7話 隊長だけども
金網の近くで、激しい戦闘が行われていた。
紫の光を脈打たせる防具を身につけた者たち。
機動隊。
そして。
灰色の肌をしたまぶたが締まらない怪物。
ゆっくり歩き、人を襲う存在――
Z。
機動隊はZの制圧を行っていた。
その戦場の中で、ひときわ目立つ女がいた。
鷹宮凛子。
鷹宮は戦場の中を舞うように動き、両手に銃を持つ。
銃口をZへ向ける。
次の瞬間。
銃口から光が放たれた。
レーザー弾。
光は一直線に走り、Zの眉間に吸い込まれる。
一発。
二発。
三発。
すべて命中。
Zはその場に崩れ落ちた。
「……これで終わり?」
鷹宮が静かに言う。
周囲の隊員たちが歓声を上げた。
「さすが隊長!」
「ほとんど隊長が倒しましたね!」
鷹宮凛子。
機動隊 二番隊隊長。
部下の一人が話しかける。
「いやー、びっくりしましたよ」
「隊長がはぐれたとき、どこに行ってたんですか?」
「別に……」
鷹宮は視線を逸らす。
私情のため、話せなかったのだ
塀の上の監視から報告を受けていた。
記者が二人、下町に降りた。
そんな無謀なことをする記者は、ほとんどいない。
鷹宮は確信していた。
宗比だ。
足立宗比。
鷹宮はZ討伐よりも優先して、その男を探しに行った。
二日ほど任務で会えなかった。
それだけで――
会いたくなった。
元夫。
そう呼ばれる関係。
だが、鷹宮はその呼び方を認めていない。
離婚届は出されている。
だが仲が悪いわけではない。
休日は普通に二人で出かけるほど仲がいい
ただ。
夫婦ではいられなくなった。
理由は一つ。
足立宗比がZだったこと。
鷹宮はそれでもいいと思っている。
だが足立は、そう思えなかった。
それが二人が離婚した理由だった。
「まぁ、隊長ですからね」
部下が言う。
「たった一人でZ何体も討伐してたんでしょ?」
「流石です」
「……」
その言葉が、少しだけ胸に刺さる。
「隊長知ってますか?」
部下が言う。
「記者が二人、下町に降りたらしいですよ」
「捕まえますか?」
「別に」
鷹宮は淡々と答える。
「ほっときなさい」
「そうですね」
部下は頷く。
「死んでても自業自得でしょう」
「勝手に侵入したんですから」
「生きてたとしても法で裁けばいいです」
「……ん?」
部下が首をかしげた。
「どうしました?」
「鷹宮隊長、汗すごいですよ」
「別に……」
鷹宮は咄嗟に言う。
「思い出したわ」
「侵入した記者の名前、三上って言うらしいわよ」
部下の目が丸くなる。
「さすが隊長!」
「戦闘しながら名前まで調べてたんですね!」
「記者の三上ですか」
「二人いたらしいので、三上とその同行者を――」
「あー!」
鷹宮が叫ぶ。
「どうしました?」
「三上って言ったの適当よ」
鷹宮は笑う。
「あははは」
「嘘嘘」
「適当に言った名前」
「ほら、あるでしょ?」
「隊長の威厳見せたいときって」
「三上なんて嘘よ、嘘」
「あはははは」
部下は困惑した顔をする。
「今日は饒舌ですね」
「よく笑いますし」
「はぐれたあと帰ってきたときもスキップしてましたし」
「機嫌いいですね」
「なにかいいことあったんですか?」
鷹宮の汗がさらに増える。
「あなた……優秀ね」
「え?」
「私に近づかないでくれる?」
「もう自立しなさい」
「あなたならできるわ」
「頑張って」
部下は感動した。
「鷹宮隊長に褒められるなんて!」
「人生で一番嬉しいです!」
「これからも隊長についていきます!」
「……はぁ」
鷹宮はため息をつく。
その部下がさらに言った。
「それにしても」
「鷹宮隊長がバツイチとは思えませんね」
「隊長ほどの女性を別れるなんて」
「元夫は何を考えてるんでしょう」
沈黙。
「元夫……?」
鷹宮が低く言う。
