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三題噺もどき5

惜夢

作者: 狐彪
掲載日:2026/07/25

三題噺もどき―きゅうひゃくはち。

 




 ひらひらと。

 黒い光が。

 揺れている。

「……」

 葉っぱのような。

 蝶々のような。

 花びらのような。

「……」

 目を凝らしてみても。

 ぼんやりと光っているだけで。

 なにかは、分からない。

「……」

 ただ。

 うつくしい。

 そう思った。

「……」

 それと同時に。

 いかないでくれ。

 そう思った。

「……」

 黒い光は。

 少しずつ。

 遠ざかっていく。

「……」

 焦るわけでもなく。

 悲しむわけでもなく。

 縋るわけでもないのに。

「……」

 ただ、そこに居て欲しい。

 ただ、離れないで欲しい。

 ただ、いかないでほしい。

「……」

 けれど。

 こちらの意志など。

 お構いなしに。

「……」

 光は。

 ひらひらと。

 離れていく。

「……」

 動くこともできない。

 瞬きもできない。

 呼吸さえしているのか分からない。

「……」

 ただ遠ざかってくのだけを。

 見ている事しかできない。

 ひたすらに。

「……」

 徐々に遠ざかる光。

 何かに溶けるように消えていく。

 気付けばただ暗いだけの場所に居た。

「……」

 ここはどこだろうなんて思いもせずに。

 ただあの光が行ってしまった事だけが。

 無性に思考をかき乱していて。

「……」

 徐々に歪み始める視界の中に。

 いつの間にか現れやしないかと。

 そんなことを思いながら。




「……、」

 何かが真横に落ちて行った。

 視界の端が歪んでいるような気がする。

 広がるのはカーテン越しに入り込む光に照らされた天井。

「……」

 頭の上のあたりでは何かが震えている。

 手を伸ばして引き寄せれば、飴玉の写真が写っていた。

 アラームの画面をいつか変更したまま変えるのを忘れて、そのまま。

「……」

 適当にスライドして、バイブレーションを止める。

 今日は土曜日で、夏休みだから、アラームなんていらなかったのに。

 おかげで、目が覚めてしまった。

「……」

 もう少し。

 待っていれば。

 戻ってきてくれたかも。

 しれないのに。












 お題:蝶々・溶ける・飴玉

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