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Zだけども  作者: 多幸
8/10

8話 同僚だけども

俺たちは会社に無事たどり着いた。

塀の上で機動隊と遭遇したときは、さすがに少し震えた。

だがなんとか逃げ切り、会社まで戻ってきた。

俺たちの勤める新聞社――

ハザード社。

三階建ての小さなビル。

その二階にある、さらに小さな会社だ。

国からも目をつけられている。

理由は単純。

過激な取材ばかりする新聞社だからだ。

そのせいで機動隊が出入りすることも多い。

もちろん、いい意味ではない。

とりあえず報告するか。

俺たちは歩道から続く階段を上る。

先輩が先頭だ。

二階へ上がると、黒い扉がある。

そこを開けば――ハザード社だ。

二階すべてが会社。

とはいえ、大した広さじゃない。

社長室と、

俺たちがほとんど使わないデスクが並ぶ事務室。

その二部屋だけだ。

だから扉を開けば、すぐ分かる。

誰もいない。

「あー、誰もいないのか」

先輩が呟いた。

「社長に報告しますか」

俺はそう言って、奥の社長室へ向かおうとした。

そのとき。

「わー!」

「うわぁー!!」

俺は驚いて尻もちをついた。

机の影から飛び出してきたのは、少女だった。

ツインテール。

金髪と黒髪が混じった髪。

黒を基調にした派手な服。

ピアスだらけ。

可愛い系――

いや、かなり派手だ。

彼女の名前は

鴨志田 天音。

ハザード社の受付である。

「わはははは!」

天音は俺を指さしながら大笑いした。

「三上っち、しょぼすぎ!

うけるんですけど!」

手足をばたばたさせながら笑っている。

「いや、何だよ天音」

俺は立ち上がりながら言った。

「え?何って!」

天音はニヤニヤしている。

「面白いでしょ!」

「何がだよ」

天音は今度は先輩を見る。

「それにしても足立っちは驚かないねぇ。

ちょっと悔しい」

先輩は肩をすくめた。

「まぁ俺は戦場に慣れているからな」

「取材してたら、こんなのは日常茶飯事だ」

「驚いてカメラの視点が変わるのは、もったいないだろ」

天音が感心したように頷く。

「足立っち、まじ記者の鏡だね」

そして俺を見る。

「それに比べて……はぁ」

ため息。

いや、その顔やめろ。

可哀想な奴を見る目するな。

「いやー、なんだよそのため息!」

「俺だって結構すごいんだぞ!」

もう言ってやる。

「俺は転生者で、元の世界では国も驚くぐらいのスクープを――」

沈黙。

「……」

「……」

天音が俺の肩に手を置いた。

「三上っち」

「どんまい」

(馬鹿にしやがって)

「足立っち」

天音が先輩を見る。

「社長が報告してほしいって」

「あぁ」

先輩はそれだけ言った。

俺の話は、まるで嘘みたいに無視された。

まぁいい。

俺は元の世界みたいに、

承認欲求だけの人間じゃない。

……でもムカつくな。

この世界ですげースクープ上げてやる。

そう思いながら、先輩の後ろを歩く。

社長室に入ろうとしたとき。

「三上っち」

天音が声をかけた。

「あ?」

(また馬鹿にする気か)

天音はニヤッと笑った。

そして親指を立てる。

「まぁ、バズる記事期待してるからね」

ウィンク。

え?

俺はその言葉に引っかかった。

「……今なんて言った?」

天音は一瞬だけ、きょとんとした顔をした。

「ん?」

「なんにも言ってないよ」

「いや、今――」

「それよりさ」

天音は俺の言葉を遮った。

「社長室、早く行ったほうがいいんじゃない?」

にやっと笑う。

話を強引に切られた。

「……」

俺は天音を見る。

いつもの軽い顔。

だが――

ほんの一瞬だけ、

俺を探るような目をしていた気がした。

バズる。

この世界に来て――

初めて聞いた言葉だ。

というか。

俺の前の世界の言葉だ。

なんで天音が知っているんだ?