「はい」
「元夫です」
「え?なんですか?」
次の瞬間。
鷹宮は部下の胸ぐらを掴んだ。
そして静かに言う。
「……殺すぞ」
それだけ言って、歩き去った。
部下はその場で固まる。
「……え?」
「なんで急にキレたの?」
※
鷹宮は一人になり、深呼吸をしていた。
胸に手を当て、自分を落ち着かせる。
汗が止まらない。
(宗比が捕まったらどうしよう……)
内心は焦りでいっぱいだった。
(全部、三上のせいにすれば……)
そうだ。
三上が宗比を無理やり連れて行ったことにすればいい。
それで一件落着だ。
それに――
三上は気に食わない。
宗比の相棒とか言っていた。
人生の相棒は私なのに。
決めた。
三上は無罪でも捕まえる。
そう決心したときだった。
「隊長ー!」
部下が慌てて走ってくる。
その顔を見て、鷹宮は察した。
「どうしたの?」
「まさか……宗比が捕まったの?」
「全部悪いのは三上よ!」
「宗比は無罪よ!」
「今すぐ解放しなさい!」
部下はぽかんとした顔になる。
「宗比?」
「誰ですか、それ」
「それより隊長、ついてきてください」
「大問題です」
鷹宮は胸を撫で下ろした。
「良かった……」
「良かった?何が?」
その瞬間。
鷹宮の表情が一変する。
いつもの冷たい顔に戻る。
「別に……あなたに関係ある?」
「い、いえ……すみません」
部下は圧に負け、謝る。
そして鷹宮は現場へ向かった。
(宗比のことじゃないなら、大したことないわね)
そう思って。
塀の前に到着した瞬間。
鷹宮は――
絶句した。
壁に。
凹凸がある。
隊員たちが騒ぎ出す。
「隊長!」
「あの凹凸どう思いますか!」
「Zが侵入したかもしれません!」
だが鷹宮は無表情で塀を見ていた。
内心は違う。
(宗比ーーー!!)
(何やってんの!!)
こんなこと、普通のZにできるわけがない。
怪しまれるに決まっている。
それに。
記者を調べられたら――
宗比のことがバレる。
(三上のせいにするのは無理か……)
(身体検査されたら終わる……)
鷹宮の脳がフル回転する。
部下が何度も声をかける。
だが耳に入らない。
鷹宮は無言で塀に銃を構えた。
レーザー発射。
凹凸を撃つ。
連射。
正確に。
凹凸を消していく。
「ふぅ」
鷹宮は言った。
「いい的ね」
「いい射撃訓練になりそう」
その言葉で空気が止まる。
一人の部下が恐る恐る言う。
「隊長……何やってるんですか」
「見てわからない?」
鷹宮は言う。
「射撃訓練よ」
「いや……これは証拠として――」
「いいから」
鷹宮の目が鋭くなる。
「あなたたちもやりなさい」
その視線は、獲物を狙う鷹のようだった。
誰も逆らえない。
全員が銃を構える。
レーザーが塀へ放たれる。
無造作な射撃。
「こんなことしていいんですか……」
「さぁな」
「でも隊長に逆らうよりマシだろ」
「……それはそうですね」
凹凸は完全に消えた。
「やめ」
鷹宮が言う。
「射撃訓練終了」
全員の手が止まる。
部下が聞いた。
「隊長、こんなことしてよかったんですか?」
鷹宮は答える。
「……だめに決まってるじゃない」
「え?」
「でも」
鷹宮は笑う。
「これで全員加害者でしょ」
「報告したら処罰されるわよ」
「えーー!」
隊員たちが青ざめる。
「今回は無事制圧」
「特に問題なし」
「これで一件落着」
鷹宮は手を叩いた。
「はい、撤退」
部下たちは無言で
塀の上へ戻る準備を始める。
そして。
一人になったとき。
鷹宮は大きくため息をついた。
「宗比……」
「無理しすぎ」
「こっちの身にもなってほしいわ」
少しだけ笑う。
「……でも」
「助け合うって」
「やっぱり私たち――」
「夫婦なのかしら」
鷹宮は静かに笑った。




