうのに、あのコと同じ学校の生徒が見つけられてないなんて・・・。

 あのコを早く助けなきゃいけないのに・・・。わたしと同じ境遇のあのコを・・・。

 天奈の内心を知ってか知らないでか、なおも亮は話し続ける。

「俺も今、あせってるんだ。早くあのコを見つけてやらないと、かわいそうだ。もしも、俺らみたいなのより先に『あいつら』に見つかったら、すげぇ悲惨な目にあっちまう。どんな目にあうかはお前も分かってるだろ?」

「もちろんよ」

 やっぱりコイツも同じ目にあったんだ。天奈は目の前にいる亮に、少しだけ仲間意識を覚えた。

 この二人は互いに心に傷を抱えていた。幼い頃から刻み込まれた、消えない心の傷・・・。これからも消えることはない大きくて黒く、そして深い過去。

 天奈が人とのコミュニケーションを極力避けるようになった理由。亮が人との深すぎる関わりを避けるために軽く振舞っている理由。二つの理由が、その過去には隠されていた。

 そして、心の傷以外にも二人には共通点があった。二人とも親なしなのである。

 親なしであるということが、その大きく黒く、そして深い過去に密接な関係があった。

「だから、君を呼び出したんだ」

 亮が真剣な表情になっていた。

「俺一人じゃ、あのコを探せない。目的が同じなんだから、協力しないか?」

 亮が真剣な表情のまま続ける。

 "協力"の言葉を聞いた瞬間から、天奈の心はこわばっていった。

 協力・・・・きょ・・うりょ・・・・く・・・・・協・・・・・力・・・・。いやだ、その言葉は聞きたくない。その言葉だけは・・・!!!。

「いや!その言葉を使わないで!!」

 天奈は叫んでいた。叫んでいる自覚もないのに、こんなに声が出たのかというくらい大声で叫んでいた。

「"協力"かい?まさか君のパスは、その言葉なのか?」

 亮が心配そうな声をし、天奈の顔をのぞきこむ。天奈は、亮への返答として首を縦に振り、両手で耳を塞いでいた。

 そして、天奈の意識は暗い過去を思い出す。


「A−17。早くこっちに来い」

 いや・・・。そう思いつつも、天奈の足は声のする方へ進んでいった。幼かった頃の天奈。

「今日は、五〇人が一斉に・・・を行う。いいな」

 ・・・の部分には霧がかかったかのように解らなかった。でも、自分が内心ではそれを嫌っている事はわかっていた。なおも進む、幼かった頃の天奈。

「では、自分の椅子に座れ」

 いや・・・い・・や・・・・・。しかし、体は意思とは関係なく動いていく。

「いやぁ!!!!」


 大丈夫か?と、亮が聞いてきた。

「大丈夫。少し思い出していただけ」

 天奈は、疲れ切ったような声で答える。

「ごめんな。俺の言葉のせいでアレをおもいだしてたんだろ?あの言葉はもう使わないよ」

 亮の謝罪が天奈の耳に入ってきた。

「でも、力を合わせてやろうぜ。あのコにも、今、君が思い出していた記憶が植え付けられているだろうから。たぶん、あのコも"後覚醒"だろうから狙われているはずだし」

 天奈の思考力は格段に落ちていたが、肩で息をしながら冷静に考える。

 自分と同じ境遇に立たされたことのある亮。彼なら普通に接することができるだろう。目的を達成させるためにも、都合がいいはずだ。

「ええ。力を合わせるわ」

