表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Zだけども  作者: 多幸
4/10

4話 Zだけども

はぁ、はぁ――

息が入らない。

胸が潰れるみたいに苦しい。

俺は自分の足を叩いた。

動け。

動け。

Zが近づいてくる。

武器はない。

あるのは、メモ帳とペンだけ。

俺の武器はペンだ――

さっき、塀の上で機動隊に啖呵を切った。

「記者の武器はペンだ」って。

……本当に、ペンで戦うのか?

無理だ。

俺にそんな勇気はない。

それどころか――

先輩の首が折れる瞬間から、記憶が曖昧だ。

なぜ俺は倒れている?

何が起きた?

さっきまで、先輩は笑っていた。

いつも通り、写真を撮っていた。

“不死身の記者”。

そう呼ばれていた人だ。

あの人なら、死なない。

危険は全部読み切って、生き延びてきた。

だからこその称号だった。

Zが一歩、また一歩と近づく。

逃げなければ死ぬ。

あるいは、噛まれてZになる。

転生して、

やり直した結果が――Z?

嫌だ。

絶対に嫌だ。

俺は本物の記者になる。

俺は腕の力だけで這った。

地面を掴む。冷たい。湿っている。

そんなことはどうでもいい。

死にたくない。

死にたくない。

その時――

髪に、何かが触れた。

冷たい。

強い力で後ろに引かれる。

首が背中の方へ持っていかれる。

嫌だ。

その瞬間、時間が歪んだ。

視界が白くなる。

走馬灯のように、時間がゆっくり流れた。

――前の世界の記憶。

俺は前の世界でも記者だった。

闇を暴き、真実を伝える。

それが記者だと、本気で思っていた。

国の人体実験。

新人類創造計画。

俺はその証拠を掴んだ。

最初の被験者は――少女だった。

俺は編集長の机に資料を叩きつけた。

正義感じゃない。

世間が食いつく最高のスクープだと思った。

それで少女も救われるかもしれない。

一石二鳥だと、本気で思っていた。

だが返ってきたのは、

「関わるな」

その一言だけだった。

その瞬間、理解した。

俺はこの会社ではやっていけない。

辞めた。フリーになった。

だが、どこに持ち込んでも同じ顔をされた。

「家族がいる」

「恋人がいる」

「危険すぎる」

公開は否定された。

否定されるたびに、俺は彼らを否定した。

中途半端な覚悟で記者なんてやるな。

偽物ども。

吐き捨てた。

気づけば、俺は一人だった。

全部、自分でやる。

会社なんかいらない。

全部、晒す。

動画で。

俺の顔も出す。

死を恐れず、真実をさらした者。

それが“本物”だと信じていた。

殺されるなら、それでもよかった。

この世に未練なんてないと思っていた。

動画が完成した深夜。

マンションの屋上に立つ。

パソコンを開く。

アップロード画面。

あとはエンターを押すだけ。

俺は塀によじ登った。

真実が広まる前の景色を見たかった。

どう変わるか、楽しみだった。

下を見下ろす。

世界は小さかった。

俺は自由だ。

誰にも縛られない。

俺が思うままに真実を伝える。

俺は本物の記者だ。

笑いがこぼれた。

指をエンターにかける。

その瞬間。

――足場が消えた。

身体が浮く。

押されたのか。

踏み外したのか。

分からない。

風が耳を裂く。

落ちていた。

俺のそばでパソコンが舞う。

手を伸ばす。掴む。

エンターを押す。

命のことなど考えなかった。

これで、本物だ。

地面が迫る。

衝撃。

赤が広がる。

身体は動かない。

視界が滲む。

だが、俺は笑っていた。

パソコンは横にある。

画面は光っている。

壊れていない。

アップロードバーは――止まっていた。

その瞬間、息が漏れた。

死ぬことよりも、

あと少しで届くはずだった真実が止まったことの方が、苦しかった。

誰かに連絡を――

携帯。

……そうだ。

俺は一人だった。

仲間なんていなかった。

出会った人たちは、みんな止めていた。

身の丈に合わないことをするなと。

もしかすると、

本気で心配してくれていたのかもしれない。

そう思うと、後悔しかなかった。

俺の命は、何も残せなかった。

仲間を切り捨て、

本物にもなれなかった。

俺は――口だけの記者だった。

それを理解しても。

それでも俺は、

本物の記者になることを

諦めきれなかった。


二度目の人生でも、本物にはなれなかった。

でも――

仲間はできた。

ハザード社の同僚。

命知らずの先輩。

本物の記者たちだ。

異世界に来たことには、意味があった。

そう思えた。

不思議と、死が少し軽くなった。

Zの手が、俺の首を掴んでいる。

折るなら優しく頼むぞ。

ははは。

二度目の人生は、意味があったと思う。

先輩にも会えた。

仲間にも会えた

もっと学びたかった。

もっとスクープを取りたかった。

涙がこぼれる。

口から出た言葉は、一つだけだった。

「ありがとう」

――その瞬間。

轟音。

何かが破裂した音。

温かいものが、頭上から降りかかる。

俺は、死んだと思った。

だが。

Zの力が、緩んだ。

……え?

助かった?

機動隊か?

俺はゆっくり振り向く。

そこに立っていたのは――

顔のない、人間。

俺は叫んだ。

「ぎゃああああああ!!」

正直、Zより怖い。

怖さを通り越したのか、身体が動く。

俺は立ち上がり、逃げようとする。

そのとき。

「三上……オレオレ」

聞き覚えのある声。

俺の体温が、一気に下がる。

振り向く。

首が、背中側に向いたままの先輩が立っていた。

「首、戻してくれない?」

軽すぎる。

こんな口調の知り合いは、一人しかいない。

俺は震えながら聞く。

「先輩……何者ですか」

少しの間。

そして。

「俺……Zだけども」

先輩は、Zだった。

――続く。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