惜夢
三題噺もどき―きゅうひゃくはち。
ひらひらと。
黒い光が。
揺れている。
「……」
葉っぱのような。
蝶々のような。
花びらのような。
「……」
目を凝らしてみても。
ぼんやりと光っているだけで。
なにかは、分からない。
「……」
ただ。
うつくしい。
そう思った。
「……」
それと同時に。
いかないでくれ。
そう思った。
「……」
黒い光は。
少しずつ。
遠ざかっていく。
「……」
焦るわけでもなく。
悲しむわけでもなく。
縋るわけでもないのに。
「……」
ただ、そこに居て欲しい。
ただ、離れないで欲しい。
ただ、いかないでほしい。
「……」
けれど。
こちらの意志など。
お構いなしに。
「……」
光は。
ひらひらと。
離れていく。
「……」
動くこともできない。
瞬きもできない。
呼吸さえしているのか分からない。
「……」
ただ遠ざかってくのだけを。
見ている事しかできない。
ひたすらに。
「……」
徐々に遠ざかる光。
何かに溶けるように消えていく。
気付けばただ暗いだけの場所に居た。
「……」
ここはどこだろうなんて思いもせずに。
ただあの光が行ってしまった事だけが。
無性に思考をかき乱していて。
「……」
徐々に歪み始める視界の中に。
いつの間にか現れやしないかと。
そんなことを思いながら。
「……、」
何かが真横に落ちて行った。
視界の端が歪んでいるような気がする。
広がるのはカーテン越しに入り込む光に照らされた天井。
「……」
頭の上のあたりでは何かが震えている。
手を伸ばして引き寄せれば、飴玉の写真が写っていた。
アラームの画面をいつか変更したまま変えるのを忘れて、そのまま。
「……」
適当にスライドして、バイブレーションを止める。
今日は土曜日で、夏休みだから、アラームなんていらなかったのに。
おかげで、目が覚めてしまった。
「……」
もう少し。
待っていれば。
戻ってきてくれたかも。
しれないのに。
お題:蝶々・溶ける・飴玉