 相変わらず息は荒かったが、幾分落ち着いた声で天奈は応えた。そして、数分後。

「そういえば、あなたのパスは何なの?分からなくてもし使ってしまったらアレでしょう。教えてくれれば使わないから」

 亮と肩を並べて歩いている途中。

 嫌な記憶を引き出させる力を持つそれぞれの言葉。相手に不快な思いをさせるわけにはいかないな。と、思い天奈は訊ねた。

「何か書くものはあるか?声に出すのは嫌なんだ」

 同じ過去を背負うものなら、誰でも同じ事を答えるだろう。そんな答えが返ってきた。

 誰だって自分の傷を自らえぐるのは嫌なことだ。天奈は、用意していたメモと小さいシャープペンシルを亮に手渡した。

 パスは聞くことによって発動するように指定されていたので、紙に書くのならそうそう嫌な記憶が出てくる事はない。

「俺のパスだよ」

 亮はすぐに書いてメモを返してきた。そこにはきれいな字体で“友情”とかかれていた。

「そのパスのお陰で、今までどんな目にあってきたか、大体想像つかないか?滅茶苦茶大変だったんだよ」

 亮は溜め息混じりにそう言った。相当な苦労があったのだろう。

「最初は小学生ん頃だ。先公が、それについて作文を書けって言ったんだ。書くくらいならまだいいが、そのあと音読してくださいだと。あれはきつかった」

 確かに、亮に決められているパスはいろいろな所で使われている言葉だ。毎回、耳にするたびに苦しんでいたのだろうな。と、天奈は思った。

 天奈のパスだってよくよく耳にした。小学校・中学校ではクラスの目標とかになっていた所為で、一時、登校拒否になるところだった。

「わたしも。中学の担任だった先生がパスの言葉を好んで使っていたから。毎日のように聞かされてた。だから、学校には毎日耳栓を持っていってたな」

 天奈は、自分の辛かったことを理解してくれる同類の人間である亮にいろいろ話していった。亮も亮で同じ境遇を味わっていて、自分の辛さを分かってくれる天奈に今までのことをたくさん喋った。

 今まで、二人が誰にも開かなかった部分の心を開きつつあった瞬間だった。

 二人はマンションの前に来ていた。この辺には他にマンションなどがなく、親なしの二人は必然的に同じ建造物内に住むことになるのだ。正確には義理の親がいるのだが、心に傷を抱えている所為か「この人たちと自分は一緒にいていいのだろうか?」と思ってしまい、一人暮らしをしている。

 二人は別れを告げ、それぞれの部屋に帰っていく。


 キーン。

 天奈は夢の中を漂っていた。一人で夕食を食べ、風呂に入り、床についたあとだった。

 キーン。

 頭の中に響く音。続いて、声が現れる。

『たす・・・け・・て・・・・・。はやく・・・・た・・・・すけて・・・よぉ・・』

 夢の中の天奈は驚愕していた。

 半年前にきた謎のSOS。ぞれが再び現れるとは。

『も・・・・う・・・、おさえ・・・・・き・・れな・・・・・・・い。は・・・・・やく・・・』

 キーン。

 キーン。

 最初に響いてきた音が聞こえ、声は消えていった。

 夢の中の天奈は叫んだ。

『必ず、必ずたすけるから!』


「絶対助けるから!」

 四時五〇分。天奈は自分の声に目を覚ました。

 また、名前も知らないあのコ空の連絡だった。半年もの間ずった聞こえなかったのに、何でまた聞こえてきたんだろう?

