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Zだけども  作者: 多幸
6/10

6話 脱出だけども

先輩と俺は、取材を諦めた。

理由は単純だ。

カメラが壊れたからだ。

俺たちは下町から生存圏へ戻るため、塀の前まで来ていた。

だが――

「先輩、どうしましょうか」

俺は塀を見上げながら言った。

塀の高さは30メートル。

どうやって登るんだ、これ。

俺たちが下町へ降りるときに使ったロープは、すでに回収されていた。

つまり。

帰れない。

「んー」

先輩も腕を組み、塀を見上げる。

考えているのは、おそらく俺と同じく、塀の登り方だろう。

機動隊に頼めば助けてもらえるかもしれない。

だが――

俺たちは許可なく下町に降りている。

最悪、逮捕。

先輩の元妻、鷹宮さんに頼めば……。

いや、やめておこう。

俺だけ処刑される可能性がある。

「先輩、どうしましょうか」

俺はもう一度聞いた。

すると先輩は残念そうに言った。

「いやー、ほんとだよな」

「もったいないよなぁ」

「せっかく下町でZ見つけたのに、空振りに終わるなんて」

「カメラさえ壊れてなければなぁ」

……そこかよ。

「凛子にカメラ持ってないか聞きに行くか」

「は?」

思わず声が出た。

「違いますよ!」

「塀の登り方ですよ!」

「まだ下町にZいるんですよ!?」

「それに機動隊に見つかっても厄介なことになります!」

「俺はもう取材できないんで、早く上に戻りたいんです!」

先輩はうんうんと頷く。

「そうだよな」

「塀の上に登って、カメラ買ってでも取材したいよな」

「お前の気持ちはわかる。考えることは一緒だな」

「……」

会話が噛み合わない。

とりあえず頷いておいた。

先輩の思考はいつもズレている。

というか――

スクープのことしか頭にない。

まぁ、そんなところも尊敬しているんだけど。

今はそんなことより。

俺は塀を見ながら呟いた。

「塀の登る方法……」

すると先輩が言った。

「塀を登るのは簡単だろ」

「へ?」

先輩は塀に近づき、腕を引いて構えた。

そして――

ドンッ

拳を塀に叩きつけた。

次の瞬間。

バキッ

塀にヒビが入る。

「もうちょっと強めにやるか」

「え?」

先輩はそのまま拳を叩き込む。

ドン。

ドン。

ドン。

連撃。

すると――

塀に凹凸ができた。

足場だ。

先輩は振り返って笑った。

「簡単だろ」

「できるかぁ!」

思わず叫んだ。

「普通の人間には無理ですよ!」

「それに……法律的にも塀を壊したら処罰されると思うんですけど!」

「ああ、そっか」

先輩は軽く言う。

「じゃあ見つからないように早く行くぞ」

……そういう問題じゃない。

だが登る方法は他にない。

俺は先輩に従うことにした。

「じゃあ俺が凹凸作るから」

「それを足にして、俺の後ついてこい」

俺は塀を見上げる。

高さ30メートル。

降りるときも怖かったが――

登る方がもっと怖い。

先輩は笑った。

「ワクワクするだろ?」

「えーー……」

こうして。

俺は塀を登ることになった。

先輩が先に登る。

塀を殴る。

凹凸ができる。

そこを踏む。

また殴る。

また足場。

まるで壁をクロールしているみたいだった。

塀を殴る音が鳴っている。

機動隊やZに見つかる可能性もある。

だが――

そんな心配をしている余裕はなかった。

俺は必死に後を追う。

上から崩れた土が落ちてくる。

土が俺の頭に積もる。

だが気にしていられない。

上も見ない。

下も見ない。

見たら終わりだ。

マジで怖い。

踏み外したら――

死ぬ。

「三上ー!」

突然、上から声が響いた。

そんな大声出したら見つかりますよ!

そう思いながら顔を上げる。

「え?」

俺は絶句した。

もう先輩、塀の上にいる。

「三上ー」

「ロープか何か持ってくるよ」

「お前遅いから、そこで待っとけ」

「いやいや!」

俺は叫ぶ。

「ここで待つのも怖いんですけど!」

というか――

はやい。

俺のペースに合わせる気はなかったらしい。

俺が待っていると、上から何かが垂れてきた。

ホースのようなものだ。

「三上!」

「掴まれ!」

「引っ張るぞ!」

助かった。

俺はホースに捕まる

これでゆっくり引き上げてもらえる――

そう思った次の瞬間。

グンッ!!

「え?」

一気に引っ張られた。

俺の体が宙に浮く。

「おいーー!!」

「うわああああ!」

俺はまるで垂直跳びのように上へ引き上げられる。

もちろん。

自分では制御できない。

塀の上より高く飛び、宙を舞う。

塀の上を見たとき

先輩が笑っていた。

「三上、楽しそうだな」

「どこがですか!」

「ていうか助けてください!」

俺はまだ宙ぶらりんだ。

このまま落下すれば、下町に落ちて死ぬ

「早く、助けてー」

俺はできる限り叫んだ

先輩は少し考えて言った。

「あんまり大きく声だすと、機動隊がくるぞ」

「言ってる場合かぁ」

「、、、しぁねぇな」

次の瞬間。

ブチッ

先輩は平然とした顔で――

自分の腕をちぎった。

「何してんの!グロい!」

ちぎれた腕が飛んできた。

その腕が――

意思を持ったように俺の服を掴む。

俺の顔が青ざめる。

そして。

ポイッ。

俺は塀の上へ投げられた。

ドサッ。

地面に転がる。

「先輩……」

「そんなこともできるんですね」

先輩は肩をすくめる。

「Zだからな」

「はははは」

俺は塀の上で寝転び、空を見上げた。

先輩の腕はもう再生している。

服の袖だけがなくなっていた。

すげえなぁ。

Z。

とりあえず――

下町は脱出した。

俺は思った。

ハザード社の記者ってマジで命がけだ。

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