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怪話篇

怪話篇 最終話 天使

作者: K1.M-Waki

     1

「おはようございます、梅宮先生」

「ああ、おはよう。今日の予定は別に変わりないかね?」

「はい。午後の閣議までは別にありません。ですが、先生当てに宅配便が来ておりますが、どういたしましょう?」

「ん? 誰からだ?」

「そ、それが」

「差出人不明か?」

「いえ。それが差出人は『Dr.松戸』となっておりまして」

「なに! ま、松戸だと。中身は確かめたのか?」

「置物のようです、ブロンズの」

「変な物じゃないだろな?」

「はい、危険物ではないようです。X線及びスペクトル分析・超音波分析などでも磁気反応でも、別に問題ありませんでした。少なくとも、爆発物ではないはずです」

「そうか。何の置物だ」

「は、はぁ。鳥……のような、……人のような。よく判らないものですが」

「ふむ、よし、執務室へ運んでおいてくれ。他には?」

「ありません。それだけです」

「手紙もか?」

「はい……あっ、他の方からの手紙は4通ばかり。重要な物ではありませんが」

「そうか、……彼が。差出人の住所は?」

「はい、調べましたが、空き家でした」

「判った。西岡君に伝えておいてくれ。彼が後は何とかするだろう」

「わかりました。他には何か?」

「別にない。ご苦労」


     2

《先生、お電話が入ってますが》

「誰からだ?」

《そ、それが……松戸京一という方から》

「ななな何っ! すっ、直ぐ接なげ。それから、逆探知だ。急がせろ」

《は、お接なぎします》

<もしもし、私だ。松戸だ>

「はいっ、梅宮です。博士、お久し振りです。今までどうしていたんです」

<まあ何だ、色々あってな。それよりあれは届いたかね、あれは>

「え、ああ、届いてますよ。中々の傑作で。また、いつから彫刻もお始めになったのですかな」

<まあな。少し遅いがお祝いだ。勲章もらったんだってなあ>

「それでわざわざ。ありがとうございます。それより、何年振りでしょうか。私供もお捜ししていたのですが、『横浜の大惨事』以来消息がつかめなくて。研究所の方も困ってまして……」

<話せば長い事ながら、だ。少しの間、ゆっくり研究したい事があってな。どこの研究室もゆっくり出来んからなぁ。まあ、それも一段落してね、気が付いたら君が勲章を受賞したって云うじゃないか。君とは昔から色々あったがもう過去の事だからねぇ>

「そうですか。あの事は私も反省しているのです。悪い事をして仕舞ったと思っています」

<いやいや、論文の盗作なんてのは、日常茶飯事の事だよ。もう時効さ。あんただってあの時は息子可愛さのあまりだったんだろうし>

「はあ。そう言っていただけると、少しは心が休まります。それはそうと今何処にいらしゃるのですか? 私だけでなく、皆さん心配してらっしゃるんですよ。『重力制御の理論的定式化』とか『次世代型人工知能』とか、進展の遅れているプロジェクトは5つや6つではないのですから」

<そうかぁ? そんなのは、前に与えた次元方程式を解きゃぁすぐなのになぁ。まだ出来んのかぁ~~?>

「簡単そうにおっしゃいますが、彼等も懸命に努力してるんですから。しかし、本当に今何処にお住まいで?」

<いまねぇ。今いるのはそんなに遠くじゃないんだ。直ぐそこだよ。そのうち、また逢いたいと思ってたんだがな。新しい研究成果を発表しないとならんからな>

「新しい研究? 一体どんな?」

<ん? まあ、大した事じゃないんだ。例の『マインドセンサー』の改良に成功してね。非接触式で最大50Kmの範囲内でディテクト出来るようになったんだ。但し、細かい事はまだ判らんがな。まあ、接触式なら98%までは思考を分析できる。深層心理でも70%は可能だ>

「ほう、それは凄い。格段の進歩ですね」

<ただそれだけでは面白くないから、善悪の判断機能を附けたんだ。中々よく当たる。裁判の手助けになるだろう>

「そうですねぇ。どっちかと言うと、犯罪防止の方に役立ちそうですが」

<おっ、中々鋭いな。実はその線でもう試作品を作ったんだ。どんなのかと言うと、……君、忙しいんじゃないかい? 今度にしようか?>

「いえいえ、今日は午後に閣議があるまでデスクワークしかありませんで。ああ、ちょっとお待ち下さい、予定を確認しますから。小池君、逆探知の方は」

《判りました。都内からです。しかも、例の宅配便の差出人の住所です》

「よし。西岡君を」

《西岡です。既にSGを向かわせました。私もこれから出ます》

「判っているだろうが、無傷で『お連れ』するんだぞ。書類なんかも総てだ。他に知られぬようにな」

《判っております》

「よし。ああ、済みません。ちょっと予定を確認してまして。時間の方は気になさらいで下さい。クレジットナンバーをおっしゃってくれれば、こちらの方でお払いします」

<それは済まんなあ。助かるよ。何の話だっけ>

「はあ、試作品の話だったと思いますが」

<ああ、そうそう。『ベルゼブブ』を知ってるだろう>

「『ベルゼブブ』というと確か、たった3機でアフガンのロシア軍重機動大隊を全滅させた自動殺傷メカで……。その後暴走して、回収に行ったアメリカ特殊部隊と相打ちになったと聞きますが」