 真っ先に思い浮かんだのは、今日会った亮のことだった。

「もしかしたら、同じチカラを持つ人が集まれば集まるほどチカラは強くなっていくの?」

 それにしても、今回のあのコの連絡は異様に苦しそうに聞こえた。抑えられない、とも言っていた。何が抑えられないのだろうか。天奈はそこが気にかかっていた。

「なんにしても、今日亮に会ったらこのことを言わなきゃね。たぶん、あいつのところにもあのコの連絡がいっているはずだもの」

 自分を落ち着かせるためか、天奈は口数が多くなり、口調も強くなっていった。

「絶対あのコを助けるんだ」

 いままで、何度も口にしていた言葉が発せられる。

 それでも、内心の不安は拭い去れなかった。あのコを追っているだろう追っ手への不安。それは大きかったが、あのコがいった『おさえきれない』の方が勝っていた。

 もしかしたら、関わらないほうが良かったのかも・・・

 そんな弱い心が天奈の体を駆け抜けていった。


「はぁ〜」

 朝にまさかあんなものを見るなんて・・・。

 顔を洗いながら、ため息を漏らす天奈。

 目が覚めてから、ずっと『おさえきれない』もののことを考えていた。

 たぶん亮もあの連絡を受け取っているはずだ。亮はどう思っているだろう。わたしは、助けを求めているあのコに対して不安を抱いてしまった。

 これじゃ、あのコを助けるどころじゃない。

 天奈は恐怖していた。今朝のあのコの連絡を聞いてから、あのコに対して。そして、あのコを怖がった自分の心に。

「あのコが悪いわけじゃないのに・・・。なんでこんな気持ちになるのよ」

 自分の部屋で学校に行く準備をしながら、天奈は自然に声が出ていた。

 人間、話せば楽になるものらしい。少しずつ、天奈は落ち着きを取り戻していった。

 落ち着きを取り戻すと、頭に亮のことが浮かんできた。

 そうだよ。今、こんなことを相談できるのは亮だけじゃないの。早く、学校に行って亮に会わなきゃ。

 自分の想いに気付かない天奈は、そのまま家を出る。


 キーン、コーン、カーン、コーン

 鐘が登校時間の終わりを告げた時、天奈は余裕で自分の席に座っていた。

 亮に話すのはすぐじゃない方がいい。まだわたしは動揺しているだろうからまともに話せないかもしれない。

 そう思って、放課後に話すつもりだった。

 放課後になるまでが、なぜか遅く感じられる。

 天奈は、亮を探すために彼の教室の前まで来ている。しかし、転校してそんなに日もたっていないのに、自分から相手の教室に入るのは気が引けた。だから天奈は、教室の出口付近で待っていることにした。

 亮のクラスメート達が天奈に興味津々をいった目線を向けてくる。

 あの子って、三組に来た転校生でしょ。うちのクラスの誰を待っているのかしら。

 そういった声が場に充満していったとき、天奈の待ち人が現れた。数人の男子とグループを組み、笑いながら。

 亮はすぐに天奈を見つけたようだ。仲間に別れを告げ、天奈の方に接近してくる。

 と同時に、その場に負の感情が溢れた。発生源は近くにいた女子達。

 亮は容姿は十分な上、所属しているフェンシング部では全国二位の実績を持っていた。そのため、たまにテレビなどにも出演しファンが多い。そのため、告白なんぞしようものなら半殺しでいいところ。悪ければ・・・・・・。という具合だった。

 そんな気の中、亮は普通に天奈近づいてきた。

「どうしたんだ、天奈。叔母さんからの言付けか?」

 亮はいきなりそんなこと言い出した。

 その場にいる亮以外の人間は唖然としてしまった。が、天奈は亮の意図を汲み取り、言葉を放った。

「そ、そうよ、お母さんから叔父さん宛てに言われてたことがあるの。亮に伝えればお母さんの兄貴である叔父さんに伝わるでしょ。叔父さんは亮のお父さんなんだから」

 少し硬い声だったが、周りの負の気は薄れていった。

 なぁんだ、よかった。ただの従姉妹か。という女子の声が聞こえてきた。

 みんな、興味を失ったらしく散り散りに散っていった。

「で、用件は連絡のことか?」

 皆がいなくなった頃に亮が訊ねてきた。

 ええ、そうよ。と天奈は返した。

「おさえきれない。ってあのコ、言ってた。それで、わたしはあの子の声を聞いて、・・・・・・うぅ」

 天奈の目には涙が浮かんでいた。何でこんなことを思ってしまったんだろうと後悔の念が押し寄せてきた。

「恐怖してしまったのか」

 亮が他の人に聞かせたことがないであろう優しい声で言った。天奈はただただ頷いていた。

「あのコを助けるって思ったのに、あのコに恐怖してしまったの」

「誰だって、あんな声を聞けば恐怖するだろうさ。あの声は聞き手の心を恐怖で支配してしまうような声だった。お前が恥じる必要なんてない。

恐怖しながらでもあのコは助けられるよ」

 限りなく優しい亮の声が天奈を包んでいった。


「あの二人だね。あたし達と同類なのは」

「うん。そうだよ。でも、話すのは明日の方がいいみたいだね」

「これじゃあね・・・。明日あの二人と話してみよう」

 亮と天奈の近く。廊下の角に巧妙に二人の人物が身を隠していた。

 初めて書いた小説なので、読みにくいかもしれませんが、よろしくお願いします。

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