頭の中に疑問を残したまま、

俺は先輩のあとに続いて社長室へ入った。

社長室はシンプルな部屋だった。

扉を入ると、手前に三人掛けのソファが二つ。

向かい合わせに置かれている。

壁には資料棚と、

何が入っているのか分からない金庫。

そして――

扉の正面、窓際。

そこに高級そうな木製のデスクが置かれていた。

そのデスクに座っているのが、

この会社の社長。

仲川ユニ。

紫のメッシュが入った長い黒髪。

知的な雰囲気を放つ、静かなオーラ。

だが服装は――

Tシャツにジーパン。

正直、社長とは思えない格好だった。

しかも年中この格好らしい。

服にはあまり興味がないみたいだ。

外に出るときだけ、上からスーツを羽織る。

だが、服装を差し引いても――

外見は完璧だった。

端正な顔立ち。

Tシャツのせいでスタイルの良さまで分かってしまう。

二回目の人生だが、やっぱり思う。

高嶺の花。

年齢は知らない。

たぶん二十代後半から三十代前半くらいだと思う。

「じゃあ、今回の取材の報告をお願い」

社長は足を組みながら言った。

「社長、その前に座っていいですか」

俺が言うと、社長は手のひらでソファを示した。

俺と先輩はソファに腰を下ろす。

すると。

「あ、社長」

先輩が口を開いた。

「まずカメラ壊れたんで買ってくれ」

いきなりそれか。

「これじゃ仕事にならねぇ」

「え?カメラ壊れたの?」

社長が少し驚く。

「あぁ、壊れた」

「まぁ最新のカメラさえ買ってくれれば、いいスクープ取ってきてやるよ」

「え?今回のスクープは?」

先輩は急に黙った。

そして。

俺を見る。

……こんな時だけ俺任せですか。

「空振りです」

俺は申し訳なさそうに言った。

「また?」

社長が軽くため息をつく。

「最近多くない?」

「うちの会社のノルマ知ってる?」

「週三本の記事よ」

「覚えてる?」

「あなたたち、先月から記事ゼロなんだけど」

「あははは」

俺は笑ってごまかすしかなかった。

先輩は腕を組んで言う。

「まぁ仕方ない」

「進んでいれば、いつか壁に当たる」

「今は壁に当たってる状態ってわけだ」

いや、それ言い訳じゃないですか先輩。

社長は呆れた顔で言った。

「当たり前のように言われても」

社長が俺を見る。

……気まずい。

「はぁ」

社長は紫の髪を耳にかけた。

「まぁ……仕方ないか」

「次のスクープはお願いね」

先輩が胸を張る。

「あぁ任せろ」

「進み続ければ、壁はいつか越えられるさ」

(かっこいいけど説得力ゼロだ)

「いつかじゃ困るんだけど」

社長は微笑みながら呟いた。

それにしても。

社長は本当に優しい。

聖母みたいだ。

「次の取材は何がしたいの?」

先輩が答える。

「三上はZの記事取りたいらしいから、そっち系の取材がいいな」

社長が俺を見る。

「へぇ、そうなの?」

「三上くん」

「あ……はい」

俺は姿勢を正した。

「俺はZについてもっと知りたいです」

社長が首を傾げる。

「なんで?」

「なんでって……」

俺は先輩を見る。

先輩はキョトンとしている。

いや、あなた一番関係者なんですけど。

「……理由は話せませんが」

俺は言った。

「俺はZが全部悪いとは思いません」

「だからZの真実を暴いて、それを証明します」

社長が少し驚いた顔をする。

それはそうだ。

急に「Zは悪くない」なんて言ったら、

怪しまれて当然だ。

社長の綺麗な目が、俺をまっすぐ見ていた。

見透かされるような視線。

ここで目をそらしたら、何かがバレる気がした。

だから俺は、目をそらさなかった。

すると。

社長の口角が上がった。

「ふふ」

「わかったわ、三上くん」

(バレた?)

「そういうことね」

(やばい)

「今回の取材先で――」

(終わった)

社長は言った。

「Zに恋したのね」

「は?」

(Zに恋?灰色の肌の怪物?に俺が)

そこから社長の謎推理が始まった。

三上の心理。

恋と使命。

Zと愛。

……

10分。

「ね、三上くん」

「そうでしょ?」

「はい……そうですね」

「くー!」

「やっぱり!」

「私の推理は完璧なのよ!」

先輩はソファで眠そうにしていた。

俺は10分間、相槌を打ち続けた。

社長は推理が大好きだ。

子供みたいになる。

頭が良すぎるのか。

想像力がありすぎるのか。

深読みしすぎて――

解釈が違う方向に行く。

Zがいるこの世界は、

意外と平和なんだなと。

俺は天井を見ながら、

そう思った。

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