<よく知ってるなあ、と言いたいとこだが、実際はそのアメリカ軍を全滅させた後、パワー切れになって動けなくなったとこを回収班が拾って帰っただけなんだけどな。で、あれの改良型に組み込んでみたんだ。凄いぞぉー。自己拡張型人工知能を組み込んで、3種類のスペクトルアナライザーと超音波センサーでターゲットを正確に射殺するんだ。武装には高出力のレーザーと12mm速射ブラスター砲が2門。別に高出力の分子振動装置と20対のワイヤーアームを装備してみた。『ベルゼブブ』の数十倍の機動力と破壊力を持ってるんだ。装甲には弾性セラミックとチタンウィスカーの基礎装甲に特殊強化ポリマーでコートした複合装甲を用いておる>

「ほう。しかしその手のリフォーマブルアーマーは、長持ちしないのでは」

<チッチッチッ。そんな安物とは次元が違うんだよっ。外部からの攻撃の殆どはこの高分子装甲で吸収されるし、たとえ外被殻が損傷してもベースアーマーから染みだしたオリゴマーが表面で重合・架橋する事で常に補填されるようになってるリビングアーマーなんだ。勿論、高分子の原料は空気中から取り込むようになってる。ま、もっとも弾丸が届く前に分子振動装置で分解されるだろうけど>

「ほう、凄いですなぁ。もしも、この技術が応用されれば」

<そうだろう、そうだろう。私は、こいつにさっきの改良型のマインドセンサーを組み込んで、悪人だけを自動的に選択して抹殺するようにプログラミングしたんだ。『エンジェル』と名付けた。中々良い名だろう>

「これは、また、とんでもない物を作りましたなあ。まさかもう」

<いやぁ、まだテスト段階だよ。まさに今、テストの真っ最中なんだ。中々いい具合いだな>

「それは、それは。今度、完成品を見せて欲しいものですな」

<はっはっはっ。そう言うだろうと思ってなぁ、もう送っといたよ>

「え? ……ま、まさか、あのブロンズが」

<ブロンズじゃないよ。『エンジェル103』、104体目の機体だよ。もうそろそろ起動する頃なんだがなぁ。まだ目を覚まさないかい?>

「え? そ、そういえば、お、音が……」

<そうか、動き出したか。これで君の周りの悪人は一人の残らずあの世行きだから、安心して執務を出来るぞお。良かったな>

「う、あ、ああ、……ぞ、像にひびが。で、出て来る。な、どどどどうすれば。は、博士ー」

<何だよぉ。君は勲章貰ったほどだから、悪人の筈はないだろう。だ・か・らぁ、心配なんかする必要はまぁ~ったくないんじゃないかい。あ~と、そうそう。君の寄越してくれた『お迎え』ねぇ、『エンジェル』達に気に入られちゃったらしいねぇ。今、仲良く遊んでるよぉ>

「わわっ、来る、来るな。あっ、あっちへ行けっ。博士ー、何とかなりませんか!わわっ。こっ、小池君!来てくれっ、早く! たた助けてくれっ。」

《先生、どうしました? 先生!》

「わわわっ。くそっ、こいつめこいつめっ。ななな、バカな。銃が効かん」

<だから、言っといたろう。そーいうのは効かないのっ>

「わわぁっ。来るんじゃない、あっちへ行け」

「先生、どうしまし……なっ何だこれはっ!」

「こっ小池君。ななな何とかしてくれ、早く。」

「何とかって、……は、早く非常システムのスイッチを」

「そっ、そうか。これでどうだ!」

「え? ちょちょっと、先生。私がいるのに! 待って下さい、先生」

「悪く思わんで……いやいや、悪く思ってそいつを引き付けておいてくれよ。どうだっ!」

「たたた助け……ハギャャャャァァァァァ」

「ふぁっはっはっはっ。ざまぁみ……そんな! レーザーが。ならこれで……くそっ、これなら……ばかなっ。よし、これでどうだっ」

<まぁ、ゆっくり性能を吟味してな。そうそう、電話代そっち持ちだったっけ。後で請求書送るからな。それじゃ>

「ばっ、馬鹿な。粒子ビームだぞっ、どうして平気なんだ。は、博士、どうにかして……博士!そんな、ぼぼ防弾ガラスが……崩れていく、博士博士、は……き、断れてるうっ。うわぁー、たたた、たすけ……


     3

「それじゃ」

(博士博士~……ぐわぁぁぁぁぁ……)

「ふむ、103も『正常』に動作したな。結構結構。衛星軌道上の自動生産システムも異常ないようだし、各国の有力者へ送った『やつ』もそろそろ目を覚ます頃だろう。これでこの世も平和になるだろうて。やっとのんびり研究出来るというものだ、結構結構。……ん。お前達、もう帰ったのか? 思ったより早かったなぁ。バイオビーストもいたようだが。やはり、強化人程度では相手は勤まらんか。何だ、センサーが反応しておるな。これは……かなり強い。ふぅ~む、また『悪い奴』を見付けたらしいのぉ……」


eof.




初出:こむ 11号(1991年冬)

